【関治之(せき はるゆき)経歴】
東京都デジタルトランスフォーメーション(DX)フェロー
開発者として主に位置情報系のサービスを数多く立ち上げ、テクノロジーを活用したオープンイノベーションについて研究してきた。
東日本震災時に情報ボランティア活動を行なったことをきっかけに、住民コミュニティとテクノロジーの力で地域課題を解決することの可能性を感じ、2013年に一般社団法人コード・フォー・ジャパン社を設立。
以降、「テクノロジーで、地域をより住みやすく」をテーマに、会社の枠を超えて様々なコミュニティでも積極的に活動する。社会課題からエンターテインメントまで、幅広く様々なハッカソンを実施している。
合同会社Georepublic Japan 代表社員/CEO。一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事。神戸市 チーフ・イノベーション・オフィサー。総務省 地域情報化アドバイザー。内閣官房 オープンデータ伝道師。
中国から広まった新型コロナウイルス(COVID19)は、その後世界中に感染が拡大し、様々な混乱を引き起こしている。日本も例外ではなく、少しでも早い収束に向けて様々な関係者が奮闘しているが、イベントの自粛や全校休校、それに伴う経済活動の縮小やフェイクニュースを引き金としたトイレットペーパーの買い占め、感染者への差別的言動など、混乱を象徴するようなニュースが連日報道される状況である。
そんな混乱が続く中、2020年3月4日に東京都が開設した「新型コロナウイルス感染症対策サイト」が話題を集めている。
発端はそのサイトのソースコードをオープンソースとして公開したことだ。
それに多数の民間エンジニアが呼応し、ボランティアでサイト改善につながる様々な貢献を行っただけではなく、他地域のエンジニアが東京都のサイトをもとに、地域版のサイトを開設するといった動きにつながった。自治体サイトの構築は仕様発注により行われるのが通例であることを思えば、こうした動きは間違いなく新しい流れである。
本件に深く関わるCode for Japan代表の関治之氏にその裏側を含めて話を伺った。
石塚(インタビューアー):関さんがどのような活動をしているのか教えてください。
関:一般社団法人Code for Japanの代表のほか、東京都のデジタルトランスフォーメーション(DX)フェローや、神戸市のチーフ・イノベーション・オフィサーなどを務めています。活動としては、行政のテクノロジー活用という側面と、地域コミュニティが主体的に地域課題の解決をするための支援です。
石塚:神戸市のチーフ・イノベーション・オフィサーはいつから務めているのですか。
関:2016年からですね。東京都は2019年から入らせていただいてます。
石塚:東京都のDXオフィサーになられたきっかけは。
関:自分は以前ヤフーで働いていて、現在東京都の副知事をされている宮坂学さん(元ヤフー代表取締役社長)とは当時から知り合いだったので、そのご縁でお声掛けいただきました。
石塚:ヤフーでは宮坂副知事と一緒のプロジェクトをされていたのですか?
関:部署は違ったので同じプロジェクトということはなかったです。山が好きな宮坂さんがヤフー時代に「マウントソン」というハッカソンイベントを開催したことがありました。その運営を自分が手伝ったりしていたので、面識があったんです。
宮坂さんはCode for Japanの活動もよくご存知で、副知事になられた時に外部人材が必要だということでお声掛けいただきました。
石塚:そんな中で新型コロナウイルスの感染拡大が起こったのですが、今回の対策サイトはどのような経緯で立ち上がったのですか。
関:都の問題意識としては3つありました。まず、新型コロナウイルスに関する情報を正しく発信する必要があるにも関わらず、部署ごとにバラバラに発信をしていて集約できていなかった。次に、もっとユーザー目線で分かりやすい発信をする必要性があった、3つ目に、都政方針に従って、テクノロジー活用を進める必要性がありました。
石塚:データは庁内のものを使っているのですか。
関:そうですね。宮坂さんがいる部局の職員が庁内に声を掛けて情報を集めて、データをCode for Japanに提供するというフローで行っています。全体的にものすごくアジャイル的(※1)な動きになっています。
※1 アジャイルとは
設計⇒開発⇒検証⇒リリースという流れを、滝が流れるように段階的に進めていく従来の開発手法(ウォーターフォール)に対して、小さな開発サイクルを何度も繰り返して作り上げていく。ウォーターフォールに比べて仕様変更などに柔軟に対応でき、従来の開発手法よりもリリースまでの時間を短縮できることから、多くのアプリ開発などで採用されている。
石塚:行政の中でアジャイル的な動きが取れるようになるのはいつのことかと思っていましたが、今回は危機感もあって一気に進んだ感じですね。
関:はい。危機感があったことは大きかったですね。
石塚:今回サイトのソースコードなどをオープンソースとしてGitHubに公開されていたことが話題になりましたが、オープンソース文化とGitHubの仕組みを簡単に説明してもらえますか。
関:なかなか説明が難しいのですが、サイトやアプリなどを構成する部品やプログラムなどのソースコードを無償で公開し、誰でも自由に改良・再配布ができるようにしたものがオープンソースです。
GitHubは、エンジニアのハブとなる機能を持つウェブサービスで、世界中の人々が自分の作品(プログラムコードやデザインデータなど)を保存、公開することができるようにしているのが特徴です。
リポジトリと呼ばれるオープンな場所にソースコードなどが公開されていて、SNSのような感じで誰でも「ここをこう改善した方がいいのではないか」という提案をすることができます。
たとえば「てにをはが間違っている」とか「レイアウトの崩れはこうすれば直せるよ」などの軽い部分から、ガッツリしたプログラムの中身まで、様々な提案を行うことで、誰でもそのサービスの「貢献者」となることができます。
世界中のエンジニアがGitHub上にアカウントを持っていて、自分が作った部品をアップしているので、いいなと思ったものがあれば使わせてもらう、逆に自分が作ったものがあれば公開するという「持ちつ持たれつ文化」がオープンソースの醍醐味です。今回、サイトのソース部分を公開しましたが、データは都のオープンデータカタログで公開されています。
石塚:cookpadみたいなレシピ共有サイトと似ていますね。誰かがレシピを投稿して、それを色々な人が実際に料理してみながら「こうしたらもっと美味しくなった」みたいなことをやっているイメージでしょうか。
私もGitHubのアカウントを持っているので、東京都のCOVID19ページを拝見しましたが、その段階でコントリビューター(貢献者)が68名いらっしゃいました。これらの人は知っている方が多いですか?
関:Code for Japanのコアメンバーもいますが、半分くらいは知らない人で、今回初めて一緒にプロジェクトをやりました。
石塚:プルリクエスト(オーナーにソフトウエアの変更反映リクエストを送ること)がどんどんアップされていましたね。
関:あんなにプルリクエストをもらったのはこれまでのエンジニア人生ではじめてです。(笑)。
みんなで頑張ってどんどん取り込んでいって「あー終わった」と思って見ると、またリクエストページが増えているという感じで(笑)。
参考:2020年3月4日のGitHubリポジトリ開設から3月8日までの4日間
1010コミット
68人のコントリビューター(貢献者)
341のイシュー提示(うち229がクローズ)
451のプルリクエスト(うち362がクローズ)
石塚:今回この新型コロナウイルス対策サイトの動きが盛り上がることは予想していましたか?
関:GitHubに公開した最初のサイトは結構頑張って作ったので、多少は話題にならなかったらショックだなとは思っていましたが、正直ここまで反響があるとは思っていませんでした。
(取材・文=石塚清香)
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