復興支援の取り組みを記録したドキュメントムービー
加藤:復興支援の取り組みとして、ドキュメントムービーを制作されました。メディアなどにも取り上げられ、多くの人に観られたと思いますが、ムービーを作る構想はいつ頃からあったのでしょうか。
野中氏:震災直後は写真だけで、動画を録る余裕までなかったんです。ただ、「ハッ!」って気づいて、震災後の2日目から動画も録るようにしました。
加藤:早いですね。
野中氏:ウチはもともと自前で動画制作を続けていましたので、映像として記録するのは自然な流れでした。ドローンも使いましたよ。熊本地震の前年に導入したばかりだったのですが、危険箇所や目視できない現地調査でとても重宝しました。ただ、当初からダイジェストムービーを企画していたわけではありません。とりあえず、記録を残すことが目的でした。
コストをかけずに制作
加藤:ムービーの制作にあたって、野中さんが撮影から編集まで行われて実質お金がかかってないと聞きました。
野中氏:自主制作なので、費用は特段かかっていません。厳密にいえば制作ソフトのライセンス料金ぐらいでしょうか。
加藤:あっさりお話されていますが、とてもすごいことだと思います。
野中氏:すごいかどうかは別として、広報ならではというか、広報じゃないとできない仕事だと思いました。災害のような有事は委託できるような仕事でもないですもんね。
被災者の人にも相談しながら進めた
加藤:いざムービーにするという時に、庁内で消極的な意見はありませんでしたか?
野中氏:庁内からはありませんでした。でも、市民には少しあったと思います。やっぱり、「もう思い出したくない」という人だっていますしね。だから、被災者の人にも内容を相談して進めていました。
その中で、震災後半年くらいで公開するのは、「ちょっと早い」と思ったんです。まだ立ち直れない、まだ前に進めない。そんな人たちがたくさんいるのは聞き取りなどでわかっていたので、もう少し待とうと。
その後、正月を過ぎたあたりで、ちょっと風向きが変わってきた。復興に向けての前向きな空気を感じることができるようになっていたんですね。そこで、全国的にも震災への関心が高まる1月17日の阪神淡路大震災の日に公開しました。
被災地に寄り添える 応援になるような動画にしたい
加藤:「まだ、つらい」と感じる人に対して、しっかりと配慮をされていたのだと思いますが、具体的にはどういうことをされましたか?
野中氏:被災状況を伝える映像は、極力減らしたつもりです。
加藤:ポジティブな情報が多くなるようにということですね。
野中氏:そうですね。強く思ったことは『被災地に寄り添える』『応援になるような』動画にしたいということです。同じ菊池市民でも、たとえば、菊池渓谷が被災しているとか、全壊している地区がいっぱいあるとかを知らない人もたくさんいましたから。
そして次に、支援者へ感謝の思いを伝えたかった。そして、支援してもらっていたことを市民にも知ってもらいたかったのです。
加藤:動画を見た時の反応はどういったものを、想定していたんですか?
野中氏:何も想定できなかったですね。どのぐらい見てもらえるかもわからなかったですし、感動してもらいたいという想いで作ったわけでもありません。「被災者がどう反応するか」というのが1番気になっていました。だから、公開直後から「前向きになれる映像をありがとう」「思い出すのはつらいけど忘れないことの大切さを知りました」といったポジティブなコメントが寄せられてホッとしました。
市民から自治会や子ども会の集会、出張先で流したいと要望が来たり、県外の公的団体や民間企業からも、イベントや研修で動画を使わせてほしいとの問い合わせがたくさん届いたりしたのもうれしかったですね。動画はホームページやSNSで14万回以上再生されています。
加藤:ネガティブな反応はありませんでしたか。
野中氏:特にありませんが、不本意だったことはありますね。あるテレビ局から、「オンラインのウェブサイトで動画を流させてくれ」と声がかかったので、放映してもらったんです。
もちろん、ありがたいことなんですけど、他市のPRムービーとか、まちおこしといった話題性のある「おもしろい」動画と一緒に紹介されたんですよ。多分、再生回数が選択の基準になっていたのかもしれません。それはちょっとがっかりしました。「ウチらは、そういう意図で作ったわけじゃないのに」って。
被災地の思いを伝えるシンガーソングライター
加藤:BGMが印象的ですね。
野中氏:BGMにはこだわりました。訴求力を高めるために、どうしても被災者の気持ちがわかる人に作ってほしかった。そこで、菊池出身のシンガーソングライターに制作をお願いしました。
加藤:どういう経緯でその方に依頼したのでしょうか。
野中氏:実は私自身も音楽をやっているんです。だから、前から素敵な女性のシンガーソングライターが菊池にいることは知っていました。小学生の時から歌っていて、広報誌で取材したこともあったんですよね。本当に地域愛が強く、歌もストレートなので、「BGMを作ってもらうなら、彼女しかいない」と思っていました。
彼女はちょうど音楽大学の1年生になって頑張ろうとしていた矢先に、大学も被災してしまった。「自分は音楽で何かやりたいけど、何もできないんじゃないか」と、結構ふさぎ込んでいたそうなんですよね。
加藤:依頼したのはいつ頃だったのでしょうか。
野中氏:震災から2か月ぐらい経った2016年の6月ぐらいですね。その時にはもうダイジェストムービーのイメージはできていましたので、「実は動画を作ろうと思っている。できれば、復興に向かうイメージができるような曲をつくってもらいたいんだけど」と依頼をしたんです。「もし私で役に立てることであれば」という感じで、快諾してくれました。
動画への協力が、立ち直るきっかけに
野中氏:それから半年ぐらいですね。3曲提供してもらって、そのうちの1曲はわざわざ書き下ろしてくれました。
これは後で知ったんですけど、SNSに私のことを書いてくれたらしいんですね。「地震で大学もいけなくなって、自分の非力さを痛感してとてもふさぎ込んでいました。でも、野中さんから『動画を作りたい。被災者に寄り添った動画を作りたい。だから、協力してくれ』って言われて、自分にもできることがあるんだと思った」って。
それから彼女がチャリティライブをするようになったと聞きました。ありがたいですよね。
加藤:それはお互いにとって、すごく良かったですね。
野中氏:はい。曲もめちゃくちゃ良いんですよ。動画を編集しながら何度も泣きそうになっちゃうんですよね。なんて良い歌なんだろうかと。彼女の歌がなければ、この動画は完成しなかったと思います。
<野中氏が制作したドキュメントムービー>
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 熊本地震発生 家族を真っ暗な自宅に残して役所へ
第2話 自衛隊の活動を見て ボロボロ涙が出てきた
第3話 被災地に寄り添う ドキュメントムービーを制作
第4話 話題性を求めるなら 大手代理店に委託すればいい
第5話 公務員であっても 儲ける流れを作って地域に貢献できる
第6話 「人の人生を良くしたい」という 崇高な意思を貫ける仕事