庁内外とのつないで同じベクトルに向かう
加藤:「つなぐ課」の話だけでも一時間話せそうです(笑)。「つなぐ課」の当初の目的は、庁内の縦割りを打破するというところがあったんですよね?
長井氏:まずはそうですが、課題に応じて庁内と庁外をつなぐことも求められています。課題を分析・分解することによって見えてくる、NPOや民間企業などのステークホルダーをつなぎ合わせて、同じベクトルに導くことが僕らの仕事なんですよね。
加藤:課題は市長から降ってくるんですか?
長井氏:そういう場合と、僕らからボトムアップで提案する場合があります。「こんな課題がある」「面白いテクノロジーやサービス、シーズがあるから、新しい価値が生まれるんじゃないか」と提案することもあります。また、頻度は少ないですが、「縦割りが影響してなかなか進まない」という庁内からの相談もたまにありますね。
加藤:感覚値で構いませんが、上から降ってくる場合とボトムアップの場合との割合はどのくらいですか?
長井氏:昨年度の前半は8:2ぐらい。市長がいろいろ溜め込んでいたものがばーっと出してきた感じですね。市長からはぜひ「つなぐ課」からも提案をどんどんしてほしいという話があり、徐々に僕らがやりたいことも出始めました。
加藤:長井さんが今まで、「つなぐ課」でおこなった取り組みはどのようなものでしたか?
長井氏:主な取り組みとしては、シェアリングエコノミーの活用があります。例えば、傘のシェアリングサービス「アイカサ」をまちづくりにつなげる取り組みです。アイカサは突然雨が降った場合でも、わざわざビニール傘を購入せずに、アイカサを借りて利用し、雨が止んだら最寄りの傘スポットに返却できるサービスです。
市長がニュースを見て「神戸でも入れられないのか」という話が出ました。確かに面白そうと思ったので、すぐにアプローチしていきました。福岡や渋谷で先に導入されていましたが、単にサービスを導入するだけではなく、「雨の日にアイカサを利用する方の人流データを回遊性の向上等に活用できるので、神戸オリジナルのまちづくり実証事業を展開してはどうでしょうか」と提案したら「ぜひ、おこなってほしい」となりました。
市長との雑談がきっかけで連携が実現
加藤:Uber Eatsとの連携が話題になりましたが、どういうきっかけで話が進んだのでしょうか?
長井氏:実はUber Eatsには、シェアリングサービスのひとつとして、もともとコロナ前からアプローチしていたんです。去年の夏くらいに、市長とシェアサイクルのことを話題に話していたんです。その時に僕から「最近シェアサイクルに乗って、Uber Eatsの配達をしている人がいますよね」という話をしたら、市長が「Uber Eatsって何だね」みたいな話になって。「今度説明しますね」と、共通の知人を介してUber Eatsの人にアプローチをして、サービス概要の資料をもらい、市長にプレゼンをしました。
後日、市長から「このサービスの仕組みは面白いので、これを使って課題解決につなげるようなことはできないのか」という無茶ぶりが来ました(笑)。おおっと思いましたが、面白そうだし可能性を感じたのって「ちょっと考えますね」と答えて、早速Uber Eatsと意見交換している中で、コロナのこういうことになったんです。副市長からも「長井くん、Uber Eatsとやり取りしていたよね、あの仕組みで飲食店支援に使えないかな?」という話があって、そこから2週間で記者会見につながりました。
加藤:2週間はすごいですね。どのように動いたのでしょうか?
長井氏:副市長から指示があった翌日に、Uber Eatsの方とオンライン会議をセットしました。どのようなことができるか手探りでしたが、すでに仕組みは理解していたので、スムーズに議論を進めることができました。でも実はそれまで議論を重ねてきた案が、事情により実現が難しいという話になって、発表までに一度潰れかけたんですよ。
そういう話になったのが金曜の夜で、何とか土日の間に代替案をUber Eatsの方と一緒に考えて、週明けに副市長に「実はこういうことがあって、代替案としてこれを考えたんですが、どうでしょう」と言ったら「それで行こう」となって事なきを得ました。でも金曜の夜そんな話になった時は死んだかと思いました、ほんまに(笑)。
加藤:紆余曲折があったんですね。Uber Eatsの連携スキームは、端的にどんなものになるんですか?
長井氏:スキームとしては、Uber Eatsを通じて割引するといったプロモーションを打つ場合、本来は店側が割引分を負担するところを、Uber Eatsと神戸市とで助成するというものです。これは神戸市オリジナルとして考えた支援スキームです。
うちもそうですが、子供がいたらコロナの影響で学校が休みになることで、3食しっかりご飯を作らないといけないので、負担が大変なんです。でもUber Eatsは、サービス料ではやや割高になりがち。少しでも安くすることで「それやったら使ってみようかな」となるかもしれないので、割引の支援にたどり着きました。これによって、飲食店だけでなく、家庭支援にもつなげられるなと。
スキームで悩ましかったのが、デリバリーのエリアが限られているんですね。具体的に言うと、北区や西区、垂水区は対象外だったので、市の政策で、区の格差が生まれるのはどうかという思いもありました。結果的に全ての区をデリバリー対象とはできなかったんですが、その3区では、Uber Eatsを通じてテイクアウトを利用できるようになり、さらにUber Eatsの負担でテイクアウトのサービス利用にかかる飲食店の手数料を約4割減免してもらえることになりました。
参照:神戸市のリリース
市民からのクレームが次の一手のアイディアに
加藤:Uber Eatsの発表会見には、たくさん記者が来ていましたね。
長井氏:20以上のテレビと新聞で扱っていただき、僕もびっくりしました。あんなに取り上げられるとは思ってなかったです。オンラインで記者会見したのも面白いチャレンジでした。
Uber Eatsの人は出席せずに僕が喋るだけでしたが、東京圏のメディアもかなり参加していました。事前に記者クラブに会見案内を配布しに行った時にも、めちゃくちゃ囲まれました(笑)。4月10日の発表でしたが、ポジティブなニュースに飢えてた部分もあるのかもしれませんね。
加藤:記者会見後はどのような反響がありましたか?
長井氏:発表後は市民からたくさん電話がありました。サービスの内容や、どうすれば新規店舗登録できるのか、あるいは「デリバリー対象外のエリアがあるのに、市として不公平な政策をするのはどないなん」とお叱りを受けることもありましたが、そこから次のヒントを得ました。
(編集=市岡ひかり)
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