職員は個々の強みを伸ばす必要がある
加藤:安田さんは人材育成について、変えたいことはありますか?
安田氏:市の職員ってこれをすると決まったことは忠実に、確実こなします。すごく真面目なんですよ。それは非常に素晴らしい気質だと思います。けれども、これからの公務員には自律的で能動的な面もどんどん求められていく。この流れは否めないなと思っています。
加藤:言われたことをやっているだけではいけないと?
安田氏:はい、市民ニーズに対応していくために、また、組織から求められる職務や職責を果たすためにはこの能力が必要というところを、職員がこれまで以上に意識していかなければならないと思っています。そして、そこから生まれた強みというものを、どんどん伸ばしていけるような組織にしていきたいな、と思っています。
加藤:その考えが働き方改革にも、関連しているということですか?
安田氏:まず働き方改革で生まれた時間で自分を見つめて、次にやりたいことを見つけるアンテナを立ててもらう。それによって、行政で活躍する前向きな職員が増えると思っています。行政でやりたいことをやりがいを持って取り組むことが実現できれば、職員それぞれが個々の強みを伸ばす近道になると思います。一生、公務員という枠に縛られることなく、強みを活かして、ポジティブに転職することだって選択肢に入りますよね。
定期人事異動に感じる疑問
加藤:配属先で最善の力を尽くすことが正義、みたいな風潮が自治体職員にはあると思います。でもやっぱり人間には好きな業務と嫌いな業務があるじゃないですか。もちろん嫌いな業務から学べることもあると思いますが、人は好きなことをやっている時の方がクリエイティビティを発揮します。ところが、現状では配属された部署と役職がマッチングしないことが多いですよね。
安田氏:2、3年ごとの定期的な異動が本当に良いのかどうかという疑問はあります。もし、今の部署でやりたいことが明確にあるならば、その職員はずっとその部署で強みや専門性を伸ばしていくことも良いのではないか、と私個人としては思っています。
ただ、先日、人材育成に携わる事業をなされる企業の方と人材育成について話す機会がありましたが、同じ部署に長く居続けると「成長が止まってしまう」という考え方もあるそうです。人材育成のスペシャリスト集団でも数年ごとの定期異動があるそうなので、市役所の人事異動はどうあるべきか?と自分の中で悩みがあります。
加藤:民間でも異動はありますが、その人の専門性が一定程度発揮できる部署に異動させています。一方で役所の場合は、それまでの専門性をほとんど活かせない部署に異動させますよね。それってすごく大変なことで負荷も大きい。職員の自尊心とかも傷つけかねないですよね。
安田氏:市役所の業務は多岐にわたりますので、時には酸性の土壌からアルカリ性の土壌へ動くような異動がありますからね、本当に。
加藤:自分が役に立ちづらい環境って、成果もそうですけど精神衛生上良くないですし、モチベーションも維持できなくなりますよね。職員の多くが将来やりたい仕事を頭に描きながら、役所の試験を受けたと思うんです。でも、望んでいない定期異動や叶わない異動願を繰り返すうちに、やりたいことを諦めてしまった人も多いと思うんですよね。そんな職員の背中をもう一度押してあげる仕組みも、組織の力を高めるためには必要な気がしています。
人事課が人事異動(案)を決めなくてもいい
加藤:異動希望はどういう仕組みで運用されていますか?
安田氏:3年に1回異動希望を出してもらっています。その全てを希望通りに叶えていくことは難しい面もあります。中には若干、後ろ向きな異動希望もあるように感じています。
加藤:どういう観点からそう感じますか?
安田氏:希望先の職場で何を成し遂げたいかというよりかは、単に今の職場でやりがいをみいだせないから変わりたいというようなケースもあるように思っています。
私個人としては、将来的に、人事異動(案)を例えば課長級など一定の職員の間で考えてもいいと思っているんです。副市長がいらしたリクルート社では、課長同士で異動の話が相談できるそうです。「うちの課にこんな能力を持っているスタッフがいるんです。そこで次にそちらの課でこういうスキルを伸ばしてくれません?」とか、そういうポジティブな人事異動の会話がなされる。最終的な人事権は市長にありますが、事前調整として、こんなことが役所起きてもいいですよね。
人事ってよくブラックボックスって揶揄されるんです。ブラックボックスと職員から言われる部分をもっと透明に見える化していきたいと思っています。
時代とともに人事の課題も変化している
加藤:安田さんが人事課に入られてから10年近くになりますよね、その間に人事を取り巻く状況は変わってきていますか?
安田氏:ひとつは、メンタルに不安を抱えた職員が増えているように感じます。本腰を入れて取り組まないと、組織の維持継続に影響を及ぼすレベルにまで近づいていると思います。
加藤:それは具体的にどのような問題ですか?
安田氏:メンタルに不安を抱えたままでは、最大限のパフォーマンスを発揮することが厳しくなります。また、繰り返しになりますが、降任降格制度がないため、降格ができないことも課題ですね。
加藤:個人的には、年功序列の基本給与制度が結果的に、成果を出せない人の尊厳を奪っていると思います。能力以上に出世したり給与が高いと思われたら、組織内でも嫌われやすいですよね。公務員はそういうものだと思って入っている人も多いと思いますが、特に民間企業からの転職者からみると、なかなか腹落ちしづらい状況だと感じています。
公務員の“安定”は時代に合っていない
安田氏:モチベーションでよく引き合いに出されるのがお金ですが、給料というのはわずかな間しか効果がなく、根本的なモチベーションアップにはならないと思っています。大事なことは、やっぱり仕事への熱意ですかね。この仕事が面白い、やりがいを感じられるかどうかだと思います。
加藤:報酬のように外発的動機と言われるモチベーションは一時的なものになりがちです。持続的なモチベーションは、まさにやりがいといった内発的動機から生まれます。
そうなると望まない人事異動というのは、とてつもなくやりがいを削ぐ仕組みだと思いますが、異動せずにそのままやっていく専門職のような形態の採用を増やすことはできないんですか?
安田氏:専門職としての採用募集も重要だと思っています。
加藤:職員はそれぞれに合ったやり方で、世の中に貢献できると思っています。例えば、社会福祉を通じて世の中を良くしたい職員もいれば、町おこしをしたい職員もいるかもしれないし、水道を良くしたいとか、防災で人の命を守りたいとかありますよね。しかし一般行政職員は異動の範囲が広すぎて、職員個人の配属希望に応えられません。
安田氏:おっしゃるとおりと思います。専門性を明確にした採用も重要です。
すごく先の話になってくると思いますが、公務の分野でも一定の任期の中で専門分野で成果を上げていくような採用が増えるのではないかと。
加藤:世の中でフリーランスの人が増えていくことと同じ流れですね。
安田氏:はい。今のところ、市役所での勤務を志望する受験者のなかにも、「安定」の要素があることは否定しきれません。しかし、一生任用される安定した環境が、時代に合っているとは思っていません。
(編集=文書編集チーム、加藤年紀)
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。