ノイジーマイノリティの意見を聞くことは全体の幸福にはつながらない
加藤:どうしても、住民としては言われないとわからないと思うんですよね。これは、水道だけじゃなくて、いろいろな施設でもサービスでも、お金に限界があるっていうのを、住民が理解していく必要があると思うんです。地方自治体はそんなに裕福な状態じゃない。お金が減っていくって時に、文句ばっかり言っていてもダメだと思っているんですよね。
菊池氏:はい。サイレントマジョリティの反対の、ノイジーマイノリティが幅利かせて、そのためにものすごく多大な経費がかかるのは、全体の幸福じゃないと思いますね。
加藤:本当にそう思います。
菊池氏:だから、みんなの幸せが何かというのを考えますよね。切り捨てはしないけども最小限の対応に抑えていくケースもこれから必ずあると思うんです。
加藤:絶対そうあるべきだと思うんです。全体最適を考えないと、せっかく税金を集めた意味がないと思います。
菊池氏:そうですね。部分最適って、その和は全体最適にならない。だから、そこだけ見ていてもしょうがない。
加藤:全体最適を目指すから、広域でまとまっていくわけですし。
菊池氏:まさに、もし市町村組織から水道事業を切り離すことができていなかったら、未だに、老朽化した施設を全部直していかなきゃいけなかったんですよ。しかも不安定な水でも使わざるを得ないから、相変わらずヒ素が出たり、水位が下がって渇水が起きるかもしれない。地震が起きたら水質に影響が出るかもしれない。
施設だけたくさん増えて、それを「ずっと持っておくつもりなのか」と立ち戻ることが、個々の役所の中にいては考えられない。でも、広域で考えたら「ここに、いい水源あるじゃんか」「たっぷり湧いてんじゃん。なんで使わないの?」「そしたら筋悪水源を潰せるじゃん」って話。
広域化に向けての第一歩として何をやるべきか
加藤:「全国でも少しずつ広域化に向けて動きがある」とおっしゃっていましたけども、まだ動けてないところもまだあるじゃないですか? そういうところは、「こういうステップから始めるべき」という、とっかかりみたいなものはありますか?
菊池氏:それは、厚労省が良く考えていて、アプローチとして2通りあると思うんです。例えば、共同処理とか水質の検査とか、そういうところから広域連携としての活動を始め、大きな自治体の事業体の持つノウハウを見ながらも、じわじわじわっと、お互いが顔の見える関係になっていく方法。そういう関係性は大事です。
あともうひとつ、アセットマネジメントを小さい役所でも必ずやるべきだと。大変なのはわかります、だけどやった瞬間に僕がそうなったように、真っ青になりますから。「こんな投資やったら、役所そのものが絶対倒れるな」っていう、そういう数字が出て来るので無視できなくなります。
人間は逃げたくなる
加藤:まだアセットマネジメントという切り口で、見ることができていないような水道事業者って、何割くらいいらっしゃるようなイメージですか?
菊池氏:5万人以下のところでは、かなり多いですね。
加藤:かなりっていうのは、7~8割くらいですか?
菊池氏:感覚的には7割くらいはできてないと思います。大規模事業体はちゃんとやっていますが、中規模でも、分析だけはしても実行はしていない。
恐いのは、全国の水道事業体の9割が黒字を計上しているということ。でも、姿勢正して本当にやらなきゃいけない水道管の更新を進めたら、3倍4倍の事業費をここからずーっと投資しなきゃいけない。だから黒字はフェイク。
「それって可能なの?」って言った瞬間に、経理担当者が「絶対に持たない」って言いますから。「3年持つかな? 5年持つかな?」と。それを、まず水道の担当になった自分自身が調べて状況を理解しないと本気にならない。
しかも、残念ながら人間って逃げたくなるんです。水道事業には3、4年しかいない。「俺がいるうちだけは問題噴出しないでちょうだい」っていうのは、僕は人間の逃げそのものじゃないかと思っている。
墓の中入った時に「しっかりした水道になっているな」と思いたい
菊池氏:でも、水道人の矜持ってあるんです。それって非常にかっこいい、鼻持ちならない言い方をしてしまうんですが(笑)、孫や子供にツケを残すって、かっこ悪いじゃないですか。
だから、本気で思うんですけど、墓の中に入った時に「しっかりした水道になっているな」と思えたらいいな。どこの誰だかわかんない頑固ジジイたちだろうけど、「まあ、かっこええな」って孫の世代が言ってくれたら、それは墓の中で酒盛りできますよ。みんなで酒盛り(笑)。
加藤:(笑)。今後は全国の水道をそういう状態にもっていくような動きをされるのでしょうか?
菊池氏:していきたいですよね。だから、講演などもできるだけお受けして、できるだけ広めていこうとしています。もちろん、いろんな言われ方しますし、「全然席にいないじゃん」ってやつもいます(笑)。だけど、席にいなくても何とかなっているってことなんですね。要するに、できるやつらが組織の中で育ってきているってことです。
加藤:しかも、またそれを他所の地域に伝えられる。それこそ全体最適で言えば、菊池さんが外に出て行くことが、全国の自治体に影響を与える可能性がある。汎用性のある課題で、対応も明確にお伝えできるので、そこから新しい動きが生まれる可能性が高いですよね。
やるんだったら最初にやりたい
加藤:多くの成果を出されていると思いますが、ご自身の強みっていうのは、どういうところにあると思いますか?
菊池氏:(笑)。強みないよね(笑)。
加藤:これだけの成果を出されているんで、あるはずです(笑)。
菊池氏:単に、好奇心がものすごく旺盛だということかなと思いますね。なんでもやってみたいし、失敗したらそれはそれでしょうがないと思います。ただ、やっぱりやるんだったら最初にやりたい。
だから、水道に来ても資金運用なんかもしましたし、その当時の、東京都がやっていたよりずっとパフォーマンス高かったんです(笑)。自慢話になっちゃいますけど、そういうものもやってみたかった。
あと、オンラインのクレジットカード利用の申し込みなんかも全国で最初に入れました。モバイルでも5分で済むんです。それまでは、申請受け付けて1か月くらいかかって、内容が違っていたら、また作業が必要だった。あとは、料金業務の包括委託も東北で最初にやりましたね。
一番先を走っているやつの景色は、二番手以降からは見えない
加藤:オンラインのクレカ利用は、まだ導入しないような地域もありますか。
菊池氏:まだまだ、いっぱいある。一番初めにやるってことはリスクを背負うことになりますよね。どうなるかわかんない。でも一番初めにやると、訳わかんないことがいろいろ起こって、それが全部ノウハウになる。二番手三番手は、そのやり方ができたところにポンっと入って来ますんで、それは楽かもしれませんけどブラックボックスもある。
加藤:そこには暗黙知や実体験がなく、スキームだけがあるということですね。
菊池氏:そうです。残念ながら、一番先を走っているやつの見ている景色は、二番手以降からは見えない。
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 水道事業の広域統合を実現
第2話 夢でしかなかった広域統合
第3話 広域化によって、浄水場の数は34から21へ
第4話 全域で蛇口から直接水が飲める 類まれな国 『日本』
第5話 ノイジーマイノリティの意見を聞くことは全体の幸福にはつながらない
第6話 水ってないと死にますんでね