インタビュー

【奈良市長 仲川げん氏:第2話】職員個人に『追い込み』がかかってくる

仲川げん TOP2話目

入札にだけ参加する「丸投げ業者」が存在していた

加藤:どういう背景で談合するスキームができていたのでしょうか

仲川市長:もともと奈良市には、社員や資機材を抱えず入札にだけ参加する「丸投げ業者」と言われる業者が存在していました。こういう業者は実際の施工能力もなければ、入札に参加するための積算能力もない。すべて下請けに丸投げする訳です。これは受注者としての責任を放棄するだけでなく、業者間の受注調整、つまり談合にもつながる恐れがあります。

 また、わざと安い値段で応札して受注をした後に、あとから難癖をつけて追加工事をとるようなパターンも見受けられます。ひどい場合は落札業者ではなく、談合を仕切っている別の業者がやってきて、「市の仕様書がわかりにくい」とか「こんなん書いてへんやないか」と、いろいろ文句を言って追加で工事をとるということもあったようです。

 これは受注した側の問題でありながら、一方で発注者側である市の仕様の甘さやコストに対する意識の欠落も否定できません。また、直接自分の懐が痛むわけではなく、人の金(税金)でやっているので、体を張ってまで一円でも安く抑えようという意識が低かったようにも感じます。

職員個人に『追い込み』がかかってくる

加藤:職員の方に対してはどのような圧力があるのでしょうか。

仲川市長:昨年は市の企業局(上下水道局)の工事に絡み、ある業者が日本刀で職員を脅して警察に捕まったという事件もありました。この『昭和』の時代みたいな話が、いまだにあるのかと思いますよね。

 市役所本体では制度が改善されていても、水道事業のような企業局や外郭団体などの出先機関となると、ガバナンスが効きにくくなるという傾向を感じました。

 また、周りの職員も問題だとは思いながらも手をつけられずにいた。なぜかというと、結局、その職員個人に『追い込み』がかかってきたりするわけですよね。直接プライベートの携帯にもガンガンかかってくる。

 恣意的に加担する気がなくても、「逆らうとどうなるかわからん」となれば、これまでの慣習や関係性を断ち切りづらい。結果として発注者よりも、受注者の声のほうが大きいという構図が温存されてきた。

仲川げん 2-2

地域のしがらみを切り崩す難しさ

加藤:こういう談合や不正を正常化していく難しさは、どこにあったのでしょうか。

仲川市長:当時、指名停止した201社の中には、議員の親族が経営をしているような建設会社もありましたし、工事だけでなくゴミ収集など市に関係する様々な業者の中には、議員や職員ともつながりの深いところもあり、長年にわたってこれを切り崩すことがはばかられたと。

 また、同和問題を背景にした団体との協議においても、市の職員が団体の構成員として要求側に立ち、一方的に市を突き上げ、時にはエスカレートした要求をするというおかしな構図が過去から続いていました。

「正直者が馬鹿を見る」政治状況をなんとかせなあかん

加藤:議会側が利益誘導に流れてしまうと、市長には厳しい状況になりそうですね。

仲川市長:奈良市の市長は職員上がりの方が歴代で多かったんです。その結果、市が提案した議案はすべて議会でも通る。その代わり、議会の要求はすべて飲むというような文化がありました。

 恐らく、日本中の多くの自治体がそうであったのではないかと思いますが、それを前市長が徐々に切り崩し、少しずつ変わり始めていた。私も一住民として期待の目で見ていましたが、やはり反発もなかなか多く、結果として1期限りでお辞めになってしまった。

 正しいことをしようとした人が途中で挫折してしまう、「正直者が馬鹿を見る」ような政治状況に対し、「なんとかせなあかん」と義憤に駆られ、私は選挙に出たわけです。入札改革にしても、職員の不祥事への対応にしても、業者に対するいろんな指導にしても、今までこの役所の中にいた人であれば、「こないだまで、お前それ認めとったやないか」と言われるわけですよね。

加藤:共犯にされるわけですね。
仲川げん 2-3

複数の事情が重なってガバナンスが欠如していた

仲川市長:昨年、環境部の職員が3名逮捕されましたが、これも根の深い問題でした。この職員は長年、組合の幹部も務めていた現業職員ですが、仕事をしているようなふりをしながら、実際は横領をしていた。

 具体的には市民が持ち込んだ廃棄自転車やアルミ缶などを転売していた訳です。ベテラン職員というだけでなく、組合交渉でも同和団体とのセクション別交渉を彷彿とさせる存在感を示すなど、「おかしい」と思っても、上司も適切な指導が果たせなかった。

 こと、環境部に関しては、過去から親族関係が非常に強かった。そういう意味では組織としての縦のラインが機能しにくい構造がある。その中で人間関係も複雑に絡み合っており、「上司の元上司の息子」が部下にいたりするわけです。

 そして、ゴミ収集業務は「その日の業務をいかに滞りなく進めるか」が至上命題のため、多少の事は目をつぶってでも、職員に機嫌よく働いてもらおうという管理職の心理も、結果的に現場優位な関係性につながっていたと思います。そのあたりがすべて重なって、結果としてガバナンスの欠如につながっていた。

市営住宅の家賃滞納額は累積で6億5000万円に上っていた

加藤:今もまだ、不正への取り組みは続けられているのでしょうか。

仲川市長:はい。たとえば、市営住宅の不正入居問題。調査すると全入居者のうち約2割が名義人と不一致。中には名義人が亡くなった後、その物件を又貸ししたりするケースもありました。

 また、2136戸のうち、422戸が一年以上の家賃滞納。滞納額は累積で6億5000万円に上りました。中には20年以上支払っていない入居者も。そしてこれは恥ずべきことですが、その中に市の職員まで含まれていた。
仲川げん 2-4

問題があった場合は情報開示が解決の近道

仲川市長:さすがにこれはひどいと思い、まず実態を議会で報告しました。こういう案件は情報開示が解決の近道です。下手に隠そうとすると解決が遠のくだけでなく、こちらが刺される。知っていたのに「見て見ぬふり」は同罪。

 すぐに外部の弁護士を入れ、徹底調査と滞納債権の回収、それでもダメな場合は明け渡し請求を行うという方針を打ち出しました。大抵の滞納者は応じてくれるのですが、最後まで従わず最高裁まで争う住人がいると思ったら、なんと、市の職員でした。

市民の知らないところで重要な覚書が結ばれていた

仲川市長:そもそも市営住宅は建設コストが高く、施設の整備・維持コストの面からも見直し余地が大きいと考えていました。というのも、2階建ての住居を鉄筋コンクリート造にしているんですよね。普通はそこまでしないでしょう?

 当然のことながら、担当課に抜本的な見直しを指示しましたが、いつまでたっても改善案が出てこない。挙句の果てには「あれもダメ」、「これもダメ」、で「当初計画がベストです」と。

 これはしばらく後になってからわかった話ですが、過去の市長時代に、「鉄筋コンクリート造2階建」で200戸を建て替える、という内容で解放同盟と覚書を結んでいたのです。これは平成14年2月、同和対策事業特別措置法が失効する直前です。市民の知らないところで将来の財政を縛る重要な方針が結ばれている。

仲川げん 2-5

仲川市長:この覚書の存在も、正義感のある職員からの情報提供がなければ、表に出なかった可能性もあった。おかしい、と感じていた職員もいたはずですが、なかなか声を上げることができなかったのだと思います。

 この問題は私個人の政治姿勢というだけではなくて、「多くの市民がその状況を許すはずがないだろう」という考えがやっぱり根底にある。『市民正義』を貫く、というと大げさかもしれませんが、この基本的な考え方を、具体的な行動を通じて市役所全体で共有したことで、少しずつ変わってきたように感じます。ちょっと時間はかかりましたけれども、本来のあるべき姿を、ようやく取り戻したと思います。

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※本インタビューは全9話です

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