インタビュー

【三芳町長 林伊佐雄 #5】住民の「住んで良かった」が大きな喜び

林いさお5

町の魅力が町民以外にも伝わっていった

加藤:住民の方々が喜んだ取り組みは、どのようなものがありましたか?

林町長:広報では三芳町を対外的に発信した結果、町民のみなさんから「広報誌が毎号楽しみです」と言ってもらえるほど喜んでもらえました。三芳の人だけではなく、他の自治体のみなさんからも反響があります。町民の方が喜ばれると職員のモチベーションも上がりますから、広報担当者を公募したこと、そして、広報担当職員の仕事は大成功だったと思っています。

 あと、さきほどお話した『三富新田』の研究をしたことは、『世界一のいも堀りまつり』のイベント開催につながったり、それに協力していただいた地元の川越いも振興会が「第54回農林水産祭」で天皇杯を受賞したりと、非常に良い取り組みでした。農家のみなさんも自信を持つことができたし、周りからも着目してもらえるようになり、私が発信していきたいと思っていたことが、みなさんに認められてきた感触があります。

地域の仲間の支えによって 自分の力が発揮できている

加藤:民間のプロ経営者と言われる方のように、すでに成功されている首長が他の自治体で活動することで、日本全体を見た時にプラスになることがあると思います。
ご自身でやりたいことが三芳町でできた時、そのノウハウを他の地域の首長として活かしたいと思いますか?

林町長:ものごとがうまく運ぶ背景には、自分の力だけではなく、地縁や血縁、友達など、自分を応援してくれる人がいます。いろんな人に支えられているからこそ、自分の力が発揮できると思っています。

 たまたま私はここで生まれ育ち、たくさん仲間がいるなかで良い成果が出せているかもしれません。しかし、個の人間として違う地域へ行った時に、どこまで力を発揮できるかはわかりません。

「三芳町に住んで良かった」が大きな喜び

加藤:自治体でお仕事されていて、どのような時に醍醐味を感じられますか?

林町長:大勢の方と出会えて、いろんな人の意見を聞ける。それが勉強になります。

 そして、多くのみなさんの意見を聞いたうえで自分の目標を掲げ、それに参加していただいて達成していく。そういうサイクルのなかで、住民のみなさんに「三芳町に住んで良かったな」とか、「三芳町の魅力ってこうだったんだ」と思ってもらうことが、大きな喜びにつながっています。

 先にお話しした補助金公募制で気が付いたことがあります。「補助金を出せません」と通知した団体とも後日ミーティングをして、改めて評価をさせてもらいました。町内のいろいろな団体のみなさんと意見交換をすることで、「三芳町はみなさんに支えていただいている」と改めて強く感じました。私はよく『良樹細根』という言葉を使いますが、良い樹木は細い根がたくさんあるように、町はいろんな人に支えてもらっていると改めて感じました。

 住民も職員もまちを支える大切な根。その根底にある日本の文化や歴史を守りながら小さな町「トカイナカ三芳町」ですが、日本を支える根になっていきたいですね。

(編集=鈴木ゆりり・加藤年紀 写真=鈴木ゆりり・佐久間智之)

編集後記

 林町長の「おもしろい」「変わっている」「やる気がある」職員が大事という考え。異分子を嫌うと言われる役所文化にとって、トップがこう示すことはとても大きい。そして、もうひとつ忘れてはならないのが「失敗をしても良い」という言葉だ。

 技術の進化が進み、労働集約産業から知識集約産業へと移り変わって来た。民間企業では一社員のアイデアが、大きな成果を上げることは少なくない。そのため、社員一人ひとりが力を最大限発揮できる環境を整えつつある。しかし、私の知る限り、自治体の環境はその対極に位置することが多い。若手中堅の中で、正しいことに挑戦しようとする人材は増えているにもかかわらず、組織が失敗を恐れるがあまり、挑戦する文化が失われている。加えて最も危惧すべきは、それが職員のモチベーションをも奪うことだ。

 地方自治体の仕事には多大な価値がある。そして、地方自治体は職員個人の集合として構成され、一つひとつの実務をこなしていくのも職員だ。その職員にとって望ましい環境を用意することの重要性は、もっと意識されるべきだろう。林町長の話を聞いて、「おもしろい」「変わっている」「やる気がある」職員が伸び伸びと働ける環境を望む。

 このように書くと、好き勝手にやる職員は「迷惑だ」とか、「使えない」という意見が現れるが、それはあまりにも短絡的ではないか。自治体では失敗を恐れるあまり何もやらせないという文化が当たり前だったため、部下の目指す方向性を修正しつつも、前進させていくリスクテイクの知見が足りないのではないかと思う。しかし、それは経験によって蓄積されていくものだ。その環境を用意する過渡期を恐れるべきではない。

 現代の組織には、個人の持つ推進力を正しい方向性に向けることが、成果をあげるために求められる。個として考えると、やる気のない者からそれを引き出すよりも、やる気はあるが方向性がややズレている者を、軌道修正する方がより現実的だ。

「おもしろい」「変わっている」「やる気がある」という要素を感じるからこそ、枠にはまらない力強さと可能性を秘める。しかし、そこでなすべきことは挑戦をさせないことではなく、「失敗する確率を下げる」、「失敗した時の損失を小さくする」などの環境を、上司や組織全体が用意し、適切に挑戦させることではないかと思う。それが林町長の「失敗しても良い」という発言の真意ではないだろうか。

※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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