文=納 翔一郎(富田林市)
地方公務員のみなさん、所属する自治体の財政状況を確認したことはありますか?自分の財布の中身はきちんと把握していたとしても、所属する自治体の財布の中身を把握していない地方公務員は多いのではないかと推察します。
今回の地方公務員オンラインサロンは、地方自治体の財政診断に関する講義でした。財政未経験の私でもわかりやすい財政に関するお話で、とても学びが多い時間になりました。本記事で全ての紹介は出来ませんので、内容を抜粋してご紹介します。
・自治体をグループ企業に見立ててみよう
・経常収支比率に着眼した決算カードの読み方
・押さえておきたい2つの経常収支比率
・行政キャッシュフロー計算書
・修正損益計算書の読み方
・4つの検査値で診断する3つの病名
・黒字なのに財政危機!?涌谷町のケース
・行政キャッシュフロー計算書で読みとく地方財政
・行政CF計算書で検証する平成の大合併の財政改善効果
・改善策は財政問題から逆算して考える
・経済の自立なくして財政の自立なし!診断の地方創生への活用策
今回のセミナーは、新著『自治体の財政診断入門 「損益計算書」を作れば稼ぐ力がわかる』(学芸出版社)に沿ったお話でした。
鈴木さんは元々銀行で勤めていたということもあり、「自治体の財政を融資判断する」というコンセプトで書かれた本だそうです。講義全般を通じても、「地方自治体を会社に見立てる」という前提で進行しました。
今回はオープンセミナーで民間企業や金融機関、メディアなどの参加者がいたこともあり、地方自治体を財政の視点でまとめた体系図の説明も冒頭にありました。改めて「財政」の視点で地方自治体を見ると、いつもと違う組織の見え方がして面白いお話でした。
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まずは、決算カードの読み方です。
決算カードとは、「地方財政状況調査表」をベースに地方自治体の財政状況を1枚にまとめたものです。決算カードには様々なことが書かれていますが、「経常収支比率(経常経費充当一般財源等/経常一般財源等)」を中心に分析を行います。
経常収支比率の見方はとても簡単で、100%で収入と支出が同じ、100%を超えると赤字というものです。分母の「経常一般財源等」は歳入の状況から分析し、分子の「経常経費充当一般財源等」は性質別歳出の状況から分析します。このように決算カードは、「経常収支比率」というゴールから逆算して分母と分子をそれぞれ細かく見ることで、地方自治体の財政分析に繋がります。
鈴木さんが臨時財政対策債を入れた経常収支比率の分析を行った結果、100%以上の地方自治体は33しかなく、半分弱が、90%未満であったことがわかりました。このような結果であれば地方自治体の財政状況は健全に見えますが、臨時財政対策債が経常的なものとなっていることに疑念があるそうで、鈴木さんは「やはり赤字債として見るべきではないか?」と語りました。
財政担当部局にならない限り「決算カード」をほとんど見ることはありませんが、「決算カード」の読み方を知ることで所属する自治体の様々な側面を見ることが出来るかもしれません。ぜひ皆さんも、まずは所属自治体の決算カードを確認してみてください。
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次は、行政キャッシュフロー計算書と修正損益計算書です。
行政キャッシュフロー計算書は、日々の行政サービスに伴う収支の「行政活動の部」、建設事業に伴う支出と投融資の増減の「投資活動の部」、そして、借入や現金預金の増減の「財務活動の部」の3つに分けて考えた財政の持続可能性を診断するためのものです。そして、修正損益計算書は、行政キャッシュフロー計算書の「行政活動の部」を示すものです。詳細は新著『自治体の財政診断入門 「損益計算書」を作れば稼ぐ力がわかる』(学芸出版社)をご覧いただければと思いますが、財務省が融資審査の一環としてモニタリングしているものが、行政キャッシュフロー計算書だそうです。
・要因は収入減か支出増か?
・収入が減ったのはなぜか?
・支出増なら押し上げたのはどの費目か?
・平均と比べて高いのが低いのか?
財政の分析を行う時は、このような問いで掘り下げていくと例示をお話いただきました。そして、改善策の説明をする時は、逆の順番で進めるそうです。
鈴木さんは、「みんなで話し合うツールとして、これらのツールを活用してほしい。」と考えられています。みんなで同じ指標を見ながら議論することで、本質的なことが見えてくるのではないかと、このお話を聞いて私は強く感じました。
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次は、財政の健全性を示す4つの検査値です。財政診断において、「借入過多」と「収支悪化」、「資金ショート」という3つの病気があります。これらが健全であることを確認するために、以下の4つの検査値があります。
・実質債務月収倍率
・行政経常収支率
・積立金等月収倍率
2019年1月30日、宮城県涌谷町が財政調整基金の枯渇を見据え、財政非常事態宣言を発令しました。これは、2018年11月に、財政健全化審査会意見書で「問題なし」との評価を監査委員から得たばかりの中での出来事でした。
涌谷町の財政状況を確認すると、経常収支比率は近年良くなっており、将来負担率も全然悪くない指標でした。しかし、財政の健全性を示す4つの検査値においては、債務償還可能年数が2017年から悪い数字になっていました。その原因は、行政経常収支比率が悪化しており、基金がなくなってきていることにありました。財務省も同様の診断表を渡してアラームを流していたのですが、監査委員の見方が真逆だったという結果で起きた事例です。収支悪化の要因には、扶助費の増加や復興交付金の減少などがあったそうです。
鈴木さんが涌谷町みたいな収支悪化の地方自治体を調べたところ、66市25町村あったそうです。そして、いずれの自治体も扶助費と繰り出し金が高いという特徴もありました。この現状を見る限り、同様の自治体は同じリスクを抱えているかもしれないと私は感じました。
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次は、京都市と大阪市を例にした財政比較です。京都市の財政が厳しいことはニュース等でご承知の通りで、財務状況のクロス図などにも数字として表れています。要因は、収支悪化よりも借入過多のウエイトが重いことです。実は10年前までは、大阪市も同じような状態でしたが、現在の大阪市は改善しています。では、この10年でどのような違いがあったのでしょうか?
大阪市も京都市も、事業費を借入金で埋めていたという構図は同じでした。しかし、この10年での事業費の減らし方が大きく異なりました。その結果、大阪市は借入圧縮のペースに入り、京都市はあまり減らせなかったために資金不足を解消するのに至らなかったという結果です。
京都市の改善目標は、収支改善策と借入圧縮策の2軸で行われるでしょう。具体策としては、増収策、経費削減策、新規借入圧縮策の3つです。この整理から、収支計画を立てることが重要となるそうです。
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最後に、鈴木さんから財政の言語を共通化させることについてのお話がありました。地方自治体の財政も企業と同様の分析や見方をすることで、「市民全体への理解を共通にできるのではないか?」というものです。専門用語の多い地方自治体財政の無益な論争をなくして、建設的な議論をすることができるようになる可能性が増えるとのことでした。そして、次の仕事や見解に活かせてもらえたらと鈴木さんは考えているそうです。
本セミナーでは、他にも小規模自治体の財政の特徴や平成の大合併を財政指標で見る、地域経済の自立などのお話もあり、とても盛りだくさんの内容でした。これらの話も含めて、伝わる地方自治体の情報発信の一環として、財政の言語を民間企業と同じレベルにすることは、とても大切なことなのかもしれません。
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今回の鈴木さんのオンラインセミナーでは、自治体の財政診断について、数字や表の見方を一つひとつ、しっかりと学ばせていただきました。今まで漠然としか理解していなかった財政状況について、自治体を民間企業に見立てて考えることでとても理解が深まりました。住民と共通の言語化を行うことで、より透明度の高い財政運営が出来るのでではないかと私は感じました。未来の自治体を考える上で学びたいことをしっかりと学べた非常に内容の濃いオンラインセミナーでした。鈴木さんの新著『自治体の財政診断入門 「損益計算書」を作れば稼ぐ力がわかる』(学芸出版社)を、改めて深く読み込みたいと思います。
大和総研金融調査部主任研究員。1993年立命館大学卒、七十七銀行入行。2004年財務省出向(東北財務局上席専門調査員)を経て2008年から大和総研。中小企業診断士、FP1級技能士。日経グローカル「自治体財政 改善のヒント」、財務省広報誌ファイナンス「路線価でひもとく街の歴史」連載中。他執筆多数。共著書に『地銀の次世代ビジネスモデル』日経BP社、2020年。
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