国と地方は 必要な人材像を改めて考えなければならない
加藤:ちなみに僕、地方自治体の異動はあんまり良い制度じゃないと思っているんです。
脇氏:そう思います。
加藤:国は国で早くて、1~2年で異動しますよね。あれって短くないですか?
脇氏:短いですよね。
加藤:特に僕がもったいないと感じるのは、いままでの経験を生かせない異動が多いことなんですよね。
普通の民間企業は、特別な事情がないと、今までの実務スキルや知識が生かせない部署には異動させないと思うんですよね。ただ、地方公務員の方の異動の実情を聞くと、結構、多くの方が過去に学んだ実務スキルや知識を、ゼロに近くなるまでリセットしてしまっている気がしています。
脇氏:本当にそう思います。これから先、国と地方の役割分担を進めていく中において、地方の中でも県と市がある。どこの組織に、専門人材が必要なのか、ジェネラリストが必要なのかというのも、もっとちゃんと議論していかなくちゃいけない。
公務員の専門家が育たないから 民間の受け入れる場所がない
脇氏:あと、公務員の人材の流動性がもっとないとダメですよね。
加藤:民間から公務員になる人は結構いても、公務員から民間がないですよね。
脇氏:ですね。どっちもまだまだ必要かなと思ってます。民間の感覚を持った公務員がもっと生まれてくれたらいいし、公務員の感覚を持った民間の人が生まれてくれたらいい。そうすることで、二つの世界がもっと融合していくと思ってます。
加藤:流動性を下げている大きな理由も、異動だと思っているんですよ。自治体の中の3年って、「そこそこやっていて、詳しい」みたいな感じになるじゃないですか。でも、民間企業の感覚では結構厳しいと思うんです。
例えば、民間企業が人事担当者を採用するための面接で「私、10年役所で働いて、3年間人事やっていました」って言われても、年齢と合った専門性を持っているのかと思ってしまう。つまり、「年齢の割には、3年間の人事経験しかないのか」と感じてしまうと思うんですよね。
脇氏:専門家が育たないから、民間の受け入れる場所がないんですよね。
加藤:それでも無理して転職しようとすると、給料も下がり、新しい組織に馴染まなければいけない。公務員の方からすると、そこまでして民間に行かなければいけない必要性がないと思うんですよ。
脇氏:そうなんですよね。
民間と一緒になって 新しい可能性を模索していきたい
加藤:何か良い方法はありますか?
脇氏:人材の部分で思っているのは、これは既に島原市が先駆的に取り組んでいるんですが、例えば、1~2週間でもいいからベンチャーに行くとか。ベンチャーが生きるか死ぬかでやっているような中で、死ぬ気で仕事をさせられるとか。そうしたら、自分たちが普段知らない世界を肌で感じられる。
そこから、人が交流することで『ベンチャー×行政』という、いままであまりない組み合わせで、新しいプロジェクトや連携が生まれてくるかもしれない。1~2週間だから出張扱いにできると思うし、さっき話をした『よんなな人事会』とかで、そういう新しい可能性を提案できたら良いなって思っています。
行政が持っているパワーは お金や規制だけではない
加藤:最後の質問です。公務員で仕事をすることの『だいご味』を教えてもらってもいいですか?
脇氏:「世の中を良くしたい」という、世の中のあるべき姿を、ムチャクチャ声を大にして言えて、それを行いながらもお金を頂いている。もちろん、組織のしがらみがあったり、嫌なこともあると思うけど、本当に大事なことを、仕事を通じて世の中に反映することができる。自分の人生の時間を使いながら、そんなことができるって、最高じゃないですか?
加藤:うらやましいです(笑)。
脇氏:そうですよね(笑)。それに、行政が持っているパワーって、お金とか規制とかそういったものだけじゃないと思っていて、もっと大きな力として、権威付けとか、お墨付きを出すことができる。
加藤:公務員が叩かれている部分があっても、一方で信用がありますよね。
脇氏:その信用は行政が、まだまだ価値を使い切れてないところだと思っています。行政が使えるお金は、これからどんどん減っていくわけじゃないですか? その中で、お金のかからない力をうんと使いたいなと思っているんです。
だから、「BIG BONSAI」じゃないけど、こういう一見、『無価値』と思われているものの『価値化』。そういうところを、これからもっとやっていけないかなと思っています。
加藤:そうですね。行政は『可能性の塊』だと思います。長時間ありがとうございました。
脇氏:こちらこそ、ありがとうございました。
編集後記
脇氏は私がいままで出会った人の中で、一番の『人たらし』かも知れない。もちろん、良い意味で言っている。
人間の感じる幸福、もしくは不幸の多くは、人の繋がりを通じて生じて来るものだと思う。脇氏の存在する場は、常に幸福な空気に満ちている。だからこそ、周りに自然と人が集まるのだろう。
脇氏は「行政が本来持っているパワーである『権威付け』や『お墨付き』を使いきれていない」と言っていた。これは全く持ってその通りだと思う。一方で、そもそもの話として、公務員は個人として既に『権威付け』や『お墨付き』をもらっている状況にあると思うのだが、果たしてこのことを自覚して、活用しきれているのだろうか。
公務員は「住宅ローンを組みやすい」だとか、「結婚したい男性の職業ランキングで1位」であることを、私は言いたい訳ではない。重要なことは、「行政組織に勤めている公務員の貴方だから協力しましょう」という感覚が、民間企業や民間人からすると、山ほどあるにも拘わらず、それに公務員が気づいていないという事実にある。ただし、協力を得られるかどうかは、ひとつ重要な条件がある。それは『熱意』ではないか。
民間人である私が言うのも変な話であるが、『民間人×熱意』という組み合わせは、妙に意識が高い、煩わしい、ややもすれば、少し『危ないヤツ』だと思われるリスクがある。
しかし、『公務員×熱意』というのは、文字を眺めているだけで、なにか座りが良くないだろうか。凛としながらも力強さのある絶妙なバランス、と思うのは、私の勝手な思い込みであるかもしれないが、この組み合わせがあれば、世の中に波及させることのできる力は、民間人よりも圧倒的に強いのではないかと感じている。
翻って、脇氏はまさに『公務員×熱意』という武器をまとっている。そういう状態である脇氏が、今後、どのように「公務員がカッコイイという世界」を創っていくのかを想像すると、心惹かれずにはいられない。加えて、何かできることはないものかと、自ずと思わされるのだ。
もちろん、脇氏の挑戦は簡単なことではないのだろう。ただ、その趣旨に賛同し、集まり、熱意を持って立ち向かった仲間たちにとっては、贅沢で幸せな、そして、かけがえのない時間を共に歩むことができるに違いない。少なくとも私はそう確信しているのである。
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第1話 官僚と地方公務員の壁を壊す総務省官僚
第2話 抽象的な日本はどこにもない
第3話 巨大な元気玉を作る挑戦
第4話 公務員がカッコイイと思われる世の中を創りたい
第5話 5歳の時に幼稚園の中退を決断
第6話 このままだと そのうち死ぬわ
第7話 行政のパワーは お金や規制だけではない
【脇氏の関連記事:小泉進次郎と脇雅昭が語る今後の日本と公務員の役割】
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中巻 思いのある公務員の方と出会うのはすごく嬉しい
下巻 地方公務員の人たちには、自分たちのことを過小評価しないでもらいたい