[記事提供=旬刊旅行新聞]
稲垣えみ子さんといえば、いまどき(失礼!)アフロヘアーでテレビのコメンテーターを務めるなど異色の朝日新聞出身のジャーナリスト。呑み助を自称し、新聞に女性のひとり飲みのノウハウ記事を連載するなど、アルコールの達人だ。
だから、この3カ月にわたる自粛生活には困ったことだろうと推察するのだが、じゃあ、さて緊急事態開け宣言で、勇躍、偏愛しているお店に出掛けたが、万々歳とはいかなかったようだ。
お店は休業前と同じく、おっちゃんが威勢よく出迎えてくれて、いつものメニューを出してくれる。開店と同時に入ったのだが、徐々に常連客も集まり、やあやあとあいさつしたり、ほぼ満席。懐かしい雰囲気に浸れそうなのだが、どこか違う。
お店の復活をよろこんでいいはずが、自分が誰にも話し掛けず、頼みすぎたつまみを隣の人にすすめることもしない。いつもやっていることなのに。そう、どこかで自分は他のお客さんを疑っているのだ、と気づいて愕然とする。おいおい、気持ち緩んでないか、とか団体客が大きな声で盛り上がっていると、ついつい眉をひそめてしまう。
居酒屋は誰もが酔っ払って、誰もが許し許される場所で、だから女1人で行っても、大丈夫、機嫌よくいられたのに、と稲垣さんは嘆く。
この気持ち、僕は分かり過ぎるほど分かる。コロナと自粛のおかげで、自分がどんどん狭量になっていく感じがする。自分が他人にウイルスを移すかもしれないし、移されるのもいやだ。電車の中で誰かが咳をすれば車輛を変えたくなるし、公園でママたちが子供たちに大声を上げさせて、自分も声を張り上げてお喋りしている光景など見ると、無性に腹がたってくる自分がいる。おー、いやなことだ。
コロナの本当の罪科は、「自粛」がいつの間にか「自縮」になり、その結果、世界全体が果てしなく縮み、他人を受け入れる度量がどんどん狭くなっていくことだ。いつかはワクチンも特効薬も、僕はできると信じているのだけれど、それまで世界が縮こまりすぎないこと、自分と違う価値観を抱擁できる世界が保たれること、を祈るのみだ。
ということだから、お宿も自粛解禁でお客様も戻りつつあるようだが、僕個人としては、近隣の商圏からの集客中心で頑張ってもらいたい。要するに、顔の分かるお客様が半分くらいというような営業。首都圏からの集客は本音ベースでは気持ちのいいものではないと思う。Go Toキャンペーンが早めに実施されるようだが、当然、警戒心の緩んだお客の含有率も高まる。3密対策の徹底とその持続、よくよく心掛けてもらいたいと思う。あーあ、僕も猜疑心なく早く旅に出たいよ。
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