[記事提供=旬刊旅行新聞]
やはり9月末に起こった英国、旅行代理店の元祖にして老舗、トーマス・クック社の倒産がショックだ。詳しい分析はこれから出るのだろうが、一方で「起きるべくして起きた」という印象もあるが、どんなに歴史があっても潰れるときは一瞬、というのは諸行無常だなあ、と思う。
現実の死因は、中国資本からの資金注入の道が閉ざされ、キャッシュフローが止まってしまったことのようだ。すでに、1年前には経営悪化で中国から1千億円余りの資金援助を受けていたようだが、すでに焼石に水状態だったのか、すぐに資金ショート。追加融資を求めたが、そこで振られてジ・エンド。
表面的にはブレグジット問題と今夏、欧州を襲った熱波で旅行需要が激減したことによる販売不振が引き金になったと言われるが、問題の本質はそこにはないと考える。
レイモンド・チャンドラーが犯罪について語った名言、「犯罪は病気そのものじゃない。ただの症状なんだ」を借りれば、「倒産は病気そのものじゃない。ただの症状にすぎない」となる。
結局、旅行代理店としての社会での存在意義の低下が倒産という症状を生み出した病根だろう。
それはすでに云云かんぬんされている。ネットによる消費者のエージェント離れということだろう。旅行しようというとき、かつては交通手段についても、ホテル予約に関しても、エージェントに頼むのが早くて、楽だった。それがネットで消費者が自前でやれるようになった。「別に、トーマス・クックなくても旅行できるよね」という消費者の小さな、小さな声が積もり積もっていく。それを放っておいたことが、企業の頓死という症状を生んでしまう。
そんなこと、当たり前でしょ、という声が聞こえてきそうだし、何年も前から警戒信号を出し続けてきたという人もいるだろうが、どれだけ本気だったかというと、かくいう僕も含めて、頭を丸めなければいけないと自戒する。
微細な、とりあえず放っておいてもいいような「不満」の蓄積は、心の奥底で起きていることなので、なかなか察知できない。
結果として、トーマス・クックをこのような症状に追い込んだネット予約の波だって、これからどうだろう? 今の宿泊サイトは確かに便利かもしれないが、僕などその都度、会員登録を要求されたり、身元保証の手続きが何度もあったり、小さな不満が溜まりつつある。もしかしたら革命的な検索エンジンが現れて既存のネット体系を一気に過去のものにするかもしれないではないか。
「頓死」を避けたいのなら、当たり前の日常に潜む、「微細な不満」の小さな小さな声に謙虚に耳を傾ける習慣が必要だ。
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