[記事提供=旬刊旅行新聞]
10月6日、土曜日。大学での午前中の授業を終えて、築地へと急いだ。
もちろん、築地市場最後の日を目撃するための単なる野次馬根性だが、飲食にまつわる取材活動をしてきた身にとっては、朝早く起きての場内取材など何度もやってきて、それなりの思い入れもある。かの牛丼吉野家の1号店も一緒に消えてしまうのかと思うと、やはり歴史の展開だなぁ、と感じいるものがある。
一所懸命、行ったのだけれど、築地場内は閉門が正午。中に入るのは叶わなかったので、外で出入りする車両を眺めたりして、歴史の一コマを脳裏に収めた次第。
ターレという1人乗りのスクーターのような築地独自の乗り物が、何台も発進していた。そのターレ軍団が集団で新市場に向かうイベントは朝5時からだったそうで、それならそれを見逃したのは失敗であった!
結局、豊洲引越しは10日に終わり、11日にはオープンとか。あんなに大騒ぎしたのに、幕引きと幕開けはこんなにも簡単なのかい、揶揄したくもなるけれど、僕の思いはやっぱり築地場内の跡地がどんなふうになるか、なのである。
当面は、オリ・パラに向けた土木工事用の車両基地として使われ、商業用の利用は2021年以降とされている。小池都知事が以前、食のテーマパーク構想などを打ち出していたから、その議論も再燃することだろう。またIRというかカジノ誘致の計画も有力と目されている。
でも、閉門した市場を眺めながら、それでいいのだろうか、という思いが湧き上がる。
今の我われに必要なのは、お金を使って、束の間の興奮を味わうアミューズメント施設ではないのではないか。
ディズニーも大規模な新パークを建設するというし、もうこういうのにはお腹一杯になってはいないだろうか。ちなみに、ご意見はいろいろあろうが、僕はIRにかなり懐疑的な立場だ。銀座という華麗な街の隅に、お魚の生臭いにおいが充満して、作業衣すがたの人がいなせに動き回る泥臭い宇宙があるから、その対比が東京という街の文化的奥行きを作っていたのであって、これがネオン眩しいカジノが来たんじゃあ、安っぽいラスベガスにしかならないだろうと僕などは思う。
必要なのは、我われ普通の国民がいい条件でしっかり働くことができる工場などの生産拠点や、情報集積の超ハイテクタウンじゃないかと思う。
このままじゃ、昔々のリゾート法のときと同じく、日本中「遊ばせ施設」ばかりになって、遊ぶ人(一般消費者)おいてけぼりになったことの再現になるような気がしてならない。僕は築地市場跡地の利用計画が、将来の東京の在り方を示す実験装置になるとみる。
(跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健)
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