[記事提供=旬刊旅行新聞]
(跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授 松坂 健)
先日、大学生に向けたマナー講座の授業を見させていただいた。
挨拶で頭を下げる角度、名刺をもらうときの仕草など、接客時の基本動作だから教えていただいてありがたいことだが、肝心の目と目を合わせる、が抜け落ちていてどうしても気になった。
僕は毎回の授業の時に、出席票代わりのコメント用シートを一人ずつ手渡すようにしている。普通は机の上にたばねて置いて、受講生に勝手に取らせればいい話だが、僕は手渡しながら、おはよう、の一言も掛けて、相手の目をきちんと見るようにしている。もちろん、それに気づいて、きちんとこちらの目を見て微笑みを返してくれる人はいるが、まず10人に1人以下の含有量だ。だいたいが目を伏せて、そのまま通り過ぎる。たまに、学生さんの1人をピックアップして、目を見ながら紙を渡してと代打ちを頼むのだが、感想は「先生、本当に目を合わせてくれないものですね」というのが多い。
アイコンタクトは日本人の動作の中で、最も不得手とされるものかもしれないが、ここはしっかりやってほしいところだ。インストラクターの先生にもここは押さえてほしい。皆さんもね。
思い返せば月刊食堂編集部時代、20代の終わりだったか、アメリカ西海岸の繁盛レストランチェーンの社長を取材していて、「繁盛の秘訣をワンワードで!」と無理な質問を投げかけたら、「そりゃ、君、アイ・トゥ・アイコンタクトに尽きるよ」と明快な答えが返ってきたものだ。
若々しい諸君には細かい動作のチェックよりも、こういう心掛けをコーチングする方が早い。
そういえば、ことが済んだら、お礼状を書こう、という提案。間違ってはいないし、大事なことだと思うが、ルールの押しつけが厳しすぎる。
白い封筒、白い便箋、時候の挨拶はきちんと用語の使い方を間違えずに、誤字が出たら、全部、書き直すほうがいい、といった指導だ。
これは怖すぎる。いくらなんでも、これじゃ委縮して、とても手紙など書く習慣など身に付かないと思う。僕は手紙というのは、こちらの感謝の意を伝達することが第一義で、多少の形式は逸脱したっていいじゃないか、という意見だ。大きな葉書に、ありがとう!とたった5文字を大きく書いただけのものだっていい。というより、そっちの方が生き生きして印象的ではないか。
マナー講座もそろそろ「形式知」から脱出していいのじゃないだろうか。そんなことを考えさせられた。形式が整っていて死んでいる手紙はいやだし、丁寧に頭を下げても、アイコンタクトのない挨拶も虚ろだろう。これからは、そういう簡単なところから接客指導を始めようではないか。
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