「日本一危ない国宝鑑賞」という衝撃的なサブタイトルとともに、2015年に日本遺産に認定された鳥取県・三朝町。そのストーリーは「六根清浄と六感治癒」の独特の世界感である。
三徳山(標高899.6㍍)参拝によって「六根」(目、耳、鼻、舌、身、意)を清め、三朝温泉の湯治で「六感」(観、聴、香、味、触、心)」を癒すという物語は、シンプルながら1000年以上にわたって守り続けられてきた。
天台宗三徳山三佛寺の境内には、国宝の投入堂がある。修験道の開祖・役小角が開いた山岳修験の場であるが、投入堂は、急峻な地形と特異な建築物が岩肌に張り付くように建っていて驚かされる。
その三徳山参拝の拠点となったのが三朝温泉である。
温泉には、独特の「白狼伝説」が残る。源義朝の家来大久保左馬之が、主家再興祈願のため三徳山に参る道中、楠の根元で年老いた白い狼を見つけた。「お参りの道中に殺生はいけない」と見逃してやったところ、妙見菩薩が夢枕に立ち、白狼を助けた礼に、「かの根株の下からは湯が湧き出ている。その湯で人々の病苦を救うように」と源泉のありかを告げたという。これが現在も残る万病を癒やす湯、「株湯」であり、三朝温泉発祥の地となっている。
日本各地にはラジウムを含む温泉は少なくないが、三朝温泉のラジウム含有量は、世界でもトップクラスである。温泉街の各旅館の内湯には、趣向を凝らした個性的なものが多く、まち中を歩くと、ラジウムの気が漂っているように感じられる。
とくに「ラドン熱気浴」は、全国でも珍しい温泉を吸う体験施設である。筆者も体験したが、体中の新陳代謝が一気に進んだように感じられる。
また、三朝温泉病院では、医師の指導のもと、温泉で80度に温めた鉱泥をタオルでくるみ、腰痛、関節痛、肩の痛みなどのある部位を30分程度温める消炎鎮痛の治療法も開発されている。
しかし、「六根清浄と六感治癒」の日本遺産は、2021(令和3)年の総括評価では「再審査」となってしまった。その原因は、三徳山を核とする「守る会」と、三朝温泉などの観光活用が上手く噛み合わなかった点にある。つまり、「六根清浄」と「六感治癒」という一連の物語が一体的に生かされていなかった点に課題があったものと言える。
そしてこの1年を掛けて、文化資源の保全と温泉施設などを含む活用の体制づくり、全体をマネージメントする人材配置、多様な資源を生かした事業創出による自立路線が格段に進展した。文化資源の持続的な保全の仕組みは不可欠だが、そのためにも地域が文化資源を生かして経済を産む循環の仕組みづくりが不可欠である。
これらの取り組みを通じて、文字通り「日本一素敵な」文化観光地になってほしい。
(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)
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