コラム

地方自治体職員とともに歩みたい、ある民間人の独り言 Vol.6-古田智子

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【古田智子氏 経歴】
慶應義塾大学文学部卒。株式会社LGブレイクスルー代表取締役。地方自治体との官民連携事業にコンサルタントとして25年携わる。地方自治体職員の人材育成も手がけ、指導した職員数は20,000人を超える。和光市市庁舎にぎわいプラン専門検討委員会副委員長。著書に「地方自治体に営業に行こう!」(実業之日本社)がある。

ボランティアでもなく、ビジネスでもない官民連携のあり方の可能性

皆さんは日々の業務でどんな民間の方と関わっていますか。
地域住民、NPO、民間企業、商工会、医療関係者、学識経験者。多様なバックグラウンドを持つ方々と共に協力し合いながら住民サービスや地域課題に取り組んでいるのではないでしょうか。
特に災害が多かった今年度はボランティアの方々が大活躍されていました。被災された多くの方々の生活や気持ちに無償で寄り添うその活動には頭が下がる思いです。

ボランティアが差し出しているのは労力なのか

 一方で、地域や社会のために「ずっと、継続的に」ボランティアを続けている人はどのくらいいるでしょうか。もちろんNPO法人を立ち上げて頑張っている住民は数多くいますが、例えば災害発生時に有給をとって駆けつける方、仕事や学業、生活の合間で被災地に駆けつける方の全員が日常生活の中で継続的にボランティアに取り組んでいるわけではありません。

 なぜボランティアに継続性がないのでしょうか。それは、やる気や心根の問題ではありません。

 地域住民、いや私たち誰もが平等に与えられている24時間という時間。それは日常の生活を維持するためのどうしても外せない諸々で埋め尽くされています。その中でのボランティアに取り組もうとすると、大部分の人は「自分の日常生活は優先する中で、できる範囲で時間を割く」というスタンスにならざるを得ません。

 つまり、ボランティアとは労力を差し出しているように見えますが、実は時間を差し出しているという構造が見えてきます。

ボランティアの継続性に欠かせないのは何か

 今やボランティアが必要とされている地域課題は、福祉や災害、まちづくりなどの分野に限らず地方自治体の各所属が対応する全ての領域に及んでいるように見えます。

 財源が逼迫する中で民間の活力を活かして持続的に地域課題に取り組むのが官民連携の基本。ただ、民間の活用にはどうしても「ビジネス」が付き纏うもの。中長期的に課題解決を進めるには、経済原理を回し利益を生みながら進めることが欠かせないからです。

 そこで財源をかき集めてなんとか民間に委託しようとすると、民間からは「ボランティアじゃあるまいし、この費用じゃ難しいです」。

 実はここにボランティアの活動の余地があるのですが、先に触れたように誰もが継続的にボランティアに取り組めるわけではありません。無償であろうとなかろうと、有限で取り返しのつかない資源である「時間」を差し出す必要があるからです。これは都市部であろうがなかろうが、人間であれば全国誰にでも等しく適用される原則といえるでしょう。

 よく都市部に住む人は人口の少ない地域で暮らす人のことを「時間がゆったり流れるスローライフを満喫している」といいますが、これはとんでもない勘違い。
 人の少ない地域では、一人一人に課せられる地域の役割がそれだけ大きくなります。だから土日も地域の会合や何らかの行事への参加があり、とても忙しいもの。
 最近出会った人口5,000人を切る自治体に住む方が「都会の人はこっちの生活をスローライフとか言っているけど本当に腹が立つ」と憤慨していたのを思い出します。

 全国こんな状況の中、どうしたら住民に時間を差し出してもらえるのか。
 それは時間を差し出して取り組む活動について「日常生活の何かを捨てて時間を作ってでも」取り組む価値をどう作り出していくかが鍵となりそうです。

時間を作ってでも取り組む価値あるもの

 では、皆さんは「自分の大切な時間を割いてでも取り組みたいこと」って何がありますか。思い浮かんだいくつかのことは、おそらくご自身が「好きなこと」「得意なこと」なのではないでしょうか。

 もし、地方自治体の各分野で困っていることや民間の力を借りたいことが、地域住民の誰かにとって時間を忘れて熱中するような「好きなこと」「得意なこと」と直結していたらどうでしょう。
 「力を借りただけの対価を支払う」という自治体の調達プロセス、すなわちビジネスの文脈とはまた別の関わり方が見えてきます。
 地域住民にとっては、地域に自分の強みを差し出すことで自分の好きなこと・得意なことを活かす機会を貰えるわけですから、引き受けることそのものがお金に変えがたい体験や達成感を手にすることができます。

 それこそが民間ビジネスで言うところの「報酬」になりかわるものであり、地域住民が継続的に時間を差し出してでも関わってもらえる価値が生まれるのではないでしょうか。

杉並区健康推進課と取り組んだこと

 去る11月30日、東京都杉並区健康推進課が主催するイベント「乳がんでもいきいき働き続けるために必要なこと」が開催されました。
 テーマは「もしも部下や同僚がが乳がんになったら」。働きながら治療を続けた乳がん体験者4名が治療と仕事の両立や職場でのコミュニケーション体験をトークセッションやグループ雑談で参加者と共有するというものです。企業の人事課や男性管理職の方々も数多く参加され、多くの気づきや学びが全体で共有されました。

 このイベント、企画・プロデュース・フライヤーデザイン・WEBプロモーション・演出・当日の司会進行・効果測定全てを筆者が一人の杉並区民個人として担当し、区の健康推進課さんと協力し合って実現したものです。

 非常に本業が忙しい時期でしたが、このイベントの準備や実施のために時間を捻り出すことが全く苦になりませんでした。それどころか、自分の乳がんと治療の両立体験やその過程で得た人脈、つまり自分ならでの強みが多くの方々のお役に立てることが嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした。

 さて、このイベントの事業費について。
 区の規定に則って当日参加分の謝金はいただきましたが、その他の報酬は一切申し受けていません。ボランティアでお願いしますと区から依頼されたから?それとも善意からの行動?
 なんだかどちらも違うのです。

 自問自答した結果、理由は次の3つに集約されました。

ボランティア以上、ビジネス未満

 一つは、「お節介」だから。このイベントは筆者の勝手な申し出「がんの治療と仕事の両立で困っている地域の人の役に立ちたい」という大いなるお節介を健康推進課が快く受け入れて下さって実現したもの。そもそも自分から自発的にお節介したことに対して報酬を要求するなんてあり得ませんよね。

 もう一つはお金をかけずに済んだということ。今まで培ったビジネススキルや知恵が役立ちましたし、自分の専門ではないデザインやWEBプロモーションはその分野のプロの友人が面白そうだからやってみたいと自分の強みを差し出してくれました。

 最後の一つは、対価をすでに頂いているから必要なかったということ。筆者にとって「機会がもらえたことが報酬」そのものだったからです。かえってこちらが健康推進課の皆さんに「自分の強みを活かす機会を下さってありがとうございます」と報酬をお支払いしたいくらいです。

 区の健康推進課の担当係長はイベント終了後、申し訳なさそうな顔で「ここまでの規模でやっていただけたのなら業務委託にすればよかったですね」とおっしゃっていました。
 でも、もし私が区民としてではなく会社を通しビジネスとして業務を受託するとしたらどうなっていたか。私の人件費工数、WEBやデザインを外注、集客コスト、当日の登壇者アサインなど。合計するとゆうに数十万円はかかっていたでしょう。
 それ以前に弊社の管理部から「利益が出ません」とストップがかかり、それこそ「ボランティアじゃあるまいし、この費用じゃ難しいです」といった殺伐としたやりとりを健康推進課との間で繰り広げることになっていたかもしれません。

 金銭的な「報酬」をもらっていないからビジネスではない。でも強みを差し出す機会という「報酬」をもらっているからボランティアでもない。

 こうした関わり方にぴたりと当てはまる言葉を、筆者は今のところ見つけられないままです。
 ただ、最も近い言葉はやはり「お節介」。ボランティアでもなくビジネスでもないお節介という関わり方が、もしかすると官民連携の新たな選択肢となり得るかもしれません。

ポイントは「受け皿となる枠組み」

 仕事で培われたものであれ、趣味や遊びで身に付けたことであれ、誰しも自分が好きなことや得意なことの一つは持っているはず。実は地域住民の中には尖った強みを持つ、それも様々な分野でのハイスキル人材が数多く潜んでいて普通に日常生活を送っています。こうした人たちが地域課題に対して自分の得意分野を差し出すお節介が至る所で見られるようになれば、財源や人材が充分確保できない取り組みにも出口が見えてくる可能性があります。

 ただし、ポイントは「お節介の受け皿」。地域住民が強みを生かしたお節介をしたくても、どんな地域課題のどの部分に強みが生かせるのか現状では全く見当もつかないでしょう。

 もちろん法令や条例、様々な規則などの制約をクリアした上での話ですが「自治体の各課ではこんな課題やお困りごとがあって、こんなことが得意な人に手伝ってほしい、力を貸してほしい」というようなメッセージの積極的な発信が必要です。
 その上でお節介をしにきた人の得意分野がどこで活かせるのかを判断し受け入れ活躍してもらう受け皿になる枠組みが構築できれば、ボランティア以上・ビジネス未満の領域で地域住民の良質な「お節介」を活用した官民連携の新たなモデルケースが数多く生まれてくることでしょう。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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