記事タイトル:熊本地震での高速道路の桁ズレ、「わざとズレるように設計している」はNEXCO西日本が否定
https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/2129062.html
(文=木下義昭)
7月28日16時27分に発生した令和8年熊本地震で、高速道路の橋に大きな被害が出ました。南九州自動車道の妙見第一橋では橋桁がずれ、段差はおよそ1メートルに達しています。この桁ずれをめぐり、SNSでは二つの声が同時に広がりました。「落橋を防ぐためにわざとずれる設計だ」という擁護と、「耐震設計なのに壊れたのか」という失望です。
NEXCO西日本は29日の会見で、前者を否定しています。
この対峙よりも重要なのは『ひとつの前提』を、多くの人に共有し共通認識を持っていただくことだと思います。
その前提とは、橋の耐震設計は、極めて強い地震に対しては「無傷」を目指していないということです。
橋の耐震設計では、大きさの違う地震を想定します。供用期間中に一度は起こりうる程度の地震に対しては、損傷させない。一方、極めてまれに起こる非常に強い地震に対しては、損傷することを認める。そのうえで、落橋や橋脚の倒壊という致命的な状態だけは避ける。つまりは、求める性能が、地震の大きさによって違うのです。
NEXCO西日本の担当者も会見でこう述べています。「大規模な地震が起こった際に落橋、橋脚の倒壊などが起こらないような最低限(の強度)を担保している」。桁が乗る長さに余裕を持たせ、落橋防止構造を付けるのは、ずれさせないためではなく、ずれても落ちないためです。誤解を恐れずに例えるなら、「落橋」とは、橋が地面や川・海に落ちることをになります。この落橋という言葉から連想する状態の乖離がないようにするのが重要だと思います。
やや乱暴なたとえですが、考え方が近いのは自動車のクラッシャブルゾーンです。前部が潰れて衝突のエネルギーを吸収し、乗員の空間を守る。事故車を見て「こんなに潰れるのは欠陥だ」とは言いません。潰れたから助かったと考えます。
ここで気をつけたいのはやはり言葉です。「耐震」「補強」「対策済み」という言葉は、それ自体が完璧な安全という印象を運びます。「耐震補強済み」という一行は、本当は「どの大きさの地震に対して、どの性能を確保したか」という条件つきの話です。
しかし、その条件は、たいてい省略されて伝わります。耐震化率という指標も同じで、分母と分子の定義を省いてパーセントだけを示せば、達成率が安全率のように読まれます。
今回の失望も擁護も、条件を省いたまま考えてしまう私たちの簡略主義が対立構図にしているのかもしれません。
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