インタビュー

【長島町 井上貴至氏】総務省から過疎の町へ派遣、「地域のミツバチ」として革新を起こす

井上貴至1
井上貴至氏の経歴
2008年に東京大学法学部卒業後、総務省に入庁。政治資金規正法、地方分権、拉致問題等の担当後に、2015年4月に鹿児島県長島町の副町長に当時、最年少の29歳で就任。「ぶり奨学金」等、様々な施策で長島町を盛り上げている。

-2015年4月に、鹿児島県長島町の副町長に就任し、様々な地域活性化の施策を行う井上貴至氏。総務省と基礎自治体という2つの組織で仕事をする中で、その実績や考えについて聞いた。

他の自治体が真似できる給付型奨学金「ぶり奨学金」

加藤(インタビューアー):今日はお時間を頂きありがとうございます。早速ですが、井上さんが長島町で挙げられた成果の代名詞と言われる「ぶり奨学金」とはどういうものなのでしょうか。

井上貴至氏:高校や大学卒業後10年以内に長島町にブリのように帰ってくれば、町の作った基金から全額補填します。また、利息分については長島町に戻ってきたかどうかにかかわらず、その年度に支払った額を翌年度から補填します。

ぶり奨学金スキーム

卒業後10年以内に長島町に戻ってきたら全額補填する「ぶり奨学金」

加藤:戻ってきたら負担が無くなるというのはユニークな制度ですね。そもそも何故、この仕組みを作ろうと思ったのでしょうか?

井上貴至氏:僕が長島町に来る前に町内から高校がなくなってしまったんですね。高校に進学するにはバスで片道1時間以上かけて通うか、寮に入るか、家族で引っ越すかと。そうすると追加的なお金がかかってしまう、町から人が出て行ってしまうという課題がありました。

 そういう中で、過疎化が進んでしまうので、外に出て行った若い人達が、将来戻って来る仕組みを作りたかったんです。出世魚のように戻ってきて欲しいということで「ぶり奨学金」というネーミングとなりました。

ぶり

「鰤王」ブランドで有名な長島町のブリ

加藤:給付型の奨学金ということで、貰う側に負担がなくなるというのは素晴らしいと思うのですが、そのお金はどこから捻出されているのでしょうか。

井上貴至氏:地域に貢献意欲のある信用金庫、鹿児島相互信用金庫と提携したというところで1.5%という超低金利でお金を調達し、その元金や利子分については地域住民や町の事業者から寄付をしてもらっています。寿司屋から5千円、介護施設から5万円というものもあれば、漁協でブリが1本売れると1円、他にも、豚が1頭売れると30円の寄付が入ります。

加藤:面白いですね。過疎化が町の課題であると認識し、協力してくれる地域の方も多いわけですね。

井上貴至氏:はい。そしてこのスキームは決して難しいものではないので、色々な自治体でも真似できると思いますし、実際に、群馬県下仁田町や、富山県氷見市でも同様な動きが出てきました。

加藤:地方自治体において横展開しやすい成功事例というのは素晴らしいですね。

井上貴至氏:はい。色々な自治体でできる事例を産み出すというのはこれからとても大事だと思っています。

振り返っても、総務省に入って良かった

加藤:因みに、なぜ総務省に入省されたのでしょうか?

井上貴至氏:総務省は、霞が関で法律制度を作るだけじゃなくて、市町村や自治体の現場の近いところに行く機会もあって、その両輪で働けるというところ、後は、「こういう人になりたいな」、「こんな先輩かっこいいな!」という人がいたことですね。

加藤:なるほど。

井上貴至氏:最近、僕が学生に特に言っているのは、「何がやりたいか」も勿論大事なんですけど、「誰と働くか」の方が大事だと。だって、結婚した人よりも長い時間、一緒にいるわけですよね(笑)。

 官僚になって霞が関で10年20年ずっと忙しいと、日々の業務に忙殺されてしまったりして、どうしても「メリハリ」が付かなかったりすると思うんですけど、総務省は2~3年で地方自治体等を異動しますからね。

 だから、与えられた期間に全力でやろうとするのが凄く強い気がしますし、やはり、霞が関だけじゃなくて自治体で働けるということ。市町村でいうと総務省の時より時間が持てるので、趣味に没頭する人もいれば、自分の好きなことをやりきる人もいます。そういうところで、人間としての深みがあるような面白い人が多かったんじゃないですかね。

加藤:なるほど。他の省庁にはあまり興味がなかったのですか。

井上貴至氏:殆どなかったんですが、警察にはありましたね。柔道をやっていますし(笑)。

 ただ振り返っても、総務省に入って良かったなと。懐が深いんですよね。組織としても、こんな僕みたいな者を許してくれている訳ですから(笑)。僕は当時、若手官僚で唯一、実名でブログを書いていたんです。

加藤:基本的には官僚の方はあまり表には出ないことが多いですよね。職場の立場が危うくなったりしなかったんでしょうか?

井上貴至氏:直属の上司とかはちゃんと仕事しているから、別にそういうことはないですよ。まぁでも、中には、目立ちやがってと思う人はいたかもしれないですね(笑)。

加藤:まぁ、その辺もあまり気にせず・・・。

井上貴至氏:あまり気にしないですね。それには転機があって、東日本大震災以降にブログを書き始めるんですけど、当時色々と考えたんです。「人って、すぐ死んじゃうな」とかね。明日、僕は死ぬかもしれないんですよね。だから、今日を全力で生きようと。

 そう思うと、価値観が変わりました。だからこう・・できることというか、自分が本当にやりたいものをしっかりやって行こうとか。

「地域のミツバチ」として地域の人達の繋がりを作る

加藤:それは、具体的にはどういうことだったのでしょうか?

井上貴至氏:今、地方に欠けているものは「地域のミツバチ」だと思っているんです。元々、地域には面白い人が沢山いるんですが、そこが会うべき人と繋がっていない。イノベーションは結局、「新しい組み合わせ」じゃないですか。

 だから、様々な人が如何に地域の人達と繋がって行くか、そこを上手く創って行きたいと思っています。実は、それは地域の問題というだけではなくて日本全体の問題だと思っています。

 これから世界と同じ土俵で戦っていると、究極的にはアフリカの賃金になっちゃうんですね。そして、ICTも進んできている中で、「人間しかできないことって何かな」と思うんです。

 殆どの「モノ」って時間が経てば経つほど価値が下がるじゃないですか。携帯電話なんて来年は半額ですよね。そうなると、これから人間は、時間が経てば経つほど価値が上がるものを創らなければならないと思うんです。

 その一つが「繋がり・ネットワーク」なんですよ。その繋がりの中を上手く組み合わせて「新しいものを生み出して行く力」が求められているんだと思います。

加藤:ブログを始められたのも、その繋がりを生む為だと・・・。

井上貴至氏:です、です。「holg.jp」では、自治体の職員をピックアップしていますけど、僕のブログは自治体に限らず地域で頑張っている人をピックアップしています。だから、僕のブログってコアな人が多いんですよ。

 単体で月間4~5万ユーザーなので、数としてはそんなに読まれているわけじゃないです。ただ、ちゃんとコアな人がしっかり見てくれていて、知事や市町村長がその内容をそのまま朝礼に使ったりしたということを聞くと嬉しくて、そういうものを作り続けたいです。理想は、「僕のブログに出てくる人なら信頼できる」となることです。

加藤:それは凄くわかります。

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