皆さんは高知龍馬空港に隣接する「物部川」という河川をご存じだろうか。四万十川や仁淀川は全国区だが、「物部川」は、未だ無名である。
しかしこの流域は、高知県最大の平野が広がり、紀貫之ゆかりの土佐国府(国衙)や土佐国分寺・国分尼寺などが創建、1300年前の律令時代から、土佐國のまほろばであった。万葉集や古事記に出てくる「周囲を山に囲まれた実り豊かな地域」であり、土佐発祥の地である。
その物部川流域(南国市・香美市・香南市)は、来春のNHK連続テレビ小説「あんぱん」の舞台となる。当地ゆかりの漫画家、「アンパンマン」生みの親である、やなせたかしさんとその妻・小松暢さんをモデルとしたドラマである。今田美桜さん主演も大きな話題になっている。
やなせたかしさん(1919~2013年)は、東京生まれだが、父方の実家が高知県香美郡在所村(現・香美市香北町)にあり、幼少期は後免野田組合小学校(現・南国市立後免野田小学校)や高知城東中学校(現・高知県立追手前高等学校)で学んだ。少年時代は「少年倶楽部」などを愛読し、中学生のころから絵に関心を抱いたという。
実家の香北町には、やなせ作品を展示する「アンパンマンミュージアム(やなせたかし記念館)」や、やなせさんのイラストや詩が楽しめる「詩とメルヘン絵本館」などがあり、全国から多くのファンが詰めかける。
連続テレビ小説を契機に、来年3月29日から2026(令和8)年2月8日までの間、「観光博覧会」が開催されることになり、筆者もアドバイザーとして参画している。事務局は、この3市にまたがる物部川DMO協議会が担う。
8月初旬、この博覧会の名称やロゴデザイン、各市の取組計画などを議論する委員会が開催され参加した。
各市には、やなせたかし記念館をはじめ、やなせたかしロードなど、やなせさんゆかりの拠点施設があり、これらの整備計画とともに、ガイド養成や域内2次交通、混雑対策などの受入環境整備、さらには龍河洞や絵金蔵など周辺の観光施設への周遊促進、滞在性向上のための街並み整備や高知の強みである食や夜のエンターテインメントなどの施策が盛り込まれた。
こうした対策はもちろんだが、今回の博覧会で何を訴求するのか。地域への滞在価値は何なのか。まんが・アニメは国際的なブームであり、海外のまんが・アニメファンへの訴求とその受け入れ体制の整備などが急務である。
9月下旬には、日本漫画家協会理事長で、やなせたかしさんとも親交があったマンガ家・里中満智子さんをお迎えした講演会も予定している。
「愛と勇気だけがともだちさ」とアンパンマンに語らせたやなせさんの世界観が体感できる博覧会。これこそが重要なテーマともいえる。
(観光未来プランナー 丁野 朗)