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鎌倉の観光地で「食べ歩き禁止」! マナーを、いちいち条例化すべきか? - 長嶺超輝

【長嶺超輝(ながみね・まさき)氏 経歴】
ライター・出版コンサルタント。
1975年、長崎県平戸市生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫して上京。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、『47都道府県 これマジ!?条例集』(同)、『東京ガールズ選挙(エレクション)』(ユーキャン・自由国民社)など、著書13冊。最新刊に、京都市内で実際に起きた悲痛な事件をテーマにした社会派絵本『さいごの散歩道』(雷鳥社)。

国内屈指の人気観光地に、新条例が制定される

政府によって新元号「令和」が発表された2019年4月1日、鎌倉市(神奈川県)では、かねてより話題となっていた条例が施行されました。「公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」です。

古都鎌倉は、日本でも屈指の観光地でもあり、鶴岡八幡宮や大仏、江ノ島電鉄、由比ガ浜など、伝統ある観光資源を豊富に擁しています。さらには、八幡宮の参道の脇にある小町通りなどで、ソフトクリームやクレープなどを手に持って食べながら、お土産品などの買い物などを楽しむ人々も増えています。

お土産を買うにしても、「まず自分で食べて試せる」ことも大きなメリットですし、「その場で食べ歩きを楽しむ」原宿や代官山など都内のお洒落スポットともイメージが重なります。各飲食店も、様々な「食べ歩きグルメ」を用意していますので、それを目当てにして鎌倉を訪問する人々も少なくありません。

そんな鎌倉には今や、国内外から年間で約2000万人もの観光客が訪れるといいます。民間リサーチ会社のブランド総合研究所が毎年発表している「市区町村魅力度ランキング」でも、鎌倉市は全国トップ10の常連です。

外国人観光客を呼び込んで経済を活性化させるため、インバウンド政策を強化したい日本としては、鎌倉が重要な観光拠点として位置づけられるべきであることは間違いありません。

しかし、このたびの「鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」が、観光都市としての魅力を削ぐリスクがあるとも指摘されているのです。

市街地での迷惑行為と、山間部での迷惑行為が混在

鎌倉のマナー条例(第2条別表)で、「迷惑行為」として規定されているのは、次の通りです。

1 土地所有者、管理者その他の許可の権限を有する者の許可無く行う次に掲げる行為
 ⑴ 車道において、立ち止まる等車両の通行の妨げになるような方法で撮影を行うこと。
 ⑵ 線路の周辺等危険な場所で撮影を行うこと。
 ⑶ 山道等通行の用に供された場所から、その場所の外へ立ち入ること。
 ⑷ むやみに竹木を伐採し、若しくは植物を採取し、又はこれらを傷つけること。
 ⑸ 広場又は山道等において、草木その他の燃焼のおそれのある物の付近で火気を使用すること。
 ⑹ 誤った情報を表示し、又は他者の通行に支障を及ぼすような看板を設置すること。
 ⑺ 山道等の狭あいな場所又は混雑した場所で、走りながら歩行者等を追い越し、若しくはすれ違いを行うこと、又は競技会等を開催すること。
2 次に掲げる行為
 ⑴ 山道等の狭あいな場所又は混雑した場所へ、自転車又はバイク等の車両により歩行者に危害を及ぼすような乗り入れを行うこと。
 ⑵ 狭あいな場所又は混雑した場所で、歩行しながら飲食を行う等他者の衣類を汚損するおそれのある行為をすること。

これらの条項のうち、マスメディアは「食べ歩きの自粛」を規定した内容(別表2(2))をクローズアップして報道しがちです。

確かに、食べ歩きの末にできたごみをポイ捨てしたり、混雑の中をすれ違うときに、手に持っていた食べ物が他人の衣服に付いたりする輩が後を絶たないらしいのです。その点では、食べ歩きを「迷惑行為」と位置づけて規制する姿勢にも、一定の評価ができるのでしょう。

別表2(2)の条文では「狭あいな場所又は混雑した場所で」という限定を付けています。つまり、小町通りなどでは食べ歩きを遠慮してもらうものの、そこから脇に入った路地、あるいは幅員の広い歩道などに出たときは食べ歩きしても問題ないと解釈できますので、過度に厳しい規制とはいえません。

ただ、このマナー条例は、「市街地(観光スポット)」の迷惑行為(1(1)(2)(6)、2(2))と、「山道(ハイキングコースなど)」の迷惑行為(1(3)(4)(5)(7)、2(1))とを一緒くたに収録しており、その点でややわかりにくさが残っています。

もともとは、市内でのハイキングコースをランニングする人が後を絶たず、危ない思いをすることが増えていたことから、その規制を目的とした条例でした。

そこに、小町通りなどの狭いエリアで片手に食べ物を持ち歩いて、店舗や景観、他人の衣服などを汚したりする被害も出ているため、これらを引っくるめて「迷惑行為」と位置づけたのです。

それにしても、誰にどのような行為を禁止するのか、ターゲットを明確化するため、規定の仕方には、もう少し工夫が加えられてもよかったかもしれません。

罰則のないマナー条例に、実効性はないのか?

もっとも、この鎌倉市のマナー条例は、違反したときの罰則が設けられていません。食べ歩きの自粛について、いわゆる「努力義務」を課しているルールだといえます。

ご存知の通り、都道府県や市町村も、独自に犯罪類型を定めることが可能です。地方自治法14条3項では「普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の懲役若しくは禁錮、100 万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑(中略)を科する旨の規定を設けることができる。」と定められています。

刑事罰を科している条例として、迷惑防止条例や青少年保護育成条例の類いを典型例として挙げることができます。

このような刑事罰の他、一定の金銭の支払いを義務づけるも、罰金刑や科料刑と違って前科は付かない「過料」という行政罰や、違反者の氏名を公表するペナルティなども選択肢としてありえます。

たとえば、路上喫煙禁止条例を制定している自治体では、違反者に数千円程度の過料を課している例が多いです。ただ一方で、罰則を科さず努力義務に留めている自治体も決して少なくありません。

違反者に対して、罰則を科さなければ「条例としての実効性がない」という批判もありえます。しかし、罰則を科すには取り締まりのためのマンパワーが必要であり、さらに取り締まりに不服を申し立てる手続きなども必要で、運用にはかなりの負担が生じます。

屋外の立て看板などで「条例により禁止されています」と警告するだけでも、一定の抑制効果が期待できることは言うまでもありません。

そもそも、刑事罰には「謙抑性」という要請があります。たとえ公共のルールに反した行為があったとはいえ、懲役刑や禁固刑は国民の自由権、罰金刑は国民の財産権といった基本的人権を強制的に制限する手続きであって、むやみに使うべきではないのです。

その点、鎌倉市では食べ歩きなどの迷惑行為に罰則を科さず、まずは努力義務に留めて様子をみた点は評価できます。今後、それでも目に余る迷惑行為が後を絶たないときに、初めて罰則の制定を検討すればいいのです。

小町通り沿いなど、片手で持ち歩けるフード類を販売する店舗でも、混雑から離れた場所で食べるよう観光客に呼びかけてもらうなど、最低限のマナー周知を求めれば十分だと考えられます。

観光気分の楽しさと他者への迷惑の回避を両立させる、穏当な取り組みが市内で広がっていかれるよう期待します。

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