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野中英樹2-1

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【菊池市 野中英樹氏:第1話】熊本地震発生 家族を真っ暗な自宅に残して役所へ

【野中英樹氏の経歴】
熊本県菊池市に入庁後、土木課、耕地課、農林振興課、都市計画課、下水道課、財政課を経て、2010年から市長公室で広報を担当。広報誌『広報きくち』は『熊本県広報コンクール』で、2012年度から5年連続グランプリを受賞。『全国広報コンクール』では、広報紙や写真、広報企画、ウェブサイトと複数部門で6年連続入選している。

―野中氏は2010年から、広報を勤めて7年目となる。数々の賞を受賞し、成果を上げ続ける中、一つのきっかけで、それまでとは全く違う広報業務を経験することになる。それは、2016年4月に発生した熊本地震だ。
 自治体の広報は住民との大きな結節点であるが、被災時における広報は平時と大きく違う。自身も被災者である野中氏が、どのような想いで地方公務員としての本分を全うしたのか。震災後に携わった業務や葛藤について伺った。

停電した自宅に家族を残して役所に向かう

加藤(インタビューアー):2016年4月に熊本地震が起きました。その時、野中さんはどういう状態だったのでしょうか。
野中氏:16日の本震のとき、私は家にいました。あまりの揺れの大きさに、生まれて初めて“死”が脳裏をよぎりました。思い返すだけでも身震いします。
 前震で、既に対策本部が立ち上がっていましたが、人手を増やすため、すぐに招集の連絡を受け、停電の中、後ろ髪をひかれながら、家族を置いて役所に出勤したんです。役所も停電で真っ暗でしたが、既に避難者が押しかけていました。とりあえず、執務スペースで自分のパソコンを、非常電源で動かしてみたところ、ネットは動いていることがわかりました。

市役所停電

停電した市役所に避難者がいた

市民の生命・身体・財産が第一

加藤:大地震の中、家族を残して、家を出ていくのは本当にきついですね。職員の皆さんはそういう気持ちの中で集まってきているんですよね。
野中氏:家族そっちのけですよね。家族にもそれは前もって納得してもらっています。かっこよく言うつもりはないですけど、まずは市民の生命・身体・財産が第一ですから。公務員は、その使命感を持っていないとできないですね。
 非常時には、大体すぐ招集メールが来るんですよ。「対策本部ができました。職員は持ち場についてください」と。この日は被害の規模が大きかったので職員全員が招集されました。
加藤:前震があった時とは状況が全然違ったわけですね。
野中氏:14日の前震の時は、職場にいたんです。役所が潰れるんじゃないかと思いました。めちゃくちゃ古いので、耐震工事をしていて良かったと思いましたね。次の日には余震も減ったので現地調査に向かったんですけど、まさかもっと大きい地震が来るとは思ってもいませんでした。

大きな被害を受けた菊池市

自分が役に立っているのかという葛藤

加藤:その後、業務をする中で何が一番大変だったのでしょうか。
野中氏:沢山ありますが、一番は葛藤ですね。基本的に広報というのは、情報を集め、記録し、伝えていく役割です。でも、避難所や災害現場で汗を流す職員やボランティアの姿を目の当たりにしていると、「おれって、何の役に立っているんだろう」って感じるんです。「カメラを置いて手伝ったほうが、皆のためになるじゃん」って。そうした日々が続くうちに、憔悴していって、「もう止めたい」って思うようになりました。
加藤:目の前に困っている人が沢山いるなか、広報の仕事をするというのは、ある意味とてもつらいことですね。
野中氏:そうですね。私は本来、ガレキを運んだりして動きたいタイプなんです。でも、それをやると何も公式な記録ができないんですよね。
 だから、本当に葛藤でしたね。現場にいって夜中に徹夜して記事を書いて、写真を編集して、朝早くからまた現場に行く日々でした。当時は24時間体制を組んで、大体、2交代制みたいな感じでした。
 あと、避難所に行くときって、カメラを持っているわけですよ。入口のところで煙草を吸っている避難者から「また新聞記者が来たぞ」ってにらまれたり、「嫌ねー」とか、わざと聞こえる声で言われたりしたこともあります。今回の地震では被災者のプライバシーを無視した過剰な報道が問題になっていましたが、マスコミに対する不信感が募っていたのだと思います。
加藤:相手も傷ついているだけに、つらい体験ですね。
野中氏:みんな自分たちが被災して、憔悴している姿なんて知られたくないんですよね。そんな日はカメラを持っていても、写真は撮らなかったです。ボランティアスタッフの方と情報交換するだけで帰ったときもあります。

当時の避難所の様子

信頼があったから 取材への理解があった

加藤:一方で理解してもらえることもあったのでしょうか。
野中氏:そうですね。ありがたかったのは、職場内の理解があったこと。対策本部で怒声が飛び交っているときや、同僚がバタバタ土嚢に砂を詰めているときでも、こっちは写真や動画を撮るだけ。それでも、「それが広報担当の役割だ」と認識してくれていたんですね。「あの地区でこんな活動やってるよ」と情報提供してくれる職員もいて、とても助かりました。
 それと、被災した市民に「菊池広報です」と伝えて取材の意図を説明すると、ほとんどの人が進んで協力してくれたことです。恐らくこれは、普段からの関係があってこそなのかなと。もともと、地域のいろんな人と触れ合って、関係を築いていた。市民と菊池市広報の間に信頼関係があったから、受け入れてもらえたのかなと感謝しています。
 取材した情報をSNSに出したら、レスポンスがどんどん来ますし、情報を求めている人がたくさんいることを知りました。だから、葛藤や憔悴を乗り越えて、広報としての役割を全うしようと前を向くことができました。

情報発信に対する満足度は高かった

加藤:震災直後から防災情報の発信に力をいれておられましたが、それに対する満足度が非常に高かったですよね。何をしたことが有効だったと考えていらっしゃいますか。

菊池市では満足度が高く 不満の声は小さい

野中氏:フェイスブックやスマホアプリ、地デジデータ放送など複数のメディアで発信したことが一つ。あとは、避難所とか給水や炊き出し情報といった生活支援情報をタイムリーかつコンスタントに出していったこと。発信回数は多すぎず少なすぎず、みたいな感じですかね。復興支援の話題も積極的に取り上げたのは効果的だったと感じています。
 東日本大震災や平成27年の東日本豪雨では、平時に複数のメディアを活用した広報を行っていなかった自治体は、緊急時の広報ができないと指摘されていました。こうした事例を踏まえ、菊池市では平時からさまざまなメディアを活用して情報を発信してきました。普段から身近な情報源として利用されているメディアは、いざというときにも役立ちますからね。複数あれば個人の好みで選択できますし、緊急時には状況に応じた使い分けもできます。
 仮に緊急で『防災アカウント』を作ったとしても、すぐにフォローされるとは限りません。災害発生時に災害情報が確実に市民に届くような環境は、平時にしか整備できないんですよね。

過去の震災において、行政の情報提供に対する満足度が高いとは言えなかった

SNSの強みを実感

加藤:複数のメディアの中で、何が役に立ったと思いますか?
野中氏:一番利用が多いのはもちろん防災無線です。次いで、市のメルマガとフェイスブック、そして、役所のホームページですね。ホームページは丁度、リニューアルして、どんなときにどんな情報を発信すべきかマニュアルも整備し、防災に関してすごく強化していました。ただ、やっぱりSNSの強みというのはとても実感しました。
加藤:それは、どういった部分が強みだったのですか。
野中氏:双方向性ですね。リアルタイムにリアクションやコメントが届いて、被災者のニーズを把握したり支援者に発信したりできたのが良かったです。例えば、当初は通行止めの箇所や避難所は名称だけを発信していたんです。でも「場所がわからない」「地図がほしい」というコメントが寄せられたから、すぐにグーグルマップのサービスを活用して位置図を掲載するというような改善ができました。
 ただ、実は防災情報を流すのは嫌な部分もあったんですね。菊池市は「癒しの里 菊池」という公式フェイスブックページを持っているんですけど、基本的にはプロモーション用のメディアなので、防災も含めた行政情報は流さないというスタンスだったんですよね。それまでは、警報が出てもそれをフェイスブックでは発信していなかったんですけど、震災の時はさすがにそうも言ってはいられませんでした。
野中氏がまとめた資料『災害時における行政広報の可能性~創造的復興を目指して~』

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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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