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熊谷俊人3

人を知る

公務員を悪者にすることに何の意味もない 千葉市長 熊谷俊人#3

財政健全化で重要な3つのアクション

加藤:他の自治体が参考にできそうな取り組みを3つあげるとすると、どのようなものがありますか?

熊谷市長:一つは前述した事業仕分けですね。私が重要視したいのは、外部を入れないこと。自分たちで企画させて、自分たちで決めさせるべきだと思います。中核は市役所の中で構成されるべきで、その上で足りない能力があれば、それを補うために必要に応じて外部の方に委員になってもらう。

 民間もそうですけど、やらされ仕事は誰しもちゃんとやりません。進駐軍は本当に進駐軍しかできないケースでない限り、やめたほうが良いと思っています。そうでないと、市役所の仕事じゃなくなってしまう。首長のプロジェクトになってしまうので、市役所のプロジェクトにしなければいけない。

 ふたつ目は徴収対策ですね。千葉市は徴収率が政令都市で一番低かったですから、そういう意味では徴収部門が頑張って改善してくれましたよね。それが大きかったと思います。

加藤:どうやって徴収率を上げましたか?

熊谷市長:まず重要なのが、徴収に対する意識付けです。その一環として、表彰制度を作り、成果をあげた組織と職員に表彰を行いました。

 それと、徴収作業を合理化するために収納システムとか滞納管理システムへの投資をしっかり行い、徴収部門の組織体制を変更しました。政令市になって組織が6つに分かれていましたが、それを東部と西部という2つの部隊に集約したのです。

加藤:財政健全化に効果的だったものは他にもありますか?

熊谷市長:他の自治体でもやっているところもあると思いますし、実は千葉市は今ではやっていないんですけど、サマーレビューは有効でした。

 予算編成のタイミングから議論を始めると、関係団体からすれば寝耳に水ということで反発がありますし、事業を行う側も早くから練ったほうが良い。ですので、夏場くらいから新しいものを行うべきかどうか、見直すべき項目についてどういう方向で見直すか、関係団体の意見はどうなのかなど、早めに議論の熟度をあげていく。

 それをサマーレビューと言いますが、出て来た結果を議会に出すんです。「これらを見直そうとしています」と。そうすると、当然、議会側から反応がありますよね。「ちょっと早くないか」とか、「この年度でやりましょう」とか。
議会と一緒に予算編成をするという考え方で、案が生煮えな状態でも方向性をお伝えし、意見を聞きながらやることで、合意形成が難しい問題も進みやすくなったと思います。

最終的に責任はトップにある

加藤:千葉市では政治家である首長と、行政職員がうまく協力していると感じます。熊谷市長が意識している点はありますか?

熊谷市長:私はもともとNTTグループの出身で、NTTも行政のように官僚組織めいたところがありましたから、そういう組織は分かっているつもりです。とはいえ、最終的に組織はトップの方針に従うわけですから、結果が悪かったとしたら、実行部隊の職員が悪いわけではなくて、方針を定めた人が悪いと思って行動しています。

公務員を悪者にすることに意味はない

熊谷市長:また、私はシステム論が好きで、事象の枝葉に捉われてはいけないと思っています。葉っぱが悪いんだったら茎が悪いし、茎が悪いんだったら根っこが悪い。根っこが悪かったら土が悪いわけなので、どこに問題があるのか、その大元にフォーカスしなければいけないと考えています。

 組織の中で公務員と揉めることに何の意味もないし、公務員を悪者にする必要もない。仮に問題があるんだったら、それはなぜそうなってしまったのかを掘り下げるほうがよっぽど建設的ですよね。

仲間であって仲間じゃない異質な人間

加藤:首長と職員のあるべき関係性はどのようなものですか?

熊谷市長:首長は職員の仲間であり、監督官ですよね。実は、市長っていうのは一番中途半端な立ち位置にいるわけです。市役所の味方として市民に行政の正しさを説明することもあれば、職員に対して市民感覚とズレていることを伝える時もある。だから、どちらからも嫌われるような存在なのかもしれませんが(笑)。

 行政側の世界に来て思うのは、職員の味方でいると居心地が良いわけです。毎日、市役所にいるので、職員たちから仲間だと思ってもらったほうが居心地は良いし褒められる。でも、本当は「仲間であって仲間じゃない」ような、『異質な人間』でなければいけないわけです。

 一方、市民に対しても、時には「それは市民の皆さんが違うと思いますよ」と言わなければいけない。職員と市民のどちらに対しても空気を読むばかりではなく、言うべきことを言える存在であるべきだと思っています。

(編集=加藤年紀 写真=鈴木ゆりり)

編集後記

 今回のインタビューでは財政の話を聞くことが主目的であったが、最も惹かれた言葉は「公務員を悪者にすることに意味はない」というものだった。その発言には「首長は職員の仲間であり、監督官であるべき」という熊谷市長のポリシーが見え隠れする。

 公務員に対してのみならず、他人を悪者にすることに同調する人は年々減っているのではないか。昨今では他人を悪者に仕立て上げる人は、得てして本人が信用を失うことになりがちだ。特に若い世代は対立や批判を好まない傾向がある。

 公務員が悪者とされる環境にあると、仕事の成果を発揮しづらい環境が生まれる。当然、公務員の仕事の成果が落ちることは社会にとって損失である。過去のインタビューで熊谷市長が、“独占事業”と表現したことがあるが、自治体の仕事を代替できる組織は少ないためである。

 近年、自治体職員が住民と接点を持つことが増えている。まさにこの千葉エリアでも、公務員を中心とした、勉強会から派生したNPOが生まれている。そして、その傾向は今後ますます顕著になるだろう。そういった行動を冷ややかな目でみる自治体職員もいるようだが、それはやや近視眼的ではないかと思う。

 住民は自治体サービスの受益者であるが、今後は良き協力者にもなりうる。自治体職員が住民と接点を持つことは、公務員に対するイメージを向上させることのみならず、連携、協働などを含め、多くの付加価値を地域に生みだすことが期待される。

 実は前述したNPOの設立に際し、熊谷市長はビデオメッセージで祝辞を送っている。活躍する首長がこの活動を支持する意味は極めて大きい。首長にとっても住民にとっても、公務員は決して悪者として存在すべきではない。

※本インタビューは全3話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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