産業観光とは「歴史的・文化的に価値ある工場や機械などの産業文化財や産業製品を通じて、ものづくりの心にふれることを目的とした観光」と定義される。もちろん、昔の工場跡や産業遺構(heritage)なども産業観光の重要な要素である。
だが、このなかで、見落としがちなのが「産業製品」である。産業の成果物としての「製品」は、これ自体が誠に魅力的であり、観光の目的になる。
「産業観光」発祥の地とも言われる名古屋市では、日本観光振興協会中部支部が毎年、中部圏の各地で「産業観光フォーラム」を開催している。今年は、12月中旬におひざ元の名古屋市でフォーラムを開催した。テーマは、名古屋商工会議所が手掛ける「匠土産」である。
名古屋商工会議所は2016年から、モノづくりの技術を新たな土産品の開発に生かす「匠土産」づくりの事業に取り組んでいる。市内のモノづくり企業を対象に、コンテスト形式で土産品のアイデアを募集し、選んだアイデアの試作品開発、市場調査、販路開拓を支援して商品化を目指す、という事業である。
名古屋・愛知県といえば、トヨタ自動車に代表される自動車産業など、組立加工産業が集積するが、尾張七宝や有松・鳴海絞をはじめ、中部人形節句品、木桶、桐箪笥、扇子、提灯、友禅(手描友禅)、名古屋黒紋付染、和蝋燭、仏壇・仏具など、数多くの伝統工芸品がある。これらの産業には「匠」と呼ばれる優れた職人とその手業がある。自動車や工作機械を世界トップクラスの地位に押し上げた力の源泉のひとつは、こうした戦前から続くモノづくりの技術にほかならない。
「匠土産」がターゲットとしているのは、内外からの観光客である。自社のモノづくり技術を活用した製品であること、価格は土産に手頃な概ね3万円以下であることなどが応募条件となっている。今年の「匠土産」には、神具の「三宝」の伝統的加工技術を活かしたボトルクーラー「SANBOUボトルクーラー」や、ギター装飾に用いられる寄木細工の技術を使用した「名古屋木象嵌手鏡」、名古屋の3種の染物の伝統工芸により製作された手ぬぐいのセット「家康の旅道具」など、伝統の技を新たなものづくりに生かす、いわば「未来工芸品」のような作品が出そろった。これらは、既に松坂屋名古屋店での販売も始まっている。
当日のフォーラムには、岐阜長良川流域で和傘などの伝統工芸品の再生を観光まちづくりに活用するNPO法人ORGANの蒲勇介理事長などの講座もあった。私も、こうした産業と伝統工芸などの文化の物語をどのように生かすのかといったお話をさせて頂いた。
産業の使命は、常に変化する時代のニーズを踏まえ、伝統をどのように革新するかである。その考え方や手法は、まさにマンネリ化しやすい観光のリノベーションと同じ発想であろう。
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