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HOLG編集室

著者が語る「公務員のための情報発信戦略」(樫野孝人)

(文=樫野孝人)

 バットマンの舞台ゴッサムシティと友好都市提携を締結し、大きな話題を呼んだ広島県福山市。
 本書は、その福山市役所・情報発信課と取り組んできた内容と成果について整理し、SNS全盛時代における地方自治体の情報発信戦略についてまとめたものです。

 おかげさまで、昨年度のマニフェスト大賞「優秀コミュニケーション戦略賞」も受賞し、公式LINEアカウントの友達数が人口の約23%まで成長してきました。

 前著「おしい!広島県の作り方〜広島県庁の戦略的広報とは何か?〜」よりも生々しい現場の事例も盛り沢山なので、都道府県とは財政規模が違う市町村が戦略的な情報発信を進める上で、何から手を付け、どうアプローチするのか、そのプロセスや考え方について参考にしていただけると思います。

 今回は、HOLG.jp様のご厚意で、本書をご紹介する機会をいただきましたので、この場をお借りして、本書の背景や概要をご紹介させていただきます。

自治体の独自アプリが上手くいかない理由

 モバイルマーケット白書2020(2021年2月25日)によると、ウィズ・コロナの日本人が持っているスマホアプリは平均103個、実際に使うのは38個。

 この38個の中には、LINEやインスタグラム、ツイッター、Tik Tok、Netflix、Amazon、楽天市場、Yahooニュース、メルカリ、ウーバーイーツ、ぐるなび、PayPay、ゲーム系アプリなど誰もが知っていてユーザー数も多いアプリが含まれています。

 さらに、カスタマーリレーションを強化すべく、コカコーラやマクドナルド、ユニクロのような企業系アプリも資本投下して居場所を作ろうとしているのです。
 2020年1月から8月の国内モバイルアプリ市場における国別のモバイルアプリのシェアを見ると、全体の42%は日本企業によって開発されたアプリ。続いて、中国企業のシェアが24%、米国が8%、韓国が6%、ロシアが3%、その他の地域が17%と続いているので、アプリは世界からライバルが続々と参入してきています。

 そんなアプリ戦国時代に、地方自治体が独自開発したアプリが市民にダウンロードしてもらえるのは至難の技。そして何度もリピート利用してもらうには相当の労力が必要でしょう。
 「アプリを開発する」「コンテンツを載せる」「アプリをダウンロードしてもらうためにPRする」「ユーザー離れしないように策を打つ」・・・。
 これを上記のような世界中からやってくる強力なアプリと対抗して、どこまでやれるでしょうか?やっても本当に勝てるでしょうか?

 まずは、努力する変数を減らして、確率を上げることが重要だと私は思います。
 既に普及してユーザーの多いアプリに乗っかれば、「アプリの開発」「ダウンロードしてもらう」「ユーザー離れを防ぐ」の3つの苦労から開放されます。そして、「魅力的なコンテンツを作り、提供する」に人と予算を集中すれば良いのです。

 広島県福山市は、市民とのコミュニケーションプラットフォームのパートナーをLINEに決めました。
 SNSの中で現在ユーザー数が8200万人と頭ひとつ抜けていることと、比較的若い年代からシニアまで利用者層が広がっているからです。
 そして、LINEの公式アカウントの友達を増やす作戦を展開していったのです。

人口の約23%をカバーするLINE友達

 LINEを強化していき、全戸配布している広報紙と2本柱にする方針を立ててから、様々な改善をしていきました。
 まずは、市役所が保有する各種媒体でLINEの友達追加のQRコードを広くPRしていきます。
 コンテンツも文章やPDFだけの内容からリッチコンテンツ化し、見やすくわかりやすい表現に改善していきました。

立上げ当初の画面

立上げ当初の画面

リッチコンテンツ化した画面

リッチコンテンツ化した画面

 さらに、コロナ禍でのタイムリーな情報提供や適切な頻度により、下表では98982人で全国10位ですが、2021年12月の友達数は108050人まで増え、なんと人口(47万人)の23%、おおよそ4人に1人をカバーするまでに成長しました。

公務員のための情報発信戦略2

 これにより、台風や地震などの災害、ワクチン接種の空き情報、PayPay20%キャッシュバックのようなお得情報まで、即座に直接市民に情報を届けることができるようになっています。
 この人口カバー率がどんどん上がっていけば、そのうち広報紙が役割を終える時期も来るかもしれません。そうすると広報紙の制作・配布にかかっている約7000万円のコストが削減できるわけです。

コンテンツのさらなるリッチ化

 さらに、内容を理解しやすくするために広報紙の特集のアニメ化にも着手しています。
 アニメというと制作費がかかるイメージがあるかもしれませんが、フリーランスの方に、YouTubeでよく見かけるVyondというツールを利用してもらって制作しているので1本5万円程度です。毎月制作しても年間60万円の予算でアニメ化が実現できているのです。
 将来的にはここでも大きくコスト削減ができ、他の広報施策に予算を振り向けることができるようになると思います。

公務員のための情報発信戦略3

公務員のための情報発信戦略4

公務員のための情報発信戦略5

 せっかく良い政策を立案しても、市民にその情報が届かなければ意味がありません。
 アフターコロナのデジタル社会を見据え、まずは市民とのコミュニケーションプラットフォームをどれにするかというアプリの選択、そしてそのアプリに載せるコンテンツの磨き上げを戦略的に進めていく必要があると思います。

 こうした戦略的な情報発信の基本的な考え方や、「ニュースが出る構造」や「SNS時代におけるリスクコミュニケーション」などについて、本書にまとめさせていただきました。
 今一度、地方自治体の広報について再確認する意味でも是非お読みいただけると幸いです。

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目次

第1章 戦略的広報の基本

1、民間プロフェッショナルの使い方
2、伝える広報から伝わる広報へ
3、情報発信は誰でも80点は取れる!
4、戦略的広報3つのフィールド
5、SNS時代のリスク・コミュニケーリョン
6、メッセージ伝達の構造
7、なぜ、東京での情報発信が必要なのか?
8、「ネットに情報を掲載しました」がダメな理由
9、ニュースが出る構造
10、PR会社との付き合い方
11、プレスリリース配信サイト
12 、SNSの現状
13、AIDMAからAISAS、そして・・・
14、やっぱりファクトが命

第2章 広島県福山市の現状分析

1、情報発信の現状分析
2、自社媒体9つの強化
3、福山アンバサダー
4、職員のスキルアップ
5、福山市情報戦略基本方針の策定
6、クリエイティブはプロに頼る

第3章 ファクトを作るマーケティングOJT

1、優先順位を変える英断
2、築城400年プロジェクト
3、福山駅周辺再生プロジェクト
4、世界バラ会議の誘致
5、福山ブランドを創る
6、鞆の浦の日本遺産登録
7、福つまみ総選挙

第4章 具体的な事例

情報発信相談シート
(ケース1)ローカル線車窓写真コンテスト
(ケース2)フレイル予防を行い,福山市民の健康寿命を延伸する
(ケース3)インフルエンザ予防接種の接種率向上
(ケース4)築城400年記念事業
(ケース5)ネウボラ
(ケース6)メキシコチーム福山キャンプ
(ケース7)スマートIC開通記念式典
(ケース8)臨時職員(給食士)の募集

第5章 成果と課題

【成果1】地方自治体としての取組み方の変化
【成果2】自社媒体の大幅な強化
【成果3】福山アンバサダーの成功
【成果4】メディアへの営業力アップによる露出増大
【成果5】意思決定の転換期
【成果6】外部評価その1 「認知度調査」
【成果7】外部評価その2 「他機関の評価」
今後の課題

地域政党サミット 相談役 樫野孝人
プロフィール

リクルート、福岡ドーム(現PayPayドーム)、メディアファクトリーを経て、(株)アイ・エム・ジェイの代表取締役に就任し株式上場。その後、広島県や京都府の特別職参与として企画した「おしい! 広島県!」や「もうひとつの京都」がショートショート・フィルムフェスティバル&アジア観光映像大賞(観光庁長官賞)を2度受賞。現在、(株)CAP代表取締役、かもめ地域創生研究所理事。著書は「福岡ドーム『集客力』の作り方」「情熱革命」「無所属新人」「地域再生7つの視点」「おしい! 広島県〜広島県庁の戦略的広報とは何か?〜」「人口減少時代の都市ビジョン」「リクルートOBのすごいまちづくり」「仕事を楽しむ整える力〜人生を自由に面白くする37の方程式〜」など。

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