ただPRするだけでなく販売に繋げることを意識する
加藤:今まで存在していなかったものが、そこまで馴染んだらすごいですね。そこからどのようにカンパチをPRしていったのでしょうか。
福井逸人氏:市役所はどうしても選挙をはじめ、市民を意識せざるを得ないので、地元で名前を売りたがるんですね。それはほとんどタコが自分の足を食っているようなもので、本当は外に出なければいけないと思うんです。
それで、カンパチの掴み取りを東京や大阪などでやったんです。鹿屋では結構一般的なんですけど60cm、3.5kgあるようなカンパチをビショ濡れになって追っかけて捕まえるのが、めちゃくちゃ面白いんですよね。
かき小屋のレストランで有名な東京のジャックポットプランニングさんや、大阪のリタウンさんという飲食チェーンと提携をして、カンパチの掴み取りとあわせて、キャンペーンをやってもらったんですね。
たとえば、お店で、鹿屋カンパチフェアみたいなものをしてもらって、鹿屋のカンパチを商品として出してもらうんです。そこでカンパチの掴み取りのイベントチケットも一緒に配ってもらって、チケットを貰った人たちがそこに来るという流れにしたりとか。
その時に、そのお店にカンパチフェアで使うカンパチはちゃんと買ってもらって、そこの部分は商売になっているので単なるプロモーションではないんです。
加藤:飲食店側が購入もしているんですね。
福井逸人氏:そうです。うちの持ち出しもありますけど、数店舗に通年で仕入れてもらって、実際の飲食店で鹿屋のカンパチがお客様に提供されています。
そして、今年のセブンイレブンのおせちに鹿屋のカンパチが2切れ入ったんですけど、セブンイレブンのおせちって日本で一番売れていて、昨年で29万食売っているんですね。この2切れを入れてもらっただけで、鹿屋の漁協の加工場の売上を数%上げるんですよ。ものすごく大きいじゃないですか。
加藤:大きいですね。
福井逸人氏:ただ、それだけではなく今回大きな発見だったのは、僕らはずっと刺身が一番高く売れるという発想だったんですけど、「必ずしもそうではなかった」ということがわかったことです。
おせちに納品する時はこちらで冷凍の切り身にして送るんです。すると、向こうの惣菜屋さんで味付けしてくれるんですが、一度凍結して解凍しても味に全くそん色ないし、むしろ、細胞壁が壊れて生の状態で仕入れるよりも味が染みやすいという高い評価をいただいたんです。
加藤:なるほど。
福井逸人氏:お蔭で、漁協が一番忙しい12月を待たずに作り始められるので、工場の稼働率が上がり、さらに価格も安定するので良いことづくめで、ビジネスとしてうまく回っていると思います。
地域にある資源からストーリーを創る
福井逸人氏:普通、6次産業化っていうのは、1次産業している人が加工や販売をしましょうねというのが一般的なんですけど、今僕らがやっているのは地域の「『農家・漁家』『地域の加工業者』『地域の商業者』が一緒になって地域で6次産業になりましょう」というのをやっています。
さっき、豚ばら丼との対決に少し出てきたカンパチのリゾットも、商店街と漁協が一緒になって開発して、県内のグルメイベントで優勝してきたんですよ。そこで市内で『カンパチdeリゾット』を売っていたら、ファミリーマートさんが目を付けてくれて、ちょっと味付けを変えてドリアにして、鹿児島と宮崎の全店舗で商品化してくれたんですね。
皆この、カンパチdeドリアという商品だけを見ちゃうんですけど、ここに至るまでには「商店街と一緒にイベントに出ていって優勝しました」とか、「市内のいろいろなところでリゾットを売っています」とか、ストーリー作りも大事なんだと思っているんです。
そして、大事なことは「豚もカンパチも薔薇もその3つとも、元々、町にあったでしょ」ってことなんですよね。鹿屋にはばら園があったり、体育大学も、自衛隊も、マッチョも居たでしょとか。
あとは、ターゲットを絞ったことが良かったと思っています。ダンスは「最初に小学生と幼稚園生を狙おう」とか、ばら園は「女性の中でもマダムが多いよね、だから、必ずしもイケメンにこだわらなくても、いろんな王子がいていいんじゃないか」という発想とか。
市民がちょっとずつでも食べるとか、踊るとか(王子を)探すとか、楽しく参加できる、こういうことをできるというのが僕らの大事にしているところです。
副市長としての仕事
加藤:少し話を変えます。農林水産省から市役所に鹿屋市副市長として出向された経緯はどういったものでしょうか。
福井逸人氏:平成26年の7月から出向していて、その目的は冒頭にお話した『かのや農業・農村戦略ビジョン』というものを、市として作って欲しいということでした。通常農水省は市町村に出向する人間は少ないのですが、鹿屋市は直近の統計で、全国7位の農業生産地ということで、それをお手伝いするということで送り込まれました。
加藤:このビジョンの策定はどのくらいの期間でまとめたのでしょうか。
福井逸人氏:大体半年かけてまとめました。私が来たときに既に74人の委員がいたので、調整するのが結構大変でした(笑)。
加藤:これは住民向けに出しているものなのでしょうか。
福井逸人氏:農家向けですね。今やっているうちの施策を説明するときはこれがベースになっていて、私なりには自分の想いを大分入れたつもりです。
例えば、鹿児島県にはK-GAPっていう、鹿児島県が農林水産物に対して安全だと認証する仕組みを進めているのですけど、鹿屋のものを海外などのより外に売る時には、世界基準であるグローバルGAPを取得する方が望ましいので、そういうことを念頭に今実際にチャレンジしているんですよね。
加藤:最初の半年間は農業農村戦略ビジョンの作成に従事されたとのことですが、並行して豚ばら丼のような他のお仕事もされていたのでしょうか。
福井逸人氏:来たときはもっと真面目な仕事が与えられていて(笑)、建設と教育委員会と農林商工も管轄していて、最初は普通の副市長としての仕事をしていました(笑)。
加藤:今も教育委員会などのお仕事もされていらっしゃるのでしょうか。
福井逸人氏:はい。微力なお手伝い程度ですけどね。建設とかは正直、僕は素人なので話を聞いて、その中で論理矛盾があれば指摘するだけですね。あと、PFIによる住宅整備とか都市公園への民間投資誘導とか、職員さんの新しい挑戦をサポートしています。副市長という肩書きをいただいているので国土交通省に陳情に行くときには、僕さえ連れていけば顔になるかなとか、そんな仕事もありますけどね。
加藤:もう1人の副市長の方は、また別の部署を管轄しているのでしょうか。
福井逸人氏:はい。私と違って、その方がいわゆる本来の・・・本当の副市長です(笑)。役所の中の大変な問題とかはその方が処理されることが多くて、その方のお蔭で私は自由にやらせてもらっています。
周りを巻き込むために行ったこと
加藤:福井さんの成功の裏には、実は沢山の失敗があるんじゃないかと思っているんですが、トライして上手くいかなかったことには、どういうことがあるんでしょうか。
福井逸人氏:いっぱい・・・いっぱいありますね(笑)。鹿屋のハンバーグを作ろうと思ったけど、市役所はじめ関係者をうまく巻き込めなかったとか。鹿屋って誰も気づいてくれないんですど、県内最大の酪農地帯なので、チーズも作りたくて1年目からずっと動いていて、これは市役所の担当部署もその気になってくれているんですが、まだ中々進められていないですね。
加藤:なるほど。巻き込もうとした時に、具体的にどういうことをされていたのでしょうか?
福井逸人氏:これまで市があまり関わっていなかった青年会議所とかに出かけていって、私たちのやりたいことを説明して、ワイワイ議論してっていうのを繰り返していくと、面白がって話を聞いてくれたりしました。私お酒飲めないんですけどね(笑)。
加藤:最初はなかなかすぐに周りも協力をしてくれないと思いますが、豚ばら丼やカンパチの場合は、続けていると段々仲間が増えて、巻き込めていけたという感じでしょうか。
福井逸人氏:そうです。
加藤:その時も今も、最初に周りがついてこない時に、「もう駄目だ」と思って止めようかなとかは思わなかったんですか?
福井逸人氏:続けなかったら、何も面白いことが進まないと思ったんですよね。例えば、豚ばら丼は絶対この町にとってプラスになると思ったからやりたいと思って、さまざまな会合に行ってはプレゼンをし続けました。そうすると、今度集まりがあるから、そこでも話していいよって呼んでもらえるようになって、それの積み重ねでした。
加藤:福井さんのお話を聞いた方が、人を巻き込もうと思ったとしても、簡単に真似できることではないと思っているんですね。それを進める上で、福井さんが気をつけていたポイントはありますか。
福井逸人氏:逆に他の皆さんはどうしているのか知りたいですね(笑)。私の場合は、まず市役所の組織を頼らずに、町の人に直接アプローチできないかと思いました。そうすると段々、町のキーパーソンのような方が出てきてくれて、「他所から来たのにこれだけやっているなら協力してやる」って思っていただけたことはあったと思います。
あとは、地元のマスコミの方は早い段階から「福井という変なヤツがいる」と面白がってくれて、ちょこちょこ好意的に報道してくれていたのが大きかったです。
加藤:なるほど。
福井逸人氏:劇場型というと大げさかもしれませんが、これまで鹿屋で面白おかしく何かをするということがあまりなかったようなので、マスコミさんには喜んでいただけたみたいです。
最初はあらかじめ、マスコミさんにもどうしたら取材に来てくれるか相談して、豚ばら丼の試食会をやろうとかいう話になってそれを進めました。
福井逸人氏:そんなことをしていると、いつの間にか市のモニターのうち8割の人が豚ばら丼を知っているという状態になりました。そして、豚ばら丼を一通り進めたときには、町の中で誰と話をしたら物事が進むのかがわかってきました。外から来て何か動かしたいという場合はそこに辿りつくまでの苦労があると思います。
加藤:キーマンの方と繋がる実務的な部分で、ここに行ったら繋がれるとか、誰々に相談した方がいいとか、そういうのは経験則としてありますか?
福井逸人氏:市役所の中にそういう人脈に詳しい個人が必ずいるんじゃないですかね?いないんですかね(笑)。若い子たちにこんな人はいないかとか聞いたことはありましたね。
ただ、最初はやたらめったら動いていましたね。青年会議所の他にも、商工会議所の若い人たちに会いに行ったりとか。いろいろ話を聞くと、「昔こんなチャレンジしたけど広がらなくてダメになった」ということが、いっぱいあるんですよね。
その時頑張っていた人がいると話がしやすいですよね。「あなたが5年前にやろうとしたことを、今、私がやりたいんだ」と言うと、「やろう」と言ってくれます。
農水省時代からの仕事
加藤:因みに、農水省時代からの仕事をお聞きしても良いでしょうか。
福井逸人氏:法律屋なので、何でもやるんですけど、最初に食糧庁というお米の流通を担当する部署で3年仕事をしました。経済企画庁に出向して、物価の担当をして、戻ってきて技術開発を手伝ったり、田んぼや畑を整備するための法律を運用したりとか何でもですね。
その後に水産庁で漁協の指導などを1年ほどしていたんですけど、その時に農水省では初めてのことなんですが、民間企業への出向の公募があり加工食品事業、水産・畜産事業大手のニチレイさんに出向で行ける話がありました。
結果的にはニチレイさんに1年行かせてもらったりとか、栃木県庁に行ったりとか、戻ってきて食肉鶏卵課っていう名前の通りなんですけど、肉と卵の流通をやらせてもらったりとか、最後は消費・安全局というところで食品表示のルール整備とか豚の病気の対応とかをやっていたんです。
私のキャリアの中では流通や安全を中心にやってきて、それが今に活きています。農水省の官僚としては、本来、法律とかが主戦場だと思うんですけど、僕の場合は流通やマーケティングという、他の人があまりやらないことをやってきている感じはしますね。
ニチレイさんに行くときも、みんな行きたいだろうと思って、仕事が終わってから夜中に一生懸命になって志願書を書いていたら、結果的に僕しか手を上げなかったみたいで、あまり官僚の人たちが入っていかない部分を僕は攻めているのかもしれないですね。
加藤:ニチレイでは、どういう実務をされていたんでしょうか。
福井逸人氏:内部管理部署で、経営企画の隅っこに置いてもらいました。ニチレイ側としても出向を受け入れることが初めてのことだったようで、どうしていいのかわからないという感じでした。
最初は皆の会議の日程調整のような雑用をして、少しずつ信用してもらいながら時間外に農業の勉強会などを開催させてもらいました。当時の上司がすごく面白い方でどんどんいろいろなことをやらせて下さいました。
その時に実現したことの1つで、サイズが小さいために商流に乗らず捨てられている魚が京都にあって、ニチレイの技術をすれば商品化できることがわかったので、それが実際に商品として流通できたことは私にとって大きな成功体験でした。
ニチレイは本当に素晴らしい企業で、そこで学んだ組織の動かし方や顧客意識は全てその後も財産になっていますし、今でも色んなことで助けていただいています。
加藤:ニチレイでお仕事をしている時は既に30歳ぐらいということでしょうか。
福井逸人氏:はい。その後、35から38歳まで栃木県庁に行きました。
▼「地方公務員オンラインサロン」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111482
全国で300名以上が参加。自宅参加OK、月に複数回のウェブセミナーを受けられます
▼「HOLGファンクラブ」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111465
・月額500円から、地方公務員や地方自治体を支援することが可能です
※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 農林水産省から出向し、資源を活かして町を活性化。ダンスもできる副市長
第2話 地域で協力して飼育から、加工、販売まで行う仕組み
第3話 ただPRするだけでなく販売に繋げることを意識する
第4話 原発の対応とも向き合った栃木県庁時代
第5話 なぜ楽しく働くことができるのか