平清盛ゆかりの遣唐使船(復元船・長門造船資料館)
[記事提供=旬刊旅行新聞]
観光の成功は必ずしも「資源」の優劣ではない。事実、優れた資源があるのに、観光的にはほとんど無名の地域も少なくない。逆に、いわゆるA級の資源はなくても多くの観光客を惹きつけ、成功している地域もある。この違いは何なのか。
結論は、地域における「マネージメント力」の差であろう。顧客価値の変化を捉え、観光としての資源性を見抜き、新たな価値創出のために編集加工する。同時に、これらを持続的な事業として組み立て「稼ぐ力」を生む。これが広義のマネージメント力である。
言うまでもなくマネージメント力の源泉は「ヒト」。つまり、優れた人材を発掘し、育てることができなければ事業は成功しない。観光の究極の資源は「ヒト」と言われるが、それはこういうことなのである。
そんな観光人材育成のため、各地で「人材塾」に関わっている。その1つが広島県呉市「くれ観光未来塾」。2016年に始めた第1期では、観光にとどまらず、産業、都市計画、農漁業、土木など17課30人の若手行政職員が集まった。その狙いは、第2期から始める民間塾のための行政側のサポート人材、体制の構築であった。
第3期くれ観光未来塾の期末発表風景
民間事業者が新たに観光事業に乗り出そうとすると多くの「壁」がある。事業が道路・河川・港湾などに係る場合は、その使用許可が必要だ。古い建物をリノベーションしてホテルや商業施設に転換する場合は、用途変更や建築基準法などの手続きが不可欠。こうした制度条件を比較的短時間でクリアするには、行政側からの支援や誘導が大きな力となる。
呉市には旧海軍鎮守府時代からの誠に貴重な近代化遺産が数多くある。戦艦大和を建造したドック跡、旧鎮守府庁舎、司令長官官舎跡などもそのまま残っている。呉最大の観光資源である「大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)」は、こうした鎮守府(海軍工廠)時代をテーマとする稀有な博物館である。これらの資源は、他の鎮守府都市(横須賀、佐世保、舞鶴)とともに、日本遺産に認定された。その固有資源と物語をどのように新たに価値付けをしていくのか。新たな関連資源の発掘も進み、かつての戦艦大和の試射場(亀が首)などの整備も進んでいる。
他方、音戸の瀬戸の外側に広がる島嶼部には、平清盛の時代から造船業にゆかりの倉橋島がある。北前船で栄えた重伝建地区・御手洗や朝鮮通信使の蒲刈などがある「とびしま海道」は近年、海外客にも徐々に人気になりつつある。
呉市は今年から観光振興計画づくりに着手する。都市インフラや2次交通などの骨太施策は行政主導だが、多くの観光事業は、これらを担う民間事業者の存在が前提である。新たな「官民協働」の成功には、官のリードとともに、民間人材の存在が不可欠であり、これが地域の観光地域づくりの鍵を担っているものと言える。
(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)
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