地下空間の活用をテーマとしたシンポ
[記事提供=旬刊旅行新聞]
「冷気が張りつめるこの空間は一体、どこまで続き、降りていくのだろう」。
昨年4月、日本遺産に認定された「地下迷宮の秘密を探る旅」(宇都宮市)の書き出しである。
大谷石の採掘場跡(現在は大谷資料館)の深さは30㍍、広さは2万平方㍍にも及ぶ。坑内平均気温は8度前後、まさに地下の巨大な冷蔵庫である。1919年から約70年間、大谷石を掘り続けた巨大な地下空洞は、戦時中は地下の秘密工場として、戦後は政府米の貯蔵庫として利用されていた。
そして現在では、コンサートや美術展、演劇場、 地下の教会として、また写真や映画のスタジオとしても注目を集めている。
大谷石は日本列島の大半がまだ海中にあった約2300万年前の噴火による火山灰や砂礫が海水中に沈殿し、凝固してできたものといわれる。
この多孔質の独特な風合いが広く知られるようになったのは、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)が、帝国ホテル旧本館に用いて以来である。
大谷石は、大谷町周辺の東西4㌔、南北6㌔にわたって採掘され、2009年時点でも採石場は12カ所、出荷量は年2万㌧、推定埋蔵量は約6億㌧といわれている。一部で露天掘りも行われているが、地下数10㍍から100㍍を超える地下坑内掘りが多い。
最盛期の昭和40年代には約120カ所の採石場が稼働していたという。
日本遺産では、この巨大地下空間を核に、産業として本格化した明治以降の人車軌道や鉄道等の輸送手段、石工たちが集まった大谷石造りの旧公会堂、石山ごとに設けられた「山の神(大山阿夫利神社)」などの産業のストーリー、掘り出した石で築いた神社の石垣、教会や寺、公共建築、豪商の屋敷、民家の塀などの都市文化、さらには、大谷石の調湿・消臭効果に着目した味噌、酒、醤油などの商家の蔵などを構成文化財とするストーリーを描いた。
地下空洞を活用した大谷資料館がオープンした79年当時、珍しさもあって年間120万人もの観光客が押しかけた。採掘場の崩落事故などを機に客足は遠のき、一時は20万人にまで減少したが、近年は地下空洞の新たな魅せ方を工夫し60万人まで回復した。
日本遺産登録後の活動は、従来型の観光に止まらず、地下空間を活用した地底クルーズ船、地下冷熱を利用した「大谷夏いちご」の栽培、保冷効果に着目した流通拠点づくりなど、地域資源をフルに活用した事業に舵を切っている。
単なる観光だけでなく、地域の資源を活用した持続的な産業創造に道を拓く画期的な事例である。
イタリアの古代都市ヴェローナでは、地下の古代遺跡を丸窓から見せている。
地下空間を活用したレストラン・ブティックなどの商業施設も斬新だ。宇都宮は、そんな地下空間の歴史を活用した都市づくりが可能である。
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