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総務省消防庁コラム1

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可搬型指令システムを含む新消防指令管制システムについて[熊本市消防局(熊本県)]

(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』

熊本市消防局の紹介

 熊本市は、九州のほぼ中央にあり、古来より政治・経済・文化などの拠点として栄えてきました。
 豊かな緑、豊富で清冽な地下水などの自然環境に恵まれるとともに、熊本城や水前寺成趣園をはじめ、市内各所に残る明治時代の文豪たちの足跡や伝統文化、芸能など、自然、歴史、文化の中に都市機能が融和した近代都市であり、平成24年4月に全国で20番目、九州で3番目の政令指定都市となりました。
 熊本市消防局は、熊本市のほか上益城郡益城町と阿蘇郡西原村の消防事務を受託し、人口約77万人が生活する地域を管轄しており、1局・6消防署・15出張所・2庁舎を擁し、職員定数810名、実員807名(女性職員33名)の体制で、誰もが憧れる上質な生活都市くまもとの推進に向け取り組んでいます。

消防指令管制システム更新の背景

 当消防局の消防指令管制システムは、平成9年の稼動開始後、3度の部分更新を行いながら運用してきました。しかしながら、政令指定都市移行や消防行政広域化による管轄人口及び面積の増加、救急事案の増加や災害の多様化など、導入当初と比べて社会環境等が変化していること及び無線設備以外のすべての機器が保守対応期限を迎えていることから、平成31年度の新消防指令管制システム運用開始を目指し、平成27年度より更新事業を進めていました。そうした中、平成28年4月14日、16日、忘れることができない熊本地震が発生しました。

熊本地震を受けて

 熊本地震発生時の指令センターの概要は、指揮台1席、無線統制台1席、指令台4席の計6席で運用する通常モードから、大規模災害が発生した場合は、最大18席に拡張して119番通報に対応する大規模モードに切り替える体制でした。
 前震が発生した4月14日から本震発生後の16日にかけても大規模モードに切り替え、合計2,822本の119番通報に対応したものの、実際にどれだけの119番通報の呼数があったのかは、今でも不明なままになっています。
 また、指令管制システム自体のダウンはなかったものの、激しい揺れを受けて、指令台の液晶画面数台に接続されていた電源プラグが脱落したため、数分間画面操作ができない状況が発生し、119番通報受信から出場指令までに通常よりも時間を要したほか、16面マルチスクリーンも非常用発電設備からの供給を受けるまで使用できなくなりました。
 このように熊本地震で被災したことを受け、地震を踏まえたシステム機能の検討を十分に行う必要があると判断し、導入年度を1年遅らせ、令和2年度からの運用開始を目指すこととしました。

熊本地震本震直後の指令センター状況

構築業務請負業者選定について

 当消防局は、請負業者選定をプロポ―ザル方式による契約を選択しました。
 理由は、一般競争入札にすると各メーカーに共通する内容を仕様書に記載する関係上、標準的な機器しか導入することができませんが、各メーカーの独自性を生かした提案を求めるプロポーザルにすることで、より優れた機器を導入することができると判断したためです。
 プロポーザルへの参加業者は2社であり、その中の1社から熊本地震と同種同規模災害への対応について非常に斬新な提案が示され、総合的な観点からもこの提案があった業者の評価が高く、契約を締結することとなりました。
 その斬新な提案の内容は、「可搬型指令システム」という装置でした。

可搬型指令システムとは

 指令センターが被災した際の対応としては、事前にバックアップセンターを構築し、指令センターでの業務継続が不可能となった場合には、バックアップセンターに職員が移動し、回線等を切り替えて業務を継続する形が一般的な考えだと思います。
 バックアップセンターを構築するにはイニシャルコストはもちろんのこと、通常時は使用しないにもかかわらず維持管理を行う上でランニングコストも発生します。
 また、指令センターに加え、万一バックアップセンター自体が被災してしまうと指令業務の継続が不可能に陥ってしまうことも考えられます。
 このようなマイナスの面があることを理解しつつ、当消防局も構想段階では指令センターから離れた場所にある出張所にバックアップセンターを構えるつもりでした。
 しかし、プロポーザルで提案された「可搬型指令システム」は、先に述べたマイナス面をすべて補うもので、非常に有効なアイテムとして期待ができるものでした。

①可搬型指令システムの概要
 可搬型指令システムについて概要を説明すると、指令センターが震災により被害を受け、業務継続が不可能となった場合でも、装置の一部を被災状況が軽度な署所に持ち出し、設置することで119番通報の受付・指令の業務を継続可能にするものです。

②バックアップセンターとの比較
 持ち出す装置の一部は、平常時から常用設備、もしくは待機系、検証環境として利用しており、バックアップセンターを構築した場合と比較すると、無駄が無いよう経済的にも配慮されています。
 また、可搬型指令システムは、直流電源設備を使わずに交流により動作させることで管轄の全署所庁舎に設置することが可能となっており、このことについても選択肢が1ヵ所しかないバックアップセンターと比較すると、選択肢の幅が大きく広がるものとなっています。

③可搬型指令システムの設備
 主な設備として、指令制御装置×1式、指令台×8台、音声合成装置×1台、衛星携帯電話×6機、指令用端末(自動出動指定装置ディスプレイ)×6台、自動出動指定装置×1台で構成されており、先に述べたように下記表のとおり平常時より使用しています。

構成機器一覧

 なお、指令台、衛星携帯電話及び指令用端末の数については、当消防局の規模を考慮して受託業者と定めたものであり、可搬型指令システムで固定化されたものではありません。

④119番通報・指令等の流れ
 当消防局の119番通報の流れは、第3ルート(署落し)を6回線設けており、多くの消防本部と同様に、NTTの切替操作により指定された署に流れる構成となっております。
 しかし、この第3ルートが流れるはずの署が被災している場合、この時点で業務継続が不可能になってしまいます。
 その状況を回避するため、第3ルートに掛かってきた119番通報をNTTのボイスワープ機能により可搬型指令システムで使用する衛星携帯電話に転送し、それを可搬型の指令台で受けるという形を構築しました。
 指令台で受けた119番通報は、6台ある指令用端末で平常時とほぼ変わらない操作で災害発生場所の確定、災害種別決定、出動指令の操作が行えます。
 ただし、位置情報等の機能は動作しないため、聞き取りにより対応することになります。
 次に指令発出までの流れですが、持ち込んだ可搬型指令システムを署所のルーターに接続をすることでネットワーク回線の使用が可能となり、音声合成による指令を他署所に流し、指令書も送出することができます。
 また、車両のAVM等の装置への指令情報の伝達、動態管理、位置情報管理についても、平常時の指令センターと同様に情報のやり取りが可能となっています。

⑤無線の運用について
 無線は、可搬型無線機もしくは車載無線を接続することで、無線連動指令を含む各種機能が平常時とほぼ変わらない操作で運用を可能としており、更に当消防局の無線基地局が600m級の山の山頂にあるという恵まれた環境もあり、管轄のどの署所からも基地局折り返し通信が可能です。

可搬型指令システム運用イメージ

機器詳細

 当消防局の可搬型指令システムの主たる装置は8個の「指令台可搬ラック」に内蔵しており、その他に衛星携帯電話を収納している「衛星回線可搬用トランク」が2個、マルチパネル、ハードキー、ノートPC等を収納する「卓上品収納トランク」が4個となっています。
 以上に加えて無線装置用ボックスも1個用意されています。
 「指令台可搬ラック」に内蔵している装置の詳細ですが、ラック1及びラック2に指令制御装置が内蔵されており、ラック3に音声合成装置及び自動サーバー、ラック4からラック8に指令台が内蔵されています。

指令台可搬ラック

指令台可搬ラック2

可搬型指令システムの設営

 初めに装置の取り外しを行います。平常時よりラックに収納した状況で使用しているものを手順書に従って職員が作業を行い、約1時間で取り外しを完了することが可能です。

可搬型指令システム
 次に取り外した装置を車に搭載し、目的の署所庁舎に運搬後、署所に設営していきます。
 設営の際、指令台可搬ラックは、サイドのパネルを取り外し、内蔵の脚を取り付けることで机として使用できるなど、各部品を非常に有効に使用できるよう考慮して作成されています。
 設営した机上にタッチパネル、ハードキー、自動・地図のノートPCを設置し、衛星回線可搬用トランクをラック1の指令制御装置に接続します。
 この衛星回線可搬用トランクについても、ケースを開け、通信ケーブルを接続し、アンテナを向けるだけという非常に短時間で使用可能となるよう、効率の良い造りとなっています。
 この他にネットワークの接続も必要となりますが、設置作業も手順書に従って行うことで、約1時間を見込んでいます。

サイドパネル

熊本市北消防署会議室に可搬型指令システムを設置
 この様に可搬型指令システムは設置する場所を選ばず、取り外しから設営完了までの時間についても移動時間を含めて最長3時間あれば可能としており、大規模な災害により指令センターが万一被災した際でも、指令業務の継続に非常に有効なアイテムとして使用可能です。

その他大規模地震等に備えた機能について

①119番輻輳時の対応
 災害の規模に応じて、段階的に席数を短時間にスムーズに増やすことを可能とし、大規模モードでは最大28席に席を増やし、市民からのSOSである119番通報にこれまで以上に対応できる能力を向上させました。

②リモート指令システム
 NBCテロ等により、指令センターでの人的業務が不可能となった場合、指令センターの装置を別の署からリモート操作することを可能としました。
 可搬型指令システムとの違いは、指令センターの設備は被害を受けていないことが前提であり、リモートで操作可能な自動出動指定装置のディスプレイは1台と限らているものの、持ち出す機器は少量であり、容易な作業で署設備に接続できるため、短時間に119番の受付・指令業務を指令センター以外の署で実現することができます。

③給電トリアージ
 大規模災害で給電が止まった場合に、給電トリアージ計画に基づきグループの電源を切替え、必要な機器のみを残し、不要なグループを間引くことで指令台の長時間運用を可能としました。

終わりに

 今回の消防指令管制システムの更新において最も重要視した点は、大規模災害時にも業務継続を可能とすることであり、そのため前記した設備等のほかにも、指令センター及び機械室の床面を免震床にした庁舎を新たに当消防局庁舎の隣に増築するなど、随所に災害に強い機能を配しました。
 しかし、どんなに有効な機能を有した機器設備も、その性能を最大限に活用できる人材がなければ意味がありません。
 当消防局は、これまで以上に定期的な研修・訓練を実施し、更なる指令センター職員のスキルアップを図り、市民の安全・安心を守るため、万全の体制で取り組んでいくこととしています。

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