(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』 )
はじめに
令和元年7月18日(木)、京都市伏見区桃山町の京都アニメーションで発生した放火火災では、従業員36名が死亡し、34名が負傷するという日本の火災史上に残る大惨事となりました。
当消防局では、火災から避難された方々への聞き取りを行うとともに、関係機関との連携により、建物内にいた方々の避難行動について分析、検証を行い、どうしたら火災から命を守れるかを第一に考えた避難行動を取りまとめ「火災から命を守る避難の指針」(以下「指針」という。)を策定したので、当該指針について紹介します。
1 火災の概要
⑴ 発生日時等
覚 知 令和元年7月18日(木)午前10時35分
鎮 圧 令和元年7月18日(木)午後 3時19分
鎮 火 令和元年7月19日(金)午前 6時20分
⑵ 発生場所
京都市伏見区桃山町因幡15番地の1
株式会社京都アニメーション 第1スタジオ
⑶ 出火建物の概要
構造等:鉄筋コンクリート造3階建て延べ約691㎡
建物用途:事業所
消防用設備等:消火器、非常警報設備
最終査察:平成30年10月、消防法令上の不備事項等なし
消防訓練:平成30年11月、総合訓練実施(70名参加)
⑷ 被害概要
死者 36名
負傷者 34名
焼損結果 全焼
⑸ 火災原因 放火
⑹ 出動した部隊の内訳
指揮隊18隊、消防隊47隊、救助隊10隊、救急隊32隊(高度救急救護車含む。)、特別装備隊(空気充填照明車)2隊、消防航空隊1隊、局特設隊(人員輸送車) 1隊
計111隊398名
2 指針の策定経過
⑴ 策定に至った経緯
本火災は、当初から被害の大きさに注目されていましたが、火災調査を進めるにつれ、火災発生から極めて短時間のうちに建物内は在館者全員が亡くなっていてもおかしくないような危機的な状況となっていたことが明らかになりました。
しかし、一方でそのような過酷な状況であったにもかかわらず、半数以上の方々が建物外に避難されているという事実が浮かび上がってきました。
そこで、これらの避難された方々の行動を広く周知することで、火災における犠牲者を一人でも減らすことができると考え、当時の避難行動の分析・検証結果に消防の知見等を加えた指針を策定することとしました。
⑵ 避難行動の分析
指針を策定するに当たり、まず、避難された方々から当時の状況や避難行動について詳細な聞き取りを行うとともに、予防部予防課において分析・検証チームを立ち上げ、聞き取った避難行動の分析を行いました。
分析には、消防庁消防研究センターに依頼して作成した火災発生時の建物内部の煙や燃焼ガスなどのシミュレーションや京都府警察などの関係機関の情報も参考にしました。
⑶ 指針の策定
避難行動の分析結果やシミュレーションから、今回の火災では、非常に短時間で煙や熱が建物内に充満し、階段が早期に煙や熱で使用できない状況になっていたことが判明しました。
そこで、このような避難経路や避難時間が限定された火災に遭遇した場合に命を守るために必要な避難行動を明らかにするため、聞き取った避難行動の分析結果に消防機関としての知見や関連文献の記録などから選定、抽出した重要な要素を加え、指針として取りまとめました。
3 指針のポイント
⑴ 指針の目的
火災の態様や建物の用途、構造、規模、収容人員等は多種多様であることから、各事業所において具体的に火災の発生をイメージしてもらい、指針に示した避難行動から自身の勤務場所等に合った避難行動を複数想定し、あらかじめ対策や訓練を実践して備えてもらうことで、万が一実際に火災に遭遇してしまったときでも火災から命を守っていただくことを目的としています。
⑵ 火災からの教訓
ガソリンの燃焼等による火災は、急激に大量の煙と熱が発生し、建物内に充満します。その際、階段室の扉が閉鎖できていなかったり、竪穴区画がなかったりすると、階段室内に煙が侵入し階段で避難できなくなるとともに、上階まで煙が急激に拡散し、短時間で建物内の全ての人がその場にとどまることも危険な状況となる可能性があることが分かりました。
このことから、このような火災からの避難には、事前の準備や対策に加え、火災発生時の状況判断が非常に重要となります。
⑶ 重要な要素
火災で発生した煙や熱で避難できなくなってしまわないためには、
・火災を早く知り、早く避難を開始する。
・的確に状況判断し避難時間を短くする。
・建物の防火性能を向上させ延焼や煙の拡散を抑制する。
という3つの要素が重要であるということを、分析・検証結果から導き出し、そのための具体的な対策を指針としてまとめました。
4 指針について
⑴ 構成(7つの指針と11項目の知恵)
指針は、避難行動(ソフト面)及び避難対策(ハード面)の7つの「指針」と11項目の「知恵」で構成されており、さらに指針をより実効性のあるものとするために、訓練の実施を重要な要素として掲げています。
⑵ 火災人命危険レベル
火災が発生した際、避難者が置かれた状況の危険度を3段階に区分して、その区分に応じた避難行動を示しました。
・レベル1(階段に煙がなく避難に使用できる状況)⇒ 階段を利用して避難
・レベル2(階段に煙が流入し使用できない状況)
⇒ 窓、ベランダへの避難
⇒ 窓、ベランダからの避難器具を使用しての避難又は一時避難スペース等での待機
・レベル3(階段から部屋に煙が流入し、避難者が煙に覆われた危機的状況)
⇒ 最低限の呼吸で身を低くし、冷静に避難
⇒ 階段以外(窓、ベランダ)からの避難、一時避難
スペース等での待機又は窓、ベランダからのぶら下がり避難(2階の場合のみ。)
⑶ 指針の内容
5 事業所訓練指導
令和2年7月14日、本指針を基に作成したパンフレットを活用し、市内の事業所において訓練を実施しました。
この指針に基づく訓練はあくまでも応用であり、従来から指導を行っている初期消火や119番通報、階段を使った避難が基本となることを説明した後、指針に基づく訓練を実施しました。
今後も、査察や事業所訓練指導等を実施する際に、本指針に基づく指導を実施し、火災から命を守る避難の対策や避難行動について周知を図ってまいります。
6 動画による指針の啓発
11月には、指針の周知及びより効果的な指導のため、指針に掲げる避難行動をまとめた動画を作成しました。
動画の内容については、火災から避難する際、指針で示した避難方法について実際にどのように行動するのかを、火災発生から建物外に避難するまでの一連の流れやそれぞれの場面における行動を詳しく解説したものとし、火災の状況に応じて取るべき行動が分かるものとしました。
事業所訓練指導時には、この動画をスクリーン等で上映し、視聴してもらったうえで、実際に訓練を実施してもらうなど、効果的に活用しています。
また、京都市消防局のホームページにも掲載し、広く周知を行っているところです。
おわりに
火災から避難された方々への聞き取りの中に“これまで何度も消防訓練を実施してきたが、今回の火災では訓練で想定したとおりにはいかなかった。しかし、訓練していたからこそ、これだけの人が助かったと思う。この火災をきっかけとして、今後、人命が助かる対策が進んでほしい。”
という声がありました。
本指針をここまで踏み込んだ内容とすることについては一部で議論もありましたが、我々は、本火災の痛みを忘れることなく、今後起こり得るあらゆる火災において適切な避難行動が取られ、一人でも多くの命が助かるよう、本指針を周知し命を守る避難行動の啓発に職員一丸となって取り組んでまいります。
【京都市消防局ホームページリンク】
https://www.city.kyoto.lg.jp/shobo/category/155-23-0-0-0-0-0-0-0-0.html
▼「地方公務員オンラインサロン」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111482
全国で300名以上が参加。自宅参加OK、月に複数回のウェブセミナーを受けられます
▼「HOLGファンクラブ」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111465
・月額500円から、地方公務員や地方自治体を支援することが可能です
※facebookとTwitterでHOLG.jpの更新情報を受け取れます。