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総務省消防庁コラム1

事例を知る

データベースを中心とした違反是正体制の構築[岡山市消防局消防総務部予防課]

(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』

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 消防法は、国民の生命・身体・財産を火災から保護するという目的から、他法令には見られない強い権限を消防吏員に与えています。しかしながら、その権限が行使されず、長期間重大違反となっている対象物も多く、万が一このような建物で火災が発生した場合、人命等に危険を及ぼすばかりか、国民の信用を失墜してしまうこととなります。

1 背景

⑴ 計画策定
 岡山市消防局では、市民に安全・安心な街を提供することを目的とし、人命に重大な危険を及ぼす消防法令違反を独自に定義し、この対象となる防火対象物567件を3年間で全て是正させる計画を掲げました。これは岡山市の総合計画の1つとして市民へ進捗状況を公開するものとなり、最優先業務として取り組むこととなりました。
⑵ 課題と障害
 計画当初、重大違反の管理実績は数十件レベルにとどまっており、このように500件を超える管理実績はありませんでした。計画は動き出したものの、予防課での管理業務は状況把握で時間を使い切ってしまい、対策が打てない状況となっていました(図1_①)。
 プレイヤーとなる署においても、報告業務が増加、本来の違反是正業務の時間が奪われてしまいました。
 また、報告された情報をもとに対策を講じても、担当にその指示が伝わる時には、すでに状況が変化し、効果がありません。これまでに経験がない量の違反是正業務に対し、署からも「実現不可能な計画だ。計画を変更すべきだ。」との声もあがりました。
⑶ 問題の発生
 このような状況から、次のような問題が発生し、違反是正が進まない状況となりました。

  • 目の前の重大違反対象物の対応で手一杯となってしまい、他の対象物が長期未対応となってしまう。
  • A署は特定防火対象物の是正完了、非特定防火対象物の違反処理に移る。一方B署では特定防火対象物が多く残っており、警告すら実施できていない。市民目線で消防局全体の状況をみた場合、特定防火対象物に対しては指導、非特定防火対象物に対しては命令といった矛盾が生じてしまう。
  • 違反是正の担当者が明確になっておらず、特定の職員に業務が偏ってしまう。
  • 人事異動により、違反対象物への対応が途絶えてしまう。
  • 違反対象物関係者との対応で、担当者がストレスを抱え込んでしまい、違反是正業務に支障が生じる。
  • 各担当者が、違反対象物関係者に方針と異なる約束をしてしまい、後日トラブルとなる。
  • 違反処理の予定が不明確であり、その管理ができない。
  • 警告・命令の履行期限管理が不十分となる。
  • 防火対象物と危険物の違反対象物管理がそれぞれ異なり、業務が複雑化し、管理を困難にしている。
    図1予防課の管理業務の実情と課題

2 取組内容

⑴ 現状の環境把握
 当局における職場環境は、担当職員1人に1台のPCがあり、それぞれの端末からつながる共有フォルダがあります。さらに各PCにはMicrosoft officeのデータベース管理ソフトAccessが備わっていました。
⑵ システムの作成・運用
 私たちは、このAccessによるデータベース管理を考え、自分たちでこのシステムを作成することを提案しました。専門業者に依頼して作成するシステムではないため、さまざまなリスクが存在しましたが、1つずつその対策を検討、解決策を説明することで、上司の了承を得ることができました。
 データベース管理の目的は業務の「スリム化」「みえる化」です。操作が複雑であれば、それは業務負荷となり、不具合も増えます。このことからシステムはシンプルな構成としました。
 システムは完成し、共有フォルダ内に保存、ここで消防局全体における違反対象物情報の一元管理を開始しました。

3 概要

⑴ システムの概要
 図2は、データベース管理による違反是正業務の概要図です。

データベース管理概要図

 このシステムは、「入力」を最小限とし、「情報の取出し」を容易にすることで、状況把握、対策、効果確認のPDCAの循環を作り出す仕組みを構築しています。
 また、担当者から幹部まで自席にいながら、欲しい時にリアルタイムの情報が取り出せ、複数同時にデータ更新することも可能です。全署の状況が「みえる化」されたことで、署間、担当者間の連携が活発化しました。

⑵ マニュアル化と運用の徹底
 システム運用に伴い、問い合わせ業務が増えてしまっては、単に「報告業務」が「問い合わせ業務」に置き換わっただけとなり業務スリム化は達成されないこととなります。また、本システムは長期間にわたって運用する必要があることなどから、業務の標準化が不可欠であると考え、併せてこれらの対策を行いました。
 一連の業務をマニュアル化し、各署への巡回研修を実施、システムの操作方法とマニュアル化の目的を説明しました。次にマニュアルの徹底と改善を行うために各署にマニュアル担当を配置、研修、能力確認試験等を行いました。業務標準化が目的であることから、マニュアル担当は、新たに予防係員となった若手職員を指定、1年で交代する運用としています。
 現在、このマニュアル担当を中心に、システム運用の徹底、問い合わせの一元化、マニュアルの改善等を重ねることで、予防課への問い合わせはなくなり、継続して本システムを運用することができています。

4 機能

 図3はメインメニュー画面であり、各種ボタンを押下することで容易に情報を取り出すことができます。これらの機能を簡単に説明します。
①【進捗確認】
 指定した期間で、経過の更新があった対象物一覧を表示する。
 これにより管理者は、担当者がとった対応を確認、問題に発展しそうなものに早期対処することで、トラブルの芽を摘んでいます。管理者不在時の業務進展にあっても、担当者へ報告を求めることなく、状況を把握、適切な指示を行うことができます。
②【経過検索】
 指定した日付(初期値は1ヵ月前の日付が入力されている)以降、経過の更新がないもの(進展がないもの)を表示する。
 担当者、管理者は、この表で長期間連絡を取っていない対象物を確認するなど、確実な追跡管理が可能となりました。
③【敷地単現状確認】④【違反単位現状確認】
 敷地単位(違反単位)のピボットテーブルを出力できる。出力されたエクセルピボットテーブルの数値をクリックすると、そのデータが別シートで表示される。
 ピボットテーブルの機能を活用することで是正状況、担当者の業務偏り等全体の状況を迅速・容易に取り出すことが可能で、幹部から求められる情報に対しても、業務負荷無く、迅速に対応できるようになりました。(図4参照)
⑤【対応予定】
 関係者との約束等の期日を経過欄「対応予定日」に入力した場合、その期日の10日前のものが一覧表示される。
 消防からの「○月○日に現地確認に伺います」や、関係者からの「○月○日までに対応します」といったものを、確実に実施・追跡するための機能となります。この機能により徹底した追跡管理が可能となりました。
⑥【是正確認】
 違反の是正状況を、是正年月日が新しい順に表示する。
⑦【新規覚知】
 新規に覚知した違反対象物を、覚知年月日が新しい順に表示する。
⑧【違反処理中一覧】
 違反処理に移っている対象物一覧を表示する。
⑨【違反処理予定】
  警告・命令の予定日を一覧表示する。
⑩【予定日管理】
 移行文書送付、警告、命令の予定日を入力している場合、その予定日を経過したもの及び予定日10日前の対象物を表示する。
⑪【履行期限管理】
 警告、命令の履行期限を経過した対象物及び履行期
限10日前の対象物を表示する。
⑫【指示書_長期経過】
 指示書交付後90日以上経過したものを表示する。
⑬【理由】
 警告予定日を違反覚知から180日以上に設定してい
るものが表示される。
 この一覧に表示されているものについては、上位措置移行日を見直し、再設定するか、違反処理に移行できない具体的な理由を入力することとなります。
【是正報告】※メインメニュー以外のボタン
 重大違反が是正した旨の署長報告様式が出力される(様式には是正に至る経緯が含まれる)。
 違反処理の有無にかかわらず、是正に至るまでの担当者の業務は非常に過酷なものです。従前は違反処理を実施し是正した場合に限り、その結果を報告することとなっていたため、この部分を署長が把握する機会がありませんでした。これを業務負荷なく、その経過を含め署長へ報告する仕組みを作りました。現在、担当者が、署長から労いの言葉をかけられることにつながり、これが大きなモチベーションアップとなっています。また、署長補佐も担当者の頑張りを署長へ説明する機会にもつながり、署のチームワーク向上にもつながっています。
メインメニュー画面
ピボットテーブルの機能活用例

5 結果

⑴ 種々の問題解決
 このシステムにより、署からの進捗報告業務はなくなり、各署は本来業務に専念できるようになりました。さらにリアルタイム情報を予防課で直接取り出せるようになったことで、署へのプッシュ型フォローが可能となりました。
 発生していた各種問題は次のように解消され、重大違反の是正が飛躍的に進みました。

  • 【経過検索画面】ボタンにより、長期未対応は解消。確実な追跡指導により、多くの違反対象物が是正されることが明確化されました。ここまで重大違反が増加した要因も、継続的な対応ができていなかったことから発生したと考えられます。現在は、「違反処理の実績」に「確実な管理」が加わったことで、違反処理を実施せずに是正する対象物が増えています。
  • 消防局全体の状況が「みえる化」したことで、署間の連携が強化、応援等により特定防火対象物を集中的に是正させることができました。
  • 各違反対象物に主担当、副担当を割り振り、システムへ登録することで、各担当が責任を持ち業務に取り組むようになりました。また、これら担当者の情報から、業務の偏りを把握、適正な業務分配が可能となっています。なお、是正率が低い担当者を把握、是正率が高い担当者からアドバイスをもらうことも可能です。担当者制のデメリット(自分の担当分しかやらなくなる)も、このシステムによりカバーできています。担当外の案件でも、自席ですぐに状況確認、これまでの経緯を踏まえ、対応しています。立入検査等の情報は査察担当、届出や設備検査情報等については設備指導担当が情報を更新する等、それぞれが横断的に業務を行っています。
  • 異動前に担当者情報を一括更新することで、事前に自席PCから担当となる違反対象物状況を把握、異動後直ちに違反処理に移れるようになりました。これにより4月の是正数、対応数低下は発生しておりません。
  • 違反者との対応等、ストレスの原因となった事案が把握できるようになり、直ちに事後の対処と、予防策を講じることが可能となりました。現在は、ストレッサーの排除だけではなく、ストレス耐性を持たせるための研修も実施しているところです。
  • 【進捗確認画面】ボタンにより、担当レベルの動きを署及び予防課で確認し、違反処理継続の支障となりそうな案件を早い段階で覚知、早期に対処することで、重大な問題の発生を防止しています。現在、予防課で毎週全署の動きをチェックし、問題があれば、該当署へ対応を連絡、プッシュ型フォローを行っています(この業務を「インシデント管理」と名付け、ルーティン業務としています)。
  • システムに登録された情報を基に、違反処理予定、履行期限状況をガントチャート(図2下部参照)に変換、「みえる化」することにより、各署での管理が容易となりました。
  • 異なる管理をしていた危険物関連の違反処理も本システムで一元管理、署管理者の業務負担を軽減しました。

⑵ 業務効率化にも影響
 このシステムの効果は、問題の解決だけでなく、業務効率化にも大きく影響しました。状況把握の業務時間が減少しただけではなく(図1_②)、署管理者、担当者がこのシステムを使いこなし、各自が業務を管理するようになり、ミドルマネジャーとして機能し始めました。
 その結果、対策が必要な問題は減少、全体における管理業務は大幅に減り、全てを業務時間内に収めることができました(図1③)。
 私たちは費用をかけず、人員、業務量を増やすことなく、計画当初覚知していた違反対象物567件全てを是正、さらにこれとは別に新たに覚知した違反479件、合計1046件の重大違反対象物を是正させることができました。(令和元年11月末時点)

6 今後の展望

⑴ 機能の追加と応用
 署からの要望等により、このシステムへ随時機能追加しています。また、経過措置対象物の追跡管理にも本システムを活用、経過措置期間内に全てを適法状態とすることができました。
 このように、違反是正の出口対策だけではなく、入口対策である違反の未然防止にも応用を広げることができています。
⑵ 情報の分析と効果的な是正手法
 経験と実績をデータベースに蓄積、これらの情報をもとに違反者の傾向や、これに伴う担当者の対応、各種ストレスの状況等を数値として取り出し、対策等の検討を行っています。

7 最後に

 業務管理ができない場合、その原因を「人」の問題としてとらえがちですが、これを「しくみ」に切りかえることで様々な課題が解決されることが分かりました。問題を大きな抽象的塊としてとらえず、小さな具体的塊に分け、ひとつずつ対策をとっていくことで、確実に前進します。

「最大のリスクは一切のリスクを取らないこと。非常に変化の速い世界で、唯一失敗が保障されている戦略はリスクを取らないことだ。」
Facebook創業者マーク・ザッカーバーグ

 消防は「非常に変化が速い世界」とは言えませんが、確実に変化しています。リスクは減らすことはできますが、0にすることはできません。0にすることに固執し、いたずらに時間を消費することは、別ベクトルのリスクを増加させていることとなります。
 この管理方法が形になった背景には、リスクを負って担当者へGOサインを出した上司の判断があります。しかし、このシステムも作るだけでは何にもなりません。このように、このシステムを紹介できるのも、新たな方法に対応する「柔軟性」、機能を追加し、より良いものに変えていこうという「改善力」、これらを備え、実績につなげた各署予防係員一人ひとりの力があったからです。
 彼等は市民から感謝の言葉をかけられることはありません。強い使命感のもと、今日も最前線で過酷な業務を行っています。

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