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総務省消防庁コラム1

事例を知る 公安

隊員が「見る」ために、救急車を「見える」ように[埼玉県川口市南消防署]

(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』

(PR)=HOLG.jpが本になりました「なぜ、彼らは『お役所仕事』を変えられたのか?」

きっかけは「地域特性」

 川口市は埼玉県の南端に位置する都市です。古くは「鋳物の街かわぐち」として産業が発展し、現在は荒川を隔てて東京都に隣接する利便性を活かし、住宅都市化が進む中、私たちの受け持ち区域である安行地区は、自然も多く残る「植木の街」といわれる緑豊かな地域です。
 しかしながら近年では、この地域も新興住宅の開発とともに新設道路が急増し、整備中の路面状態の悪い道路や、昔ながらの狭隘道路も多く残され、救急車は走行しづらい地域です。また、街路灯も少なく、夜間の走行は暗く見えづらい環境であり、多くの勤務経験を重ねてきた救急隊員でも、運転の難しさを実感する地域です。

LEDテープ装着した救急車

LEDテープ装着した救急車

事故の経験

 受持ち区域で発生した交通事故の中には、救急出場の際、暗く狭い道路を通行するため、隊員が誘導していたところ、車両の照明の向きにより、突然視界が真っ暗になり、これまで見えていた障害物を見失ったことが原因のものもありました。
 救急活動中に交通事故が発生すると、活動が一時的に停止してしまい、安全確実に医療機関へ搬送するという使命を果たせず、傷病者に多大なる不利益をもたらすことになります。また、私たち救急隊員自身も苦しみ、特にハンドルを握っていた機関員は、その後の運転に不安を感じるようになります。

動き始めた救急隊

 私たちは、大切な資機材である救急車の交通事故を防止するため、何ができるのであろうか、そのように考え、話し合う機会を多く持つようになりました。
 検討していく中で、「受け持ち区域を走行する際、車両下部が暗く、特に車両左側は夜間の走行時に見えにくい」という共通認識を持っていることが明確になりました。
 まず救急車の路肩灯(後輪灯)の発光量について調査したところ、車両左側下部から後方にかけて安全確認を行うための明るさが十分ではないことがわかりました。
 そこで左側下部を見え易くする工夫が必要であるという結論に至り、様々なアイデアを練り、消防局装備担当者に相談することにしました。

LEDの向きと車両に一体感が出るように装着している。

LEDの向きと車両に一体感が出るように装着している。

右側面下部とタイヤハウス

右側面下部とタイヤハウス

 また、同時に、これまでの経験から何かヒントが見つかればと思い、過去に発生した交通事故の分析調査を行うことにしました。

調査内容

 救急車が関係した交通事故報告書の中から様々な視点で調査対象を抽出し、有意差のあった項目について検証するという作業を繰り返し行いました。

交通事故発生件数
 また、安行分署職員を対象として、緊急車両の運転に関し、特に留意する点や交通事故の経験について、アンケート調査を実施しました。

対象期間    平成25年度から平成29年度までの5
年分
事故件数    救急車の関係する交通事故 43件
調査項目    35項目
アンケート調査 安行分署職員 34名
分析調査上の分類 発生原因から“回避することが困難”と判定した交通事故 9件
         それ以外の交通事故(以降【A群】とする) 34件

回避困難な交通事故

検証における交通事故の分類

多角的に見た「救急車の特徴」

 アンケート調査の結果、救急車の特徴が見えてきました。
 ①救急車の“操縦”
 多くの安行分署職員は、救急車と他の緊急車両の操縦に大きな違いを感じていることが判明しました。
 救急車の特徴は、ハンドルの切れ角による操縦感覚の違い、傷病者や同乗者に配慮し慎重で丁寧な運転を心がけようと意識することなどが挙げられます。また、狭隘道路など環境が悪い中、救急要請先を目指して、迅速かつ安全に走行していく必要があり、救急活動中や搬送先の病院などで停車する際は、他の車両とのトラブルや接触事故等を防止するため、周辺の状況を見極めることが重要になります。
 ②救急車との“遭遇”
 一般車両の運転者目線で見ると、他の緊急車両と比較して、救急車の色と大きさから、緊急走行していることがわかりにくい時があります。窓を締めてエアコン等を使用し走行していると、サイレンの音が聞こえにくいことがあり、突然、救急車が近くに現れたような認識となることがあります。また、交差点などで救急車のサイレンが聞こえても、どの方向から走行して来るのか、すぐにわからないという「気付きにくさ」があると言えます。
 市民から救急車の緊急走行がどのように見えるのか理解することも、交通事故の発生を回避するためには必要です。

事故分析して見えてきたもの

~有意差のあるデータから判明した事実~
 交通事故の損傷箇所の傾向を探るため【A群】を調査した結果、車両左側面が交通事故全体の53%と最も高く、地上から高さ110センチメートル付近の赤ラインより下部に集中していることがわかりました。損傷の多かった左側面下部は、機関員がサイドミラーで確認を行う際、見えづらい範囲であり、交通事故の発生原因に「見えにくさ」が関係していると考えられます。

車両損傷箇所【A群】

損傷個所【A群】正面

 また、交通事故が発生する時間帯は、救急出場が日中に多い傾向にあり、交通事故の総数も日中に多く発生しています。しかし、救急車側は“回避することが困難”と判定した交通事故を除くと、多くの交通事故は夜間に発生していたことが解りました。これについても、暗く見えづらい環境が交通事故の発生に大きく関係していると考えられます。

損傷箇所の高さ分類【A群】

交通事故発生時間帯
 さらに、交通事故の発生するタイミングは、車両が動き出してから5分以内と早い時点で多く発生していることも解りました。これについては、車両動き出しの際、隊員一人ひとりが事故の発生し易いタイミングであることを理解し、周囲の安全確認を行うことが交通事故防止に対して有効な行動と言えます。

 なお、右左折の進入は、幅員が狭い道路で交通事故が多く発生していることから、機関員はハンドル操作と車幅感覚に関して、操縦技能が向上するよう努力しなくてはなりません。そのうえで、不安を感じるときには、早めに誘導員を配置することが重要です。

右左折時に発生した交通事故の道路幅員

 これらは有意差のあるデータ抽出を行い分析した結果、交通事故の可能性を高める環境要因について、明確な根拠を把握することができたものです。

救急車を「見える」ように

 救急車の左側下部の「見えにくさ」を解消する方法を消防局装備担当者と検討した結果、救急車の左側面下部からタイヤハウスにかけて、LEDテープを装着し発光させることが最適ではないかという結論に至りました。そこで、まず安行救急隊の救急車にLEDテープを装着し、試行運用することにしました。

使用した材料左から熱伸縮テープ加工後のLEDテープ、熱伸縮チューブ、LEDテープ(加工前)

使用した材料左から熱伸縮テープ加工後のLEDテープ、熱伸縮チューブ、LEDテープ(加工前)

車両改良の“全貌”

・LEDテープを熱伸縮チューブでカバー
 …耐久性を良くし、防水効果、飛び石等による損傷防止が目的。
・LEDテープの専用スイッチを設置
 …車幅灯の点灯と連動して発光させることも可能であるが、市街地など様々な環境下で走行する救急車の特性を考慮し、必要がない場合は消灯できる仕様にした。

作業時間

スイッチ配置盤

視界良好!LEDテープの効果

LEDテープの効果 装着したことで、大きなメリットがありました。
 ・ミラーで行う左後方の見え方が格段に鮮明となった
 ・車体と障害物との距離間が瞬時に分かる
 ・後輪の位置が把握しやすく、左折時の走行ルートが予測しやすい
 ・豪雨などの悪天候でも、左後方の確認がしやすい
 ・誘導員も周囲の障害物を確認しやすい
 ・定期点検に併せて実施できるなど、工期が短い
 ・費用について大きな負担がない

調査・研究がもたらした“効果”

 私たち救急隊は、過去の交通事故の分析調査と車両改良を行ったことにより、事故防止について一人ひとりが熟考し、過去の経験と向き合い、何度も話し合いました。そして、全員が「安全」に対して意識を高く持つようになり、どのような場面でも視野を広く、注意を払って協力して事故防止に取り組むようになりました。
 また、当局では、これまで交通事故の経験を文書という形のケーススタディとして共有してきましたが、発生状況や車両操縦を具体的にイメージすることが難しい部分もあります。交通事故の経験から「学べること」を、組織内でどのように共有していくかが課題となっていましたが、今回の分析調査により過去の経験が明確な根拠を持った「予測する力」となり、広く共有することができるようになりました。
 より身近な活きた教訓として、注意を払わなければならないポイントを明確に示したことで、今後、類似の交通事故を防止できる可能性は高く、この研究の効果は極めて大きいと思います。
 これら私たちの取り組みが、今後、全国的に普及して、救急隊の安全性の向上に役立っていくことができればいいと期待しています。

組織内の連携から生み出された「安全性のグレードアップ」

~試行から一年で全救急車のLEDテープ導入を実現~
 私たちは、車両改良について当市の事務改善で報告しました。その結果、事故防止について効果的な対策という評価を頂き、救急車全車導入への運びとなりました。
 明るさについて左右差を無くし、どのような道路条件でもより安全に走行できるよう、右側にもLEDテープを装着しました。
 LEDテープを装着した新しい車両の救急隊からも、機関員も誘導員も安全を確認しやすくなったこと、運転時の安心感が増し、気持ちに余裕を持つことができると感想をもらっています。
 LEDテープの装着を開始して以降、平成31年3月末日現在まで、当局では救急車の関係する交通事故が発生しておらず、この安全に対する取り組みの効果が非常に大きかったことがわかります。今後も、LEDテープの明るさだけに頼ることなく、隊員が安全を確認するため、しっかりと「見る」意識を持ち続けることが、事故を未然に防ぎ、救急隊の使命を果たすことに繋がると確信します。

安行救急隊の視点

 交通事故の分析結果は、安全対策について考える材料として使ってもらいたいです。LEDテープを使った車両改良は、全国の現場で働く隊員の方々の役に立つことができれば嬉しいです!

安行分署消防第2係救急隊

安行分署消防第2係救急隊

職員係の視点

 自分自身も救急隊として長く勤務してきた経験から、安行救急隊の視点に強く共感しました。協力を依頼されたときには積極的に協力したいと思いました。
 また、公用車の交通事故を取り扱う部署に異動したことから、事故防止対策をする上で発生件数や接触部位などから分析する必要があると感じました。
 交通事故の分析結果は、公務災害の原因調査及び再発防止対策に関することなどを調査審議する川口市消防安全委員会で発信して情報を共有しました。

消防総務課職員係 長谷川主査

消防総務課職員係 長谷川主査

装備係の視点

 装備の仕事をしていくうえで、消防用自動車の事故における市民サービスの低下はなくさなくてはいけない。しかし、確認不足等による人為的事故が多く見られました。どうしたら救急搬送時の運転補助ができるかと考えました。死角をなくすことは無理でも、視界の確保は出来るのではないかと。
 地元の整備工場に相談し、打合わせを何度もして現在の形に至りました。
 今後も研究・改良を重ね、事故防止につながればと考えます。

装備係3名で整備室の前で集合写真

装備係3名で整備室の前で集合写真

進化を続ける「安全対策」

 当局では、これからも積極的に安全に対する取り組みを進めていきます。
 車両側面下部に反射材によるバッテンバーグマーキング…周辺環境が暗い中で、隊員と車両の安全を確保するためです。
 消防車とはしご車にもLEDテープ装着…消防車には市内の地域性を考慮して装着し、はしご車には、オーバーハングの視認性向上を目的に、車体四隅にLEDテープを装着を計画しています。

インナーフェンダーにLEDを装着した消防車

インナーフェンダーにLEDを装着した消防車

LEDテープ装着したバッテンバーグマーキング仕様の救急車

LEDテープ装着したバッテンバーグマーキング仕様の救急車

バッテンバーグマーキング仕様消防車

バッテンバーグマーキング仕様消防車

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