費用を抑える方法を個別に考える
加藤:下水道整備費用を20億円も削減するにあたり、具体的にどんな手法が用いられたのでしょうか。
同前氏:下水道整備は通常、道路を掘って管を埋めるんですね。自然の勾配を利用して下水を上から下に流していくのですが、地形が水平だと管を布設するのが徐々に深くなります。そして一定の深さ以上になると推進工法という5~8倍の費用がかかる特殊な工法を使うことになります。
加藤:同じ長さでも、そこまで費用の違いが出るのですね。
同前氏:そんなに費用がかかる工法は極力使わない方が良いので、出来る限りなくす方法を個別に考えていきました。そうやって1区間減らせば5千万円削減、2区間減らせば1億円削減といった具合にどんどん潰していったんです。それを進めていくことで想定以上に費用が減らせました。
加藤:すごいですね。費用を削減するコツのようなものはあったのでしょうか。
同前氏:まず、下水管の整備費用は深く掘るほど高くなります。ではなぜ深く掘る必要が出て来るかと言えば、そこには何か原因があるわけです。
各路線の分析を個別にするなかで、その原因自体を除外することで、費用を抑えられました。それを一つひとつ粘り強く潰していった結果として、20億円の削減まで積み上がった感じです。
タブーから逃げない
加藤:一つひとつ潰していくと言ってもそんなに簡単ではないように思います。どのようにして解決策を見つけていったのでしょうか。
同前氏:すぐに全部が解消できたわけじゃないんですよ。支障となる構造物を移転したり、そもそも廃止ができないかなど、個別に考えていました。一つの条件をクリアするとまた次の条件が出てきてまた考える、の繰り返しで。
本当に寝ている間も考えて「あっ!」と閃いてメモしたり、雑誌の月刊下水道から新しい工法のヒントを得たり。そうやって地道に考え続けて、検討から解決まで一年かかったエリアもありました。
加藤:常に考え続けていたのですね。進めるうえで特に難しかった点はどこにありましたか。
同前氏:先ほど言った深く掘る原因の一つには、農業用水路のように手を出しにくい施設が関係していることも多いんですね。下水道整備の費用を抑えるためには、そういう所とも協議をする必要があって、そこを逃げずに解決していきました。
加藤:やはり農業用水は、行政としてタッチしづらい領域なんでしょうか。
同前氏:農業用水路は昔から、それこそ先祖代々あるものですよね。そこに手を突っ込んで、もしなにか支障が出たら大変なことになります。そういう意味ですごくリスクがあって、たとえちょっとした移転のお願いであってもタブーの領域だと考えられていました。
加藤:そのタブーに役所が手を出すのは怖かったのではと思うのですが、どのように進めていかれたのでしょうか。
同前氏:これは庁内で話をしても進まないので、もう私が勝手に地区の方と話をしました。ちょっと話してみたら意外と大丈夫そうだったので、先に承諾をもらってから上司には話をする方式を取った感じです。うまくいけば上司からは「それで行けるならそれで行こうか」と言われる感じだったので、そうやって計画変更をしていきました。
加藤:農業用水の他には、どんな事例がありますか。
同前氏:河川ですね。河川を横切る下水管は、下を通すのが通常の形なんですね。大雨が降ったときに川の水位が上がったら、木の枝などが引っかかる可能性がゼロではないためです。
ただそれだとやはり維持費がかかってしまうので、川の下を通さずに下水管を横切らせたいんですね。それも地域の方々に丁寧に説明をして、水位が上がってもリスクは低いのだとご理解いただくことで整備費用を抑えていきました。
市の未来のために住民と率直に対話を行う
加藤:地域ごとにそういった交渉をしていかれたと思うのですが、すべてがスムーズに通ったわけではないですよね。
同前氏:そうですね、ようやく同意をもらっても後からひっくり返されちゃうこともありました。でもこちらもしっかり資料を用意して、粘り強くお願いしていましたから、最終的にはご納得をいただけていました。
加藤:具体的にはどんな説明をされるのでしょうか。
同前氏:まず下水道事業が赤字であること、この路線でこれだけのお金をかけないといけないこと、それが将来的に財政の大きな負担になること、そしてこの先料金値上げも必要になり得ること、などを伝えます。
そうしたら「それは大変だなぁ」と言ってくださるので、「実はこういうことができたら費用が安くできると考えていまして」と説明に入ります。それで実際に現地を一緒に見に行ってもらって、「問題がないなら言う通りにするよ」と言っていただく流れです。
まず下水道事業がどれだけ市の財政を苦しめているのかをご理解いただき、その上でこの費用の削減が地域の未来のためになると話すと、皆さん前向きに耳を傾けてくださいました。
(取材=加藤年紀 編集=小野寺将人)
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