インタビュー

【流山市 井崎義治市長】流山市の『経営戦略』と『人事戦略』とは

井崎義治市長

(PR)=HOLG.jpが本になりました「なぜ、彼らは『お役所仕事』を変えられたのか?」

(文=石塚 清香)

東京・秋葉原からつくばエクスプレスで約25分の場所にある流山市は、「母になるなら、流山市。」「都心から一番近い森のまち」などのキャッチコピーで知られる。
その流山市を16年に渡って率いてきた井崎義治市長は、自治体運営を「経営」であると捉え、マーケティング課の設置や数々の行財政改革などを展開し、その成果は15歳未満の年少人口増加率全国1位、合計特殊出生率の上昇(1.14→1.62)など、様々な数字になって現れている。
そんな井崎市長に流山市のこれまでとこれから、これからの時代に必要とされる「地方公務員像」やそのための仕組みづくりについての考えを伺った。

市民に選ばれるまちづくりを

石塚:市長は様々な施策を展開されていますが、そこには就任当時の市長が思い描いていた流山市の理想の姿があったと感じています。16年後経った今の姿はどれくらい理想に近くなっていますか。

井崎市長:急激な少子高齢化および人口減少局面と同時に迎えた市財政の危機になりかねないつくばエクスプレス沿線の区画整理事業に対応しなくてはいけないという二大危機に立ち向かうため「まちの価値を高めること」に注力してきました。
 街に完成形というのはないという前提に立ちつつも、向かうべき方向だけを見据えて16年間邁進してきた結果として、これまでに政策として仕掛けて着手するところまで来ているのが8割、実際にカタチになったものが6割くらいになっており、自分自身の中で思い描いていた理想に着実に近づいています。

 最初は「流山に人口を増やす」と言っても「何を言っているんだ」という目でしか見られませんでしたが、「母になるなら、流山市。」に象徴されるターゲットを絞ったマーケティング戦略と、その結果として流山市を第一希望地として移住してくる選択市民が転入者の6割を超え、就任当時右肩下がりだった子育て世代が団塊の世代より4割ほど多くなり、さらにその子供たちもまもなく団塊の世代よりも多くなります。

 特に良質な住環境の維持と創造に力を入れてきました。その一環として、グリーンチェーン認定制度による緑溢れる住宅地作りによって不動産の資産価値は向上し、その環境を活かした刺激的でお洒落なイベントが開かれ、それがまた交流人口の増大に繋がっています。

 16年経ってそうした取り組みが合計特殊出生率向上などの数字にも繋がり、最近はようやく多くの方の理解を得られるようになってきました。

石塚:流山市は「行政だけが街を作るのではない」という思想を感じます。

井崎市長:基本的には市場を意識して「住み続ける価値の高い街」づくりの方向性に向けて誘導していくことが重要と考えています。
 そのため、職員も想定していなかったようなガイドラインや条例を作って、民間資本を誘導するということはできつつあります。
 もちろん中には実現できなかったものもありますが、地域に地権者が何千人もいる状況にあっても良質な街として評価される街づくりができつつあると思います。

石塚:流山市では「マーケティング」という言葉がキーワードとしてよく聞かれますが、プロモーションではなくマーケティングであることのこだわりはどんな点ですか。

井崎市長:シティプロモーションは市長の経営方針とは関係なく行われがちですが、「マーケティング」はあくまでも市長の「経営戦略」に基づいて行われることが必須であるという思想です。
 そういう文脈でいうと私は政治家というより経営者であるといえるかもしれません。

職員にも選ばれる市役所に

石塚:流山市の職員の意識は16年間で変化がありましたか。

井崎市長:就任当時、職員が市内で流山市役所で働いていると言えないことがあると知り、そういう状況を変えないといけないと思いましたが、今は市役所で働いていることを隠す職員はいないと思います。

 就任当時はとにかく無駄が多く、市役所に寄せられる声はほぼすべてが苦情でした。
 今でも苦情はありますが、お褒めの言葉をいただくことも多くなってきました。人間が誰かを褒める時というのは、サービス評価でいうと5の時だと思うので、随分と職員の働き方も意識も変ってきたと思います。

石塚:私はこれからの公務員のあり方に問題意識があり、公務員の仕事自体が大きく変わっていくと思っていますが、これから求められる公務員のイメージはありますか。

井崎市長:専門性があり、市民や民間企業と一緒に政策を考えられるようなプロが求められていると思います。
 アメリカでは最初から専門職として募集を行うので、人事課にあたるようなものがありません。本来は最初からそういったプロを雇うことが望ましいと思いますが、日本では公務員法の縛りがあるため、一般職として入庁した後、プロの領域を確立して欲しいと考えます。

石塚:一方、自治体の仕事が専門でサイロ化されてしまっては困る部分もあると思いますが。

井崎市長:20代~30代のうちになるべく多くの部署を経験させるような配慮は必要ですが、職員の側にも早い段階で自分のキャリアと専門分野を見極める力が必要だと思います。

井崎義治市長2

チャレンジする職員を増やすために

井崎市長:人事で一番大事なのは「採用」だと思っています。
 市長就任当時に新採用職員と話していて、「流山が最後のすべり止めでした」と答えた職員がいたことにショックを受けました。
 そのため他市より目立つような広告を出すなど色々と工夫した結果、数年前から国の内定をもらいながら流山市を選択したり、他の自治体や省庁から受験される職員も増えてきました。

 人事評価も改善を繰り返してきて、新しいことにチャレンジしてそれなりのレベルを達成すれば評価される仕組みを作ったりして、今では「大過なく過ごせばいい」というような職員は皆無となりました。

 流山市の職員は、市民からの評価をいただくことで成功体験を積み重ね、成長しています。
 職員からの提案も年間10~20くらいあって、半分くらいはなんらかの形で実現しており、提案した人をそのまま担当につけることもあります。
 実際なんでも新しくやればいいというわけではないですが、行政は削るのも増やすのも大変なので、改善したことに対してはきちんと評価をしないといけません。
 加えて、コストや時間コストについては、行政も議会も一緒になって改善努力をしていけると良いですね。

石塚:一方で良い職員が育成できる環境があると、そこで育った職員が民間に引き抜かれるのではという懸念も生まれます。

井崎市長:私は新採用職員向けの研修では「転職できる人間になれ」と言っていますが、実際に年にひとりくらい民間や他の自治体に引っ張られてしまう職員がいます。
 よく聞くのは女性の配偶者の実家近くの自治体に採用されて転職するというパターンです。職員のレベルが上がると他の自治体でも採用されやすくなるというのは確かにジレンマですね。

石塚:自分としては自治体人事に流動化の仕組みがあるといいと思っていて、民間、自治体間を自由に行き来したり、副業的に週に○日は他の自治体に勤務というようなことができればいいと思っています。

井崎市長:確かにそういう環境があれば自治体にとっても民間にとっても刺激となり、いいと思いますね。
 地方公務員法の縛りがあるので今は難しいですが、国にはそういう仕組みがあるので、地方でもあるといいですね。
 とにかく民間が見ていて引き抜きたいと思うような人材が増えていることは有難いことですし、そういう職員を増やしていくことが自治体経営にとってはとても大切なことだと思います。実際は職員が転職しそうな気配を察知すれば引き止める努力はしますが。(笑)

編集後記

市長に見せていただいたデータでとても興味深いものがあった。
それは流山市の小学生500名に兄弟姉妹が何人いるかを聞き取りしたもので、最も多いレンジは2人兄弟で56%、次が3人兄弟で24%であり、そのデータに基づいて計算をすると出生率は2.19となる。

私も3人の子どもを持つ身なので、母親友達も多いが、その上で合計特殊出生率1.42というのは違和感しかない数字である。
もちろんお子さんが一人だけというご家庭もあるが、実際のところ子供が2人ないし3人という家庭もとても多く、「女性が全体として子どもを産まない」というよりは「産むか産まないかの二極化が進んでいる」と感じている。
そのため、井崎市長が提示してくださったデータは私にはとても納得のいく数字であり、ターゲットとなる対象を正確に理解しようとする井崎市長の経営者としての姿勢を見たような気がした。

流山の街にはそうした井崎市政を垣間見ることができる様々な見どころがあるので、ぜひ皆様も訪れてみてほしい。

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