新作ショップを兼ねた「TSUGI」のオフィス
[記事提供=旬刊旅行新聞]
福井県鯖江市といえば、多くの方はメガネ(眼鏡)をイメージされるだろう。国産フレームの全国シェア96%、事業所数530社、人口の6人に1人がメガネ産業従事者という、まさにメガネ大国である。
しかし、この地域は昔から、越前漆器、越前和紙をはじめ、陶器、打刃物、繊維、箪笥などの優れた伝統産業が有名だ。わずか10㌔四方圏の狭い地域に集積する有数のものづくり産地である。
残念ながらそれぞれの産地は孤立し、出荷額、従業員数ともに減少。零細事業所の多くは、高齢化と後継者難という悪循環に陥っていた。このようなことは、全国の産地の共通の悩みでもある。
このようななか、長い歴史をもつ越前漆器の産地、河和田地区を中心に、2015年から「RENEW(リニュー)」というオープンファクトリーのイベントが始まった。各業種産地の工房・企業を一斉開放し、見学・ワークショップを通じて、作り手の想いや背景を伝え、技術を体験しながら商品購入などを楽しんでもらうイベントである。
このイベントでは、全国各地のローカルプレーヤーが集うマーケット(まち/ひと/しごと)や、先輩移住者たちが語る「福井移住EXPO」などを通じて、この地域への若者たちの移住を促し、新しい産地づくりの原動力につなげようという狙いである。
TSUGIの名称は、“次”の時代に土地の文化や技術を“継ぎ”、新たな関係性を“接ぐ”という思いが込められているという。現在8人いる職員の大半は移住者である。
この試みは、ある意味、産業観光の先進的なモデルの1つとも言える。
産業観光は、1960年代の工場開放(第1世代)、1980年代以降の大衆観光化(第2世代)を経てきた。2000年前後からは、企業広報やCSRを超えて事業自体が収益を得るという第3世代とも言うべき段階に入っている。
さらに近年では、こうした個々の企業の収益・採算はもとより、地域全体の企業やホテル・飲食などのサービス業が参画して地域再生をはかる、「第4世代」とも言うべき新手の取り組みも始まった。
新潟県・燕三条の「工場の祭典」や、東京都大田区の「おおたオープンファクトリー」などは既に定着しているが、TSUGIのような移住者たちが参画する産地横断型マネージメント組織の展開は、第4世代の産業観光の新たなモデルの1つとして大いに期待したい。
(東洋大学大学院国際観光学部 客員教授 丁野 朗)
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