インタビュー

【和光市長 松本武洋氏:第4話】役所が会計士のスキルを生かさない手はない

和光市 松本市長 山本享兵氏

―自治体における民間登用の事例をお聞きするうえで、3年の任期付き職員で公認会計士でもある山本享兵氏にもインタビューに参加していただく。

自治体は専門家の登用をどう考えるべきか

加藤:和光市では、山本さんのような専門家タイプの方の登用は他にもあるのでしょうか?

松本市長:和光市役所へは、他にも建築職や土木職、さらには危機管理の分野でも中途で来てもらっています。生え抜きの職員には刺激になるし、各自良い結果が出せていると思います。

加藤:なるほど。全国の自治体で見た場合には、今後、会計の専門家をどのように活用していけると思いますか?

松本市長:新卒に近いような実務経験が少ない公認会計士が市の職員になるのではなく、民間である程度経験を積んでいて、仕事のスキルが完成された方が職員として任期つきで入って、そのスキルで業務を改善するというのが理想的だと思っています。役所のやり方で育つと、そこに染まって新しい視点というのは持てない傾向があります。

加藤:なるほど。今後は他の自治体もなるべく会計士を直接登用して行った方が良いと思いますか?

松本市長:しっかりとしたスキルがある方が来ていただけるのであれば、非常に良いと思うんですよね。あとは、逆に公認会計士にとって待遇面で考えると、市の職員の給料というのは安いので、「それでも何年かつき合っていいよ」という方がいれば良いですよね。

加藤:今後、市長から山本さんに期待されていることを教えていただけますか。

松本市長:もちろん、役所の仕事の改善でさまざまな成果が出てきていると思っているんですけれど、この経験を今度は公認会計士さん全体に広げるとか、あるいは、他の自治体に広げるとか、そういう仕事も大事だと思うんですね。

 最近の流行としては弁護士を直接採用する自治体が増えてきたんですけど、これは弁護士会の意向なんですよ。増えすぎた弁護士の働く場を増やすということでやっているのです。では、会計士はというと、監査法人のビジネスチャンスとして公的セクターを考えるケースがほとんどで、でも、それはあくまでコンサルとしての関与なので、会計士のスキルを役所が吸収するという点では弱い。

加藤:なるほど。

役所が会計士のスキルを生かさない手はない

松本市長:最近、新聞で内部統制関連の記事が出ていましたけれど、「内部統制しろ」と言われても、役所の職員にはそういう実務は解らないわけですよ。で、大抵の市長も解らないし、議員ももちろんまず解らない。

 ですから、会計士が入って監査の視点で組織を変えていくというのは、まさに今のこの時宜に叶ったものだと思うんですよね。「どうすれば不正の起きないような業務のフローが作れるのか」とか、「どうすれば仕事の中身が把握できるのか」と、自治体がこれから真剣に考えるのであれば、会計士さんのスキルを生かさない手はないと思います。

和光市松本市長 山本氏2

なぜ会計士の直接雇用が増えないのか

加藤:自治体において、弁護士の直接雇用が進んでいる一方、会計士は進んでいないというのは、なぜでしょうか。

松本市長:世の中の人は、公認会計士がどういう職業なのかあまり知らないですよね。私はたまたま前職の関係で監査法人との付き合いがすごく深かったので、社会における会計士さんの機能を普通の人よりは深く知っていました。でも、じゃあ役所に勤めていて「公認会計士って何ですか」と言われて答えられる人って100人に1人もいませんよ。

 自治体の内部に入って会計士さんが活躍するには2つのハードルがあって、一つは自治体の人間が会計士さんを理解し受け入れるということですよね。もう一つは公共部門に興味を持っている会計士さんが少ないということですね。

役所で上げた成果は会計士としての専門性を生かしたものばかり

加藤:山本さんは身近にいらした公認会計士の方を想像した時に、自治体による直接採用が進んで行くと思いますか?

山本享兵氏:率直に言えば、「難しい」という感じは受けています。求められているスキルと、アピールしているスキルにあまりにもギャップがあり過ぎるような気もするんです。

 というのも、異分野に飛び込んでいこうとする専門家の人というのは、概して自分の専門外のところで勝負しにいく傾向があるんですよ。例えば、会計士でいうと、監査に関係ない分野で仕事をしたいという人が非常に多くて、そういう人たちがアグレッシブな人たちだという風にされていたりしています。

 でも、本当に必要とされているのは専門性のところでして、私が実際に和光市に入ってから上げた成果を考えると、会計士として『監査』などの仕事で培ったスキルや知識に基づくものばかりなんですよね。

 一方、そういう会計士の持つ専門性を自治体側で活用したいという自治体が多数あるわけでもないので、非常に難しいと感じています。

 あとは、自治体に興味があるという会計士の方々の業界知識の不足もありますよね。自治体に会計士として何かを口出したければ、最低限、『地方自治法の財務の規定』と『都市計画制度』『社会福祉の理念』は身に着けていないと話しにならないと思います。

監査法人よりも役所の方が待遇がよいと感じる人も多い?

加藤:なるほど。先ほど市長がおっしゃった、待遇面についてはどうなのでしょうか。

山本享兵氏:高収入を得たいという観点で、自治体職員を選ぶということは、ほぼないと思います。

 一方、会計士を志す人の多くが高収入ばかりを希望しているわけではないのも事実です。自分の専門性を活かしつつ、落ち着いた生活ができて、一定の年収を得られる環境は、監査法人で働いたり、独立開業したりするよりも数段幸せだと感じる会計士は結構多いと思います。

 そういう動機だけで入ってきて戦力になるかは別として、監査法人よりも待遇が良いと感じる人も多いかと思います。弁護士の任期付職員での採用などでも女性の方が多いようですが、特に女性の会計士の方の働き方の1つとして魅力を感じるということは実際問題としてはありそうな気がします。

地道な業務の中に入って改善してもらえることが大事

加藤:それでも、会計士の直接雇用が進まないものでしょうか?

松本市長:多くの自治体が会計士はコンサルとして契約していればいいと思っているんです。ところが会計士がコンサルで入ってくると逆効果になる場合もあります。業務のフローや役所の文化をわからずに進められると、混乱しかもたらしませんからね。

 地道な業務の中に入って改善してもらえることが大事で、例えば私が「なるほどな」と思った出来事として、山本さんが市の資産の状況をまとめている時に、データの元となっているリストに載っている資産が現在も実在するのか調査したら、存在しないものが沢山あったんですね(笑)。

 これは『実査』と言って、そういうチェックというのは会計士からすると当たり前の視点なんです。私も『実査』は監査論の教科書では読みましたが、実行するところまでは思い至りませんでした。それが実務家と素人の違いです。はっきり言って、コンサルで会計士が来ても、リストにあるものが実在するのかといった踏み込んだところまでのチェックはしないんですよね。だから中に会計士が内部にいて、仕事をすることの有用性はすごく高いんです。

※本インタビューは全6話です

他のインタビュー記事を読む

頁トップへ