インタビュー

【生駒市長 小紫雅史氏:第7話】総理大臣でもできない仕事ができる

小紫雅史市長1

副市長の公募があり その公募を通じて採用された

加藤:なぜ生駒市で働こうと考えたのでしょうか。

小紫市長:実は環境省の3年目くらいから、市町村にいきたいとずっと言っていたんです。国で作る制度は、現場のことを知らないと絵に描いた餅になってしまう。それに、私は机に向かって法律を作るのが苦手で、コミュニケーションをとりながら現場をみて仕事をするほうが向いているし、面白いだろうとも思っていました。

 環境省にいる時に、民主党政権で温暖化対策推進法などを担当していて、毎日寝る時間もほとんどない中で仕事をした結果、体調を崩してしばらく休みをもらっていた時期がありました。本気でこれからの家族のことや自分のことを考えていた時に、生駒市の副市長の公募があり、その公募を通じて採用されました。

市町村では複層的に施策を作れる

加藤:実際に働いてみて何を感じましたか。

小紫市長:国は縦割りだけど、市町村は違いましたね。例えば、福祉のことをやるときに福祉部局だけじゃなく、空き家とか関連事業をパッケージで考えられるのがとても新鮮でした。いろんな分野を足し合わせて、化学反応を考えながら施策をうてる。さらに、市民や事業者を巻き込んで、複層的に施策を作れる。本気でやればどんどんスピード感も出せる。本当にそこは面白いと思います。

命を削って市長をやっている

加藤:副市長から選挙に出られて、見事、市長になられました。どのような違いがありますか?

小紫市長:一番具体的な話でいうと遠出ができないことです。市長になって一番初めにやったのは、災害が起きた時の動きの再確認です。「市長になってまだ日が浅いから」なんて言い訳は通用しませんから、市長に就任した瞬間に地震が起きても対応できるようにしておかないと、と考えたんです。災害対応の緊張感は、24時間365日ですね。

加藤:自治体の運営の中で、業務の負荷が首長に偏より過ぎている気がします。

小紫市長:そうですね。僕もやっぱり命を削ってやっています。今後は、もっと職員に任せるべきことは任せて、「俯瞰的かつ長期的なビジョンを考えること」や「自己の体調管理」をもっと考えなければいけないとは思っています。でも、いくらでもやりたいことはあるし、会いたい人はいるし、またそれが面白いので、結局ずっと忙しい状況は変わらない気もしますね。

頑張れば住民全員と 1回くらい話せるんじゃないか

加藤:休みはとれていますか?

小紫市長:土日は町のイベントなどに顔出すことが多くて休めないので、水曜日などに休みをとるようにしています。午前中も休めれば、妻とランチに行って、午後は子どもが早く帰ってくるので、映画を見に行ったりします。本の執筆などは、子どもと一緒に寝て、朝4時ぐらいに起きてから、自分の時間を作ってやっています。

加藤:市長は選挙で勝たないと続けることができないというプレッシャーもありますから、そういった活動も際限なくやれてしまうものですよね。

小紫市長:生駒市の市民は12万人です。だから、頑張れば市民全員と1回くらい話せたりするんじゃないかと思っています。これが200万人だったら無理だと思うので、何か違うやり方を考えるんですけどね。

 顔を合わせて話をしたうえで、「小紫とは合わないなあ」って感じる人がいるのは仕方ないです。ただ、私と会ったことない人が勝手なイメージとか他の人の話だけで、「小紫は嫌や」と言うのはつらいですよね。

小紫雅史市長13

家族がやっぱり一番

加藤:人生の中で一番大切なものは何でしょうか?

小紫市長:子どもが大好きなので、やっぱり家族が一番ですね。なかなか休みも取れなくて、家族に不義理をしてしまっているんですけど、本当はもっとキャンプとかにも連れていきたいです。

加藤:ライフですね。

小紫市長:そうですね。子どもは小学校4年生、3年生と5歳です。末っ子の娘が可愛い盛りですし、あっという間に大きくなっているので、なるべく家族の時間はとりたいと思います。

 真ん中の子は、コミュニケーションはとれるレベルの自閉症なんですけど、彼が将来どうなるかは全くわからない。自閉症の特効薬や、先進的な治療法が見つかるかもしれない。社会や制度も改善されると思いますが、彼とは比較的長い時間一緒に暮らしていくと思うので、僕も長生きしないといけないから、あんまり市長職で命を削りまくっていてもあかんな、とも思います(笑)。

 僕の経験をもとに、3人の子どもたちが幸せでいられるような土台作り、そして、生きてくうえでの導きができればと思っているんです。土台だけで良くて、あとは子供たちが自分で歩くべきだと思いますけどね。もっとも、私の経験だって、20年後にはもう古くなっているかもしれませんけど(笑)。

新しい地方自治のモデルを作りたい

加藤:お仕事の部分ではどうでしょうか。

小紫市長:採用や高齢者福祉、図書館などに限らず、先進的な取り組みやノウハウは他の市町村にシェアしたいです。逆に、他の市町村からもいろいろなことも教えてもらい、それが良い循環になればと思います。そういうプラットホームづくりも地方創生の大切な一要素ですね。

 また、生駒の市民と今とても良い関係ができているので、先ほどお話しした『自治体3.0』を成し遂げたいですね。きっと地方自治の新しいモデルになると思います。

 もちろん本気で市長職を続けますが、私がいなくても市民と職員がどんどん動いてくれるような自走自立式の町になっていくと、とても素敵だと思いますね。

職員という信用を生かしてまちに飛び出せる こんなに面白い仕事はない

加藤:自治体職員の方にメッセージをお願いします。

小紫市長:よく一括りで「自治体職員」と言われますが、僕は都道府県と市町村は同じ自治体職員でも相当異なると思っています。市町村職員の存在意義、面白さ、やりがいは、まちに飛び出して、現場の中から素敵な市民を見つけて、その取り組みを応援したり、一緒に協働したりできることでしょう。

 受け身でいると、せっかくの市民との近さもクレームの対応とか大変なことばかりで、つまらない仕事になってしまう。でも、市町村の職員という信用を生かしてまちに飛び出せば、こんなに面白い仕事はないんです。これでお金をもらっていいのかってぐらい贅沢なこと。それをやらない市町村の職員のほうが多いのは、あまりにもったいないと思います。

 そういう意味では、市民となるべく早い時期に協働して、地域が一歩でもいいように変わっていく体験ができるように、自分で機会や環境を求めて動くことが大切だと思います。

総理大臣でもできない仕事ができる

加藤:最後の質問です。市長の仕事の醍醐味を教えていただけますか。

小紫市長:まず『経営者』として、幅広い業務を進めるにあたって、楽しさ、大変さを経験させてもらえる。

 そして、経営者でありながら『現場』に行って市民と会う機会も頻繁にあります。私は、お昼に時間があると、よく市民とランチに行ったりしています。素晴らしい生駒の市民と、目に見える距離で関わりが持てる。盛り上がって自分たちでどんどんしかけていって、それが動いてきているのを見る楽しさもあります。

 もうひとつは『職員』との関係です。一番大変なところですけど、職員の採用から育成に携われる。しかも、私の話を聴いて自分で考えて動いてくれる職員が、1人でも2人でも増えていくのを見るのはすごく楽しいし、成長を感じられて嬉しいですね。

 こんな楽しい仕事はなかなかないですね。命も削っているんですけど(笑)、ある意味、総理大臣でもできないようなこともやれる。商店街を歩けば、市民に笑顔で手をふってもらったり、子どもに「どら焼き持って帰り」と声をかけてもらったり。続けられるのは、そういう醍醐味があるからだと思います。

子ども参観日

加藤:そうですよね。とても、素晴らしいお仕事だと思います。長い間お時間をいただきありがとうございました。

小紫市長:こちらこそ、ありがとうございました。

編集後記

 小紫市長とは2時間以上、人事の話ばかりをしていた。人へのこだわりをここまで持っている方はそういないだろうと思い、事前にお送りした質問項目は、人事の話をメインにしていた。

 そして、実際に面と向かってお話をさせていただく中でも、人へのこだわりは愛着とも相まって、十二分に感じ取ることができた。心の冷たさを度々指摘される私がいうのもおかしな話であるが、人を語る小紫市長の目はとても生き生きとし、かつ、暖かみがあった。

 さて、民間企業でも経営陣の重要な仕事として、人材採用や育成が挙げられる。なぜ、経営陣がそこに時間を割くのかというと、採用と育成がもたらすパフォーマンスがその人的コストに見合うと判断されているからだろう。

 かたや、自治体では首長や特別職のようなトップの方が、採用活動で先陣を切ることは極めて少ないという。そのような現実の中にありながら、小紫市長は副市長時代に「自治体が本気で人材の採用や育成に取り組んでいない」という課題認識から、大きく舵を切って成果をあげられた。

 実は、自治体の人事課で仕事をしている方から、「採用や育成の仕組みを変えたいと思っているが、なかなか変えられない」という話を聞いたことがある。そんな時にはこの生駒市の事例を提案の根拠に加えても良いのかもしれない。

 「職員のキャリアアップへの限りない支援の姿勢」、「生駒市を超えて羽ばたこうとするチャレンジ精神への容認」等々、このような先見性に富む首長が存在することは、単に一自治体を変えるだけでもなければ、一地方を変えるだけにも留まらない。というのも、誰かが成功に導いた挑戦は、いずれ全国の自治体に取り入れられ、社会全体を良くしていく可能性をも秘めるからだ。

 『ファーストペンギン』、『ドミノの一枚目』、『北京の蝶々』など、新しい挑戦については様々なポジティブな表現がある。私はその中でも『薩摩の教え』が好きだ。この上位に位置する者ほど評価に値するということなのであるが、自分自身が目の前のことに心を奪われ、余裕を持てなくなった時にこそ、この言葉を振り返りたいと思う。

(1)何かに挑戦し、成功した者
(2)何かに挑戦し、失敗した者
(3)自ら挑戦しなかったが、 挑戦した人の手助けをした者
(4)何もしなかった者
(5)何もせず批判だけしている者

記=加藤年紀

※本インタビューは全7話です。

他のインタビュー記事を読む

ネイティブアド



頁トップへ