【長島町 井上貴至氏】総務省から過疎の町へ派遣、「地域のミツバチ」として革新を起こす(5/5)

長島町で任期中にやりたいこと

加藤:2017年3月末が任期となります。残りの任期の中で、やっておきたいと強く思われていることは何でしょうか。

井上貴至氏:職員の意識改革とかはやりたいなと思っていますけど、なかなか大の大人をすぐに変えようとするのは傲慢だなと思います。だから、環境を変えたり、役場の雰囲気を変えて行こうと思っています。

 正直、役場の職員は二極化しています。地方創生に関するメンバーは、今の僕を支えてくれています。係長は40代ぐらいなんですけど、やっぱり凄く楽しんでくれていて、積極的にやってもらっています。

 恐らく、これから10年20年、長島町役場を引っ張って行かれるんじゃないかと思いますし、農林課長を去年までされていて退職された方がいるんですけど、一緒に凄く楽しんで下さっていました。

井上貴至2

手に持っているのは地元のお店が作るアイスクリーム

井上貴至氏:でも、一方で残念なのは、井上という良くわからない台風が来たので、雨戸を閉めて2年間待っておこうという人も時々います。ただ、大人を変えるというのは、やはり傲慢なので、そういう役場や町の雰囲気が変わる中で、当人に感じるものがあればと思います。特に、「現場に行く」とか、「白紙で考える」ということが大事だと伝えられないかなと思っています。

加藤:現場にいる職員の方で、同じような年齢の人でも、井上さんと同じようなことができるイメージはありますか?

井上貴至氏:・・・。それは、なかなか難しいでしょうね。良くも悪くも、私が長島町に来る前は、役場の人は町づくりというと「如何に補助金を取って、どうやって配るか」だと思っていたわけですよ。昔はそれが正解だったんで、それしか知らなかったんです。

 色々なことができたのは、今の長島町においてはやっぱり総務省という後ろ盾があるからだと思うんです。いきなり29歳の若者が行って、いくら良い提案をできたとしても、町側にそれを受け入れるだけの土壌は無かったと思うんですね。

 もう一つは、やっぱりインプットが足りないですよね。皆凄く内向き志向になってしまっていて、もっと外に行くと良いと思うんです。僕だって毎年交通費で100万ぐらい使って、そういうインプットがないといけないと思っています。

 勿論、僕みたいなのが全て良い訳じゃないですけど、そういう動き方をする人材をどう増やしていくか、ミツバチも一匹じゃ大変ですから、やっぱりブンブンと皆で行きたいです(笑)。

行政だけで全てを抱え込もうとしないこと

加藤:地方自治体が財政的に厳しいという話もあります。その中で、どうしていけばもっと良くなると思いますか。

井上貴至氏:それは、行政だけで全てを抱え込もうとしないことです。企業と連携して専門性や強みを活かしていくことが大事で、観光とかがまさに一番わかりやすいですよね。役場の中だけで頑張っても意味がない訳で、如何に外の人に届けていくかが大事ですから。

 だから、そういう場を作る、そういうアイデアを提示していくのがこれからの自治体の役割なんじゃないかと思うんです。いわゆる行政の単純事務的なところは、これから機械化・ICT化が進んでくる中で減ってくると思うんですよ。

 そうなった時に何かっていうと、地域内外の色んな人が集まるような場を作るとか、その上でアイデアを出していくとか、それがこれからの行政に求められているんじゃないですか。

加藤:アイデアを出して巻き込んでいくというのは、まさに、井上さんがやられていることですよね。

井上貴至氏:そうです。伝統的な行政である「福祉」とか「選挙」とか「徴税」とか、そういうところは公平性や確実性が問われると思うんですけど、産業振興で新しい考え方をするというのは、もっと違う側面が問われて来ていると思います。

カドカワ地方創生と教育に関する発表会&カンファレンス

カドカワ地方創生と教育に関する発表会&カンファレンス 登壇

若い人には「制度を作る」ということより、現場に出て行って欲しい

加藤:最後に地方自治体でお仕事をされている中で感じる「醍醐味」を教えていただいてもいいですか。

井上貴至氏:自治体の中は日々、葛藤とか試行錯誤しながらなんです。そういうことにチャレンジできて、反応が早い。反応が凄いビビットですよね。それと、地域、町、密着で。プレイヤーの顔もダイレクトに見えます。これは国では味わえないことなんです。

 若くて、官僚を目指す人に言いたいのは、「国を良くしたい」と思うのは良いことだと思うんですけど、「制度を作る」ということに偏り過ぎている気がするんですよね。だから、私が昔教えられたように現場に出て行って欲しいです。

加藤:現場に行って課題があれば、都度それに対応して行くというのが井上さんのスタンスなのでしょうね。

井上貴至氏:です、です、です。

加藤:だからこそ視野を狭めずに、沢山の事を産み出しているわけですよね。最初からセグメントを切ってここだと決めていたら、こうなっていないですよね。

井上貴至氏:ならないですね。

 でも、そこには一貫性があって、「食べる通信」とか、「ぶり奨学金」って、長島でやっていることの象徴なんですよ。結局そういう皆が集まれる場所を作ったり、皆がチャレンジしやすい環境を作っているということです。

加藤:さきほど仰っていた、場作りですね。

井上貴至氏:そうですね。

加藤:なるほど。質問は以上となります。お忙しい中、貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。

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編集後記

 29歳で副町長として町役場に外から来る。それを他人事ではなく、自分事として考えたとすれば、活躍の陰で大きな苦労があったことは間違いない。しかし、それを一切感じさせない雰囲気があった。きっと、過去ではなく未来を見据えているのだろう。

 井上さんの行なったことで大きな価値がある点は、行った施策の「汎用性」と「持続性」であると思う。これにより、地方自治体が成功事例を横展開することができる。これはまさに、官僚らしいスキームを構築する力なのだと思う。

 その一方で、アクティブに表舞台に立ち、ブログを書く等、普通の人がイメージする官僚とは少し印象が乖離するようにも思えた。

 ここで、ふと脳裏をよぎることがある。そもそも、民間人が持っている官僚や自治体職員のイメージというのは、数少ない表層的な情報源から植え付けられているのではないか。そして、残念ながらその情報源は、往々にして公務員にとってネガティブな内容である。

 政治家と違い、公務員は批判されても表立って反論するということはあまりない。半ばサンドバックのように打たれ、時には殻に閉じこもっていたり、「ああ、またか」と愛想を尽かして、受け流している時もあるかもしれない。そして、批判をしても何も言わないから、また叩かれる。

 全てではないかも知れないが、もし、安易な公務員批判があるとすれば、それは国益を損ねていると思う。今のそういう状況では、私は井上さんのように個として、意見や行動を世の中に発信する人がもっといても良いと思う。むしろ、いた方が良いとすら思う。

 世の中の為に努力し、成果を出している人の顔が見えると、人は簡単には批判しないし、自分以外の誰かがその人を批判しても、簡単に同調しない。そういう意味では、井上さんが「地域のミツバチ」と自分を表現しているが、それだけでなく、日本という規模において、民間と公務員という存在をも繋いでいるのだと思う。

 井上さんの任期は2年間で、2017年の3月までである。これだけの成果を残した方がいなくなってしまうというのは、長島町としては残念なことだろうと思う。ただ、それは決して悲観すべきことではない。何故なら、きっと新しい場所で、さらなる革新を起こしてくれるからである。

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