ほとんど全部の住民サービスが電子化できる
加藤:因みに、自治体が提供しているサービスの中で、これはすぐ電子化した方が良いんじゃないかと思うところは何かありますか?
高倉氏:申請書のチェックとかは、電子入力とかでやってもらった方が良いと思うんですよね。
加藤:そうですね、入力が間違っていたらエラーになるようにしていたら、それが人のチェックの代わりになりますよね。
住民サービスについては、ほとんどのものが電子化できると思いますか?
高倉氏:はい。思いますね。
加藤:その際に、ネットを使えない人がいるという話が良く出てくると思います。それについては、どうすべきでしょうか。
高倉氏:2017年7月から本格的に、マイナンバーポータルというのを推し進める時に、役所にタブレット等の電子端末を置くんですよね。もっと言うと、公民館なんかにも置くことができれば、大してコストがかからない上に、ネットが使えない方達でも役所に来る必要もなくなり、もっと便利になると思います。
加藤:確かに、「i pad」のようなタブレット端末があればそれで足りそうですよね。
高倉氏:あと、今の70歳ぐらいの方はパソコンを使える世代になりつつあるので、ゆくゆくは問題ないと思います。
加藤:それは良いですね。逆に、ここは電子化できないなと感じるところはありますか。
高倉氏:福祉関係ですね。やっぱり人生のご相談的なところがあるので。ただ、川崎市と掛川市がAIを始めたんですよね。子育て支援サービスに関する問い合わせ対応について実証実験的に始めていて、とても期待しています。
加藤:面白いですね。
高倉氏:そうですね。あとは、スケールがそれなりにないとAI対応等の導入のメリットが出づらいので、複数の自治体が利用できるサービスがもっと気軽にできるといいと思います。例えば、汎用性のある仕組みで全国の自治体がサービスの利用を選択でき、1つの市役所は月々1,000円を払えばこのサービスを利用できるということだったら、やろうとなると思います。
「自分が役所の外に出て、目立っているから偉いんだ」と思ったら絶対ダメ
加藤:地方自治体で働く方へのメッセージを頂けますか?
高倉氏:皆が中に籠るのもよくないですが、皆が外に出て行っても役所の仕事は進まないです。色んな人がいる多様性を尊重しあってお互いの長所を大事にしながら、短所をフォローし合いたいですね。
加藤:ご自身は、外でも活躍をされていらっしゃると思います。そういう外で活動するにあたり、気を付けているポイントはありますか?
高倉氏:「自分が外に出て、目立っているから偉いんだ」って思ったら絶対ダメだと思います。ただ、外に出ていても、「結局、あの人は何しているのかわからない」という人間になるのもダメだと思うので、役所の中で役に立つことを、役所の中の人に伝えることができれば、円満に充実した活動が内外でもできると思います。
地方公務員には、地味で苦しい想いをしなければいけない仕事もある
加藤:最後の質問になりますが、このウェブサイトは公務員だけでなく、民間の方にも見てもらっています。今は、民間の中でも地方自治体に興味を持っている人が増えてきました。そういう人に対して伝えたいことがありますか。
高倉氏:最近よく、民間の方が「自治体職員になりたい」とお話されることが多いんですが、「役所に入って観光の仕事がしたい」とか「町の活性化がしたい」という話はあまり好きじゃなくて(笑)。役所の仕事って生活保護者の対応や税金の徴収等、幅があるんですよね。
だから、「表に出て目立つような仕事」だけではなくて、「『地味で苦しい想いをしなければいけない仕事』だけど、『とても必要とされている仕事』」も存在すると知ってもらえると嬉しいです。そして、それをわかった上でも、公務員として一緒に働きたいと感じてもらえると嬉しいですね。
加藤:そのギャップを埋めて働くということ大事だと思います。そういう意味では、高倉さんを初め、役所の外に出ていく公務員の方が増えていて、それにより民と官における情報の垣根が少しずつなくなっていっていると思うので、皆さんのそういう活動はとても価値のあることだと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。
高倉氏:こちらこそ、ありがとうございました。
編集後記
インタビューの中で「毎日幸せだ」という言葉があった。こういう状態に自分を持っていっているということは素晴らしいことだと思う。
一般行政に関わる自治体職員は全国で90万人に上り、全国の地方自治体は年間100兆円以上のお金を使っている。
高倉さんのように「毎日幸せ」だと感じられる良好なモチベーションを誰もが持つことができれば、自治体の行なっている公益性の高い事業領域、そして、そこに投下しているお金の規模から考えると、世の中の幸福度に大きく起因することができると思う。
何故、高倉さんはそういうモチベーションを維持できるのだろうか。これは恐らく2つの要素があると思う。1つは、関わる相手への「配慮」を行動レベルに落とされていることだ。企業の退職理由の多くは「対人関係」であることを考えると、通常、週5日間という長い時間を過ごす組織内において、良好な「人間関係」を育むことは、人生を豊かに生きる上でとても大切な要素である。
仕事をする上で高倉さんは相手への気遣いを重視していると言っている。これによって普段から良好なコミュニケーションを作ることができれば、まず最低限の居場所を確保できる。高倉さん自身が「元々、コミュニケーションが苦手だからこそ気を付けるようになった」と言っている通り、これは誰でも意識をすればある程度変えられるものだと思う。
もう1つは、できる範囲の中で、ポジティブに自分の納得するやるべきことをやっていることではないかと思う。
地方自治体だけではなく、どこの組織でもそこに属する以上、どうしても制限が出てくるのだが、高倉さんは、組織における役割の中で自分がやれないことに文句を言うのではなく、最大限できることにフォーカスし行動することで結果を出し、組織外でも自分のやりたいことを自分で能動的に切り拓いていっている。
「愚痴を言っていてもしょうがない」という発言からも、置かれた状況の中で「①自分ができること / できないこと」と「②組織がやるべきこと / そうでないこと」を整理し、両方がYESに近いものを行動として落としているのではないだろうか。
たわいのないことをタラタラ述べてみたが、ただただ端的に言うとすれば、高倉さんのように楽しそうに活き活きしている自治体職員の方が周りにいるだけで、その方々が周りに与えている影響は計り知れないものだとつくづく感じるのである。
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