文=納 翔一郎(富田林市)
毎年4月は、どの自治体においても人事異動の季節が到来します。みなさんは、所属する自治体の人事異動を、どのように受け止めていますか?今回の地方公務員オンラインサロンは、『公務員が人事異動に悩んだら読む本』(学陽書房)を出版した群馬県伊勢崎市の岡田さんによる講義でした。人事担当者目線の人事異動の仕組みや人事異動と向き合うためのお話を、聞くことができました。
・伊勢崎市及び自己紹介
・人事マネジメントの概要
・人事異動のリアル
・キャリアデザイン
伊勢崎市は、埼玉県と隣接する群馬県南部位置し、人口21万2千人の都市です。桜の名所である華蔵寺公園遊園地や伊勢崎オートレース、ペヤングやきそばの本社、そして、世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」に認定されている田島弥平旧宅があります。
岡田さんは、伊勢崎市に1997年に入庁しました。保険年金課に5年間所属し、初めての人事異動で一部事務組合に派遣されました。そして、平成の大合併による企画調整・合併推進部署なども経験しました。その後、職員課、財政課を経て、現在の職員課へ人事係長として配属されました。2022年4月からは、職員課長に着任されています。令和4年3月に『公務員が人事異動に悩んだら読む本』(学陽書房)を出版し、今回のオンラインセミナーでは、第1章と第6章を中心にお話していただきました。岡田さんは、『人事異動の仕組みを人事担当者の視点から話し、人事異動の仕組みを理解した上で自分のキャリアを形作るヒントを得てもらいたい』との想いを持たれていました。
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まずは、人事マネジメントの概要です。
人事マネジメントの特徴は、主に、首長の影響力、一括採用・一括管理、職員組合の3つがあります。そして、人事管理制度には、任用、勤務条件、服務、人事評価、労使関係があり、今回のオンラインセミナーで掘り下げられたものは、「任用」の内容です。「任用」とは、以下の5つを指します。
・昇任
・後任
・転任(配置転換)
・退職
一般的に「人事異動」とは、「昇任」と「転任(配置転換)」のことです。ほとんどの人が「当たり前」と思うかもしれませんが、この原理原則をきちんと念頭に置いておくことが人事異動と向き合うためにも大切だと、私は感じました。
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次は、人事異動のリアルです。
みなさんは、人事異動内示が出たときに、どのような感情になっていますか?岡田さんは、この時の感情がとても大切だとお話されました。自分の「人事異動で何を重視しているのか」を見逃さず、人事異動に対する自分なりの考え方に気付くきっかけになるためです。方法論として、メモに感情を書き出しておくことも紹介されていました。
また、「なぜ人事異動はこんなに多い?」と思う人もいるのではないでしょうか?その理由は、以下の4つにあるそうです。
・不正防止
・モチベーション向上
・事務事業の推進
いずれもメリットがある反面、デメリットもあるそうです。例えば、職員の能力開発であれば、ゼネラリストの育成がメリットです。しかし、専門能力が身につかない「何でも屋」になってしまうデメリットもあります。専門性が必要な部署においては、最大の住民サービスを提供出来ない可能性もあると、私は感じました。
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次は、人事異動の事例紹介がありました。
人事異動は、一般的に行政学者界隈では、「ジグソーパズル解き」と言われているそうです。パーツがなくなったら、その場所に新しいパーツを当て込んでいく「連続的な空きポストの補充」で行われるというものです。この事例を、オンラインセミナーでは具体的にお話していただきました。
また、人事異動には、「等価交換」と「戦略保持」の原則があります。同じような能力の人との交換を原則としつつも、全てうまく交換できることはありません。そのため、バランスを見ながら全体的に調整されていきます。本人の自己申告や課の業績への貢献なども含め、人事異動は様々な事情が重なり合った中で決定されるそうです。
そして、人事担当者も「職員の期待に応えたい」という想いを持って仕事をしています。私たち職員は、このような仕組みで人事異動が行われていることを、きちんと知っておかなければならないでしょう。
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次は、人事異動との向き合い方のヒントです。
岡田さんからは、仕事理解と自己理解、意味付け、キャリア・オーナーシップの4つの紹介がありました。私は特に、組織全体や配属されたい部署の仕事理解が大切だと感じました。理想と現実のギャップに苦しまないため、また、所属されたい部署が求めているものを理解するために、欠かせないものです。
また、自己理解は、人事異動でもブレない軸を生むためにも大切です。自分を理解することで、違う部署へ配属されても「自分の中でこのようなところが活かせる」という考えを持つことが出来るためです。自己理解を深めることで、人事異動とうまく向き合えるかもしれません。
人事異動で心がモヤモヤしている人にとって、岡田さんの人事異動との向き合い方のヒントは大変参考になるでしょう。まずは、取り組みやすい仕事理解と自己理解から始めてみてください。
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次は、キャリアに対する考え方です。
「自分らしさ」を見つけて前向きに生きていくためにも、公務員には環境の変化に対応していく能力が求められています。人事異動などの変化にも対応しながら、主体的に働いてみることが大切だとお話がありました。
MUST:やらなければならないこと
CAN:できること
WILLとMUSTが重なる部分は成長ポイント、WILLとCANが重なる部分は独りよがりへの注意、MUSTとCANが重なる部分はストレスがかかるそうです。また、WILLは、仕事をしていく中で変わっていくこともあります。そのため、日頃から「自分のやりたいことは何か?」を理解して整理することが大切だと言えるでしょう。
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最後に、岡田さんからまとめのお話です。
公務員の仕事は、一人では出来ない場合が多いです。そのため、日々の行動で一つひとつ丁寧に対応することで積み上げられる信頼性が重要です。信頼を得るということは、自分のことを他者が理解しているということです。この形になることで、自分らしく活き活きと働くことに繋がるでしょう。
そして、仕事を経験していく中で、時にはネガティブになることもあるでしょう。しかし、多くの経験を通じて前向きに行動していくことが、キャリアデザインの中では大切な考え方とのことでした。
最後に岡田さんは、『自らの人生を自分らしく歩んでいくことで、豊かな人生にしていくことが大切。』とオンラインセミナーを締めました。私は今回のお話を毎年思い出しながら、春の人事異動時期における心のモヤモヤと向き合いたいと思います。
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今回の岡田さんのオンラインセミナーでは、人事異動の仕組みと向き合い方のお話を聞かせていただきました。人事担当者がどのような視点で人事異動を決めているのか、また、人事異動に振り回されないための考え方は、多くの方に知っておいてほしい内容でした。オンラインセミナーの詳しい内容は、『公務員が人事異動に悩んだら読む本』(学陽書房)に書かれているので、ぜひみなさんもご一読ください。
群馬県伊勢崎市総務部職員課長。キャリアコンサルタント(国家資格)。伊勢崎市生まれ。入庁後は保険年金課に配属され、その後、一部事務組合への派遣、企画調整課、合併推進課、職員課、自己啓発等休業(東京大学大学院)、財政課勤務を経て、現職。庁内の「人事評価研修」、「キャリアデザイン研修」の講師や職員を対象にした「キャリア面談」も実施している。『月刊ガバナンス』(ぎょうせい)など雑誌への寄稿や大学での講義も担当。2000年に庁内で立ち上げた「自主研究グループ」活動をきっかけに、群馬県、さらには全国の公務員との交流を拡げ、現在は公務員のキャリア・オーナーシップに向けた支援活動や公務員のキャリアコンサルタント資格保有者とのネットワークづくりも行っている。
【4月21日(木)21:00〜22:30】
講演-多田功さん「市民参加型合意形成プラットフォーム」~加古川市版Decidimの現在と未来
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