――2017年11月12日に渋谷ヒカリエで開催された国家公務員、地方公務員が600人集まった「第10回よんなな会」。お笑い芸人キングコングの西野亮廣氏が、お金と広告、そして公務員についてお話された。第6話。
赤字でも1万人の支援者がほしかった
西野亮廣氏:でね、クラウドファンディングの話にもう1回ちょっと戻すと。5600万円集まったって言ったじゃないですか。で、そのときに、テレビのコメンテーターさんが、「西野さん、5600万円懐に入れてんじゃねえの?」みたいなこと言い出したんですよ。
それはクラウドファンディングの仕組みをあまりご理解いただいてないと思うんですけど、僕の場合だったら、3000円支援してくださった方に対しては、『えんとつ町のプペル』の完成品にサインを入れてお送りするっていうリターンを出す。すると絵本の原価がありますよね、2000円弱です。これにレターパックで郵送するので360円。さらにサイトの手数料だとか、倉庫代だとか、スタッフさんの給料だとか、諸々かかってくるので、3000円支援してもらっても、使えるお金っていうのは300円ぐらいなんです。
で、場合によっちゃあですよ、3000円支援してもらっても4000円分のリターンを返す場合だってあるんです。つまり、そのリターンが売れれば売れるほど、こっちが1000円ずつ赤字になるっていう状態です。
何が言いたいかっていうと、購入型のクラウドファンディングにおいては、5600万円集まっても5600万円使えるわけではけっしてない。だから、購入型のクラウドファンディングで集まった金額にはなんの価値もねえっていうことです。100億円集まったところで、使えるお金は10円以下かもしれない。事実、『えんとつ町のプペル』っていうのは、5600万円集まったんですけど、制作費で5700万円出たんです。若干赤なんですよ。
全然それでいいんです、僕は。全然それでいいんです。本当、そこも赤で全然いい。なんでいいかって言うと、ほしかったのはお金ではなくて支援者数だったからですね。『えんとつ町のプペル』の場合だったら、1万人。僕はどうしてもこの1万人の支援者がほしかった。
作り手を増やすことが絵本を売る方法
それはなぜかって言うと、例えば僕と(客席の)お兄さんが2人で『えんとつ町のプペル』を一生懸命作ったとしたら、この絵本って最低2冊売れると思うんです。なぜなら僕たちが買うから。僕が買うし、お兄さんも買う。一生懸命作った思い出として買うから。
2人で作った絵本が2冊売れるのであれば、10万人で作っちゃえば10万部売れるじゃん。つまり僕たちは、これまで一生懸命お客さんを増やそう増やそうとしてたんだけど、本来はそんなことする必要はなくて、作り手さえ増やしてしまえば、その作り手がそのまま消費者になる。
売るにはお客さんを増やすより、作り手を増やした方が手っ取り早いんです。『えんとつ町のプペル』っていうのは、作り手を増やすためにクラウドファンディングをやって、今は著作権をフリーにしてたりします。この間なんて、滋賀県のほうで「えんとつ町のプペル列車」っていうのが走ってたんですけど。それも、僕はツイッターのタイムラインで知ったんですよ(笑)。
会場:(笑)。
いいじゃないですか、なんかそれも。えんとつ町のプペル列車を走らせた人は、たぶん鉄道会社に企画を持ち込みに行った時に絵本を小脇に抱えているから、その人1冊買っているんです。
お金をみんなから少しずつ集めることで集客を行う
実は次回作を作るんですよ僕。『チックタック ~約束の時計台~』っていう絵本を作るんです。『えんとつ町のプペル』が売れたから、その製作費を珍しく吉本興業が制作費出すって言いやがったんですよ。皆さんこの制作費受け取ったほうがいいですか? 受け取らないほうがいいですか? 受け取らないほうがいいですよね。受け取っちゃうと、この『チックタック ~約束の時計台~』っていう僕の次回作は、僕と吉本興業の作品になっちゃうじゃないですか。
するとどうなるかって言うと、売るのがむっちゃ難しいわけです。買い手が今のところ2人しかいない。やっぱり僕は、この金を受け取らずにクラウドファンディングをやっちゃって、みんなからちょっとずつ、ちょっとずつ、ちょっとずつ、ちょっとずつお金を集めて作り手になってもらう。
空海ってやっぱ面白いんですよ、アイツ。高野山って、でっけえお金は受け取ってないんですよ。一般の方から、ちょっとずつ、ちょっとずつ、ちょっとずつ、ちょっとずつお金集めて、お金を出した人が、「俺ら高野山にお金出したから、ちょっと見に行こうか」って言って集客になっている。つまり、空海って最初にクラウドファンディングをやってるんだけど、大きいお金を受け取らないことによって集客をしたんです。
そんな感じで、もう質疑応答のお時間ですか。
(講演終了。質疑応答へ)
公務員はすべての人間の中で一番攻めれる状態の人
質問者:西野さんのお話非常に面白かったです。ありがとうございます。事前にフェイスブックでは、「西野さんから見た公務員の世界」というサブタイトルだったので、最後に一言だけ、我々公務員に西野さんからアドバイスをいただけますか。
西野氏:そういうことになってましたか(笑)。
会場:(笑)。
西野氏:公務員もいろんな職業ありますよね? ただ、本当に安定した収入があるんですよね? そこってどう考えたって、すべての人間の中で一番攻めれる状態の人ですよね。
僕が絵本作家に一歩踏み出したときってそうだったんです。つまり、絵本が売れなくても僕は首を吊らなくてよかったので、思い切った作り方ができた。軸足がお笑いになってて、テレビの収入が安定していたから。
つまり、公務員さんがすべての人間の中で一番遊べるんだから、一番遊んだほうがいいんじゃないんですか? 僕たちとか公務員さん以外の人にはそれは無理なので。
公務員に面白いことをしてほしい
西野氏:とりあえず、すべてがお金にならなくてもいいわけですよね。例えば、町がそれで盛り上がって、自分の収入にならなくてもいいんですよね。ていうか、副業いいんでしたっけ? だめなんでしたっけ?
質問者:副業はダメです。(※所属組織が許可していれば可能。特に執筆、講演などの事例は常に一定数存在している)
西野氏:副業はダメで、お金にならない。でも、副業がダメなのはその属してる組織のルールですよね。日曜日とかにお金貰わずに誰かのお手伝いしに行っても別にいいんですよね?
質問者:それは大丈夫です。報酬が発生しなければ。
西野氏:じゃあ、それでいいじゃないですか。それむっちゃいいじゃないですか。とにかく人助けみたいなのを散々普段からしといて、信用をすっげえ稼いで、どっかのタイミングで公務員辞めちゃって。
会場:(笑)。
西野氏:辞めなくてもいいんですよ(笑)。でも、遊べるんだから遊んだほうがいいじゃないですか。「会社辞めてイラストレーターになります」みたいなことを言う子って、結構いるんです。つまり、自分の覚悟を決めるために退路絶ちますみたいな。その気持ちも分かるんだけれども、退路を絶った時点で戦い方が限定されるんです。つまり、全ウェイトをイラストレーターに乗っけてしまうと、その他大勢のイラストレーターと同じ戦い方になるから。
で、他人と同じ戦い方した時点でそんなに勝てないから。どうせイラストレーターになって、なんかアルバイトとかするんだったら、別に会社員のまま夜でも土日でもやっちゃえばいいじゃねえのって。
あんまり僕、辞めるのは勧めないですね。だから公務員さんにおもしれえことしてほしいです。一番おもしれえことできる、その切符はもらっているんだから。ここにいる方々は結構そういう目的でこのイベントに来られたと思うんですけど、今日いまこの瞬間にどこかで、ちゃんと休まれてる方々に関しては、おもしれえことして欲しい。なんか面白いほうがいいじゃん。面白いもん見たいし、僕も…。なので応援してます。で、なんか手伝えることがあったら言ってください。そんなとこで大丈夫ですか?
質問者:大丈夫です。ありがとうございます。
西野氏:ありがとうございました。
※本記事は全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 先輩が引いたレールを走っても追いつけない
第2話 お金の話をするのが汚いと教わった
第3話 人は思い出には金を出す
第4話 お金とは信用である
第5話 グルメ番組に出たら嘘をつかなきゃいけない
第6話 公務員に面白いことをしてほしい