―2019年11月16日、渋谷ヒカリエで「よんなな会」が開催された。全国から約500名の公務員が集まり、豪華な面々が登壇する中、石破茂氏の講演が行われた。重厚感や緊張感をまとう空気の中、ところどころにそれらを緩和する笑いが散りばめられる。以下に、その一幕をお伝えしたい。
石破氏:皆様こんにちは。テレビで見るより怖くないから安心してください。
会場:(笑)。
石破氏:なんかよくわからないまんまに来ることになりましたが、よく公務員に私を呼ぶ度胸があったものです。
会場:(笑)。
石破氏:テレビとか新聞では唯一の反主流派なんて言われておりますが、このあと、高野山飛鷹住職のお話、あるいは気象庁予報課長のお話、FISHBOYさんのご講演、あるいはアンダーグラフさんのお話、相当面白い話、ためになる話がありますので、冒頭は重い話になります。私がそんな軽い話をするはずはないので・・・。
会場:(笑)。
石破氏:官僚とか、役人とか、官吏とか、公務員とか、いろんな言いかたがありますが、前の鳥取県知事に片山善博さんという人がおりましてね、この人は立候補するときにこんなことを言っとったですね。
「役に立つ人だから役人。役に立たないやつを不役人というのだ」。なるほど、役に立つところが役所という。役に立たないところは、不役所という。なかなか言い得て妙だね、というふうに思っておりました。実際そうだろうと思います。
私は農林とか防衛とか、いろんな仕事をやってきました。防衛の仕事が長かったんですが、麻生内閣で農林水産大臣なるものを拝命いたしました。大体こう、大臣がしょっちゅう代わるのは決していいことではないのですが、福田内閣で防衛大臣を拝命したときは、9か月で4人目の大臣でした。久間大臣、小池大臣、高村大臣、石破茂。そりゃたまらんですよね、9か月に4人大臣代わられたら。
その1年後に農林水産大臣になった時も、1年9か月で農林水産大臣は、私で6人目でした。嘘じゃないよ、松岡大臣、赤城大臣、遠藤大臣、若林大臣、太田大臣、石破茂。1年9か月で6人の大臣、なかなか大変な時代でしたね。私は防衛大臣から農林水産大臣になりまして、もちろんその前に政務次官とか、副大臣とかをやりましたが、防衛省っていうのは基本的に「お客様」がいないんですね。農林水産省の場合にはもう生産者から消費者から流通のみなさまから、国民全てが「お客様」みたいなものでありまして。
法律にしても、予算にしても、それはある意味で「商品」なんだよね。どんな商品を作るか、企画・立案、そして開発があって、予算とか法律とかを国会に出して、これを通して実現する。それを国民の皆さん方に使っていただいて、それで評判がいいか悪いかっていう、今でいうPDCAみたいなもんですよね。農水大臣になったときに、そういうサイクルが法律にも予算にもあるべきだよねって話をしたんですね。
「大臣なにをおっしゃっておられるんでしょうか」とキョトンとされたんですが、公務員っていうのは、最大のサービス産業なので、そういうふうにして商品を作り、そしてまたそれを宣伝し、それを売り、その評価を受け止めるみたいな、そういうサイクルはちゃんとあんだろうかねっていう話、私はそうであるべきだと思っています。
そんなことで農林水産大臣をやっていたわけですが、とにかく役所の作る書類というのは、いかにわからないように作るかというたいへんな芸がある人たちがいっぱいいてですね、あれはもう、全然よくない。
最近はですね、パソコン使ってやたら色が多い、やたら図は多い、でもよくわからない、という書類が多いような気がするのです。「お客様」にとって必要な情報とは何なのだ。この政策の意義とかそんなことは別にお客様にとって必要のない話で、とにかくニーズにどう応えているか、っていうことさえ書いてくれりゃいいと。10枚の書類を5枚にしてね、4枚の書類を2枚にしてねとお願いしたら、「大臣、おっしゃるとおり10枚の書類を5枚にいたしてまいりました」と課長さんが来たんですね。そうすると5枚になってましたよ。だけどこれが両面コピーになってました。
会場:(笑)。
石破氏:感心をしたらいいのか、ばかにするなと怒ればいいのか(笑)。
会場:(笑)。
石破氏:なかなか官僚というのは大変なものだな、というふうに思ったりしました。でも、難しいことを易しくしゃべれない人は、たぶん本当のことがわかってないんだろうと思います。難しいことを易しくしゃべる、易しいことはもっと易しくしゃべる、というのが大事なことであって、ときどき易しいことを難しくしゃべって悦に入っている人もいるんだが、そういうことはやめたほうがいいと思いますね。
いろんな政策を説明するときに、全国の都道府県から課長さんたちを集めて、本省の課長さんがお話をしますよね。これも大臣のときに、理解度テストをやれって言ったんですね。どれくらい話がわかったか、という理解度テスト。でも、「それはできません。某県は98点でしたが、某県は40点ですっていうと、その人の将来がなくなりかねないので、やめてください」とかって言われるんですね。
だけども、ほんとはそうあるべきじゃないの、ということだと思います。局長にしても課長にしても、参事官にしても審議官にしても、政策を説明するときは例えばDVDにするとかして、それぞれが自分の都道府県に持ち帰って、ちゃんと説明できるようにしてやってね、ということを申しました。
地方公務員に限りませんし、もちろん動画にも限りません。いかにしたら「お客様」たる国民にわかってもらえるかってことが、公務員としては大事なことだと思います。
そして、退庁するとき、役所を出るとき、これは防衛大臣のときにもずいぶんと言ったことですが、今日1日自分はどれだけ人のために仕事ができたかな、ということを考えて退庁するようにしてね、ということも申しておりました。
民間でもそうだと思いますが、特に公務員の場合には、役所を出るときに今日1日どれだけ自分がやった仕事で人が喜んでくれたかな、どれだけ人の役にたったかな、そういう思いを持ってほしい、というお願いをいたしました。
大臣には秘書官がつくわけですが、防衛省でも農水省でも内閣府の地方創生担当でも、秘書官の皆さんがたにお願いをしたのは、「大臣それは違いますよ」っていうことをちゃんと言ってくれ、ということでした。「大臣それは間違いです」と言える人でないと私の秘書官としてはいらない、ということを申しました。
やっぱり誰でも、上に逆らうとやばいんじゃないの、みたいに思う。それを忖度というかどうかは別として。でも、大臣の言うことが国民のためになっていないと思うんであれば、「それは間違いです」と言うのは公務員の役割であり矜持である、と今でも私は思っています。
ですから、防衛省でも農林省でも内閣府でも、そういう人たちと仕事ができたということは、私にとってはとても幸せなことであったと思うし、公務員というのはそうあってもらいたいと思っておるところであります。
(写真 = 荒井勇紀)
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第2話 このままいったらこの国がなくなる