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ホテルマンにとって、お客のプライバシーは守るべき最後の倫理

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ホテルマンとプライバシー【トラベルスクエア】

ホテルマンにとって、お客のプライバシーは守るべき最後の倫理

[記事提供=旬刊旅行新聞]

 もう終了してしまったけれど、福山雅治さん主演のテレビドラマシリーズ「集団左遷」を楽しまれた人も多いと思う。
 
 一銀行マンが上層部立案の大リストラ計画や、外資ファンドとの提携事業に真っ向から立ち向かっていく姿を描いたもので、福山さんの若干、演技ならぬ顔技が強すぎて苦笑ものの感じがしたものの、概して面白く見ることができたのだが、最後の最後で、これは? と感じる場面があった。
 
 物語のラストで、福山さんは政治家と結託して銀行の行く末を歪める常務に不正の証拠をつかもうと頑張る。常務がその政治家と密談している場所を特定するために、仲間たちを募って、密会場所のホテルに探りを入れるわけだ。みんな、ホテルのベルさんなどに聞き込みを続け、あっさり証言の数々を手に入れてしまう。
 
 ここで、突っ込みたくなる。おいおい、それはないだろう、と。
 
 ドラマではいともやすやすと銀行勤めの人たちが、常務や政治家の顔写真を見せて回って、「あ~。この方々なら、いらしゃいましたよ」と聞き込みの成果を上げる。これはあり得ない。ホテルマンがそう簡単に個人がホテルに来たかどうかなどというプライバシーを伝えることはあってはならないことだ。警察の聞き込みならまだしも(それだって軽々と受け入れるべきではない)、一民間人が言ってぺらぺら重要証言を喋る設定はいくらなんでも、我が業界のことを軽視しすぎているように思う。
 
 ネットを見ていても、ホテル勤務の方々が、こんなに口が軽いと思われるのは心外、という投稿がいくつもあった。
 
 ともあれ、世の中は監視カメラの普及とともに、どんどんプライバシーが晒されてしまう危険性が増えている。顔認証システムの精度の高さはいつの間にここまで進化したの、と溜息が出るほどだ。思いだすのは、昨年のハロウィーンでの渋谷スクランブル交差点での乱痴気騒ぎのメンバーが監視カメラの連鎖で、逃げた先まで追跡され、あっさり逮捕されたこと。すごい捜査能力ではないか。監視カメラの先進国、中国や英国だったら、と戦慄さえ覚える。
 
 キャッシュレス社会到来の基礎は監視カメラと顔認証などの組み合わせによる個人アイデンティティの保証だから、これからプライバシー領域はどんどん「取引」の分野に吸収されていくのか。
 
 でも、だからといって、ホテルや旅館のスタッフが、お客の情報をぺらぺら喋っていいわけではない。一度、懐に入った鳥は最後まで護る。これがホテルや旅館の人たちが守るべき最後の倫理だろう。ホテルや旅館関連の団体は、この「集団左遷」でのホテルの扱い方に断固、正式な抗議をすべきだと思う。

松坂健
オフィス アト・ランダム 代表 松坂 健 氏
1949年東京・浅草生まれ。1971年、74年にそれぞれ慶應義塾大学の法学部・文学部を卒業。柴田書店入社、月刊食堂副編集長を経て、84年から93年まで月刊ホテル旅館編集長。01年~03年長崎国際大学、03年~15年西武文理大学教授。16年~19年3月まで跡見学園女子大学教授。著書に『ホスピタリティ進化論』など。ミステリ評論も継続中。

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