――2017年11月12日に渋谷ヒカリエで開催された国家公務員、地方公務員が600人集まった「第10回よんなな会」。お笑い芸人キングコングの西野亮廣氏が、お金と広告、そして公務員についてお話された。第2話。
絵本が売れない理由が分からなかった
西野亮廣氏:で、1作目に『Dr.インクの星空キネマ』ていう絵本描いたんですよ。これ4年ぐらいかかったんですよ。帯には制作5年って書いてますが、あれ嘘です(笑)。4年です。5年のほうが売れるかなあと思って嘘ついたんです。
会場:(笑)。
物語がね、面白いんですよ。読んでみてください。すげえ良いのができたんですよ(笑)。で、これは世界中がひっくり返るんじゃないかなと思ったんです。なんか、もう100万部ぐらい余裕で売れちゃうんだろうって。こんな絵を誰も見たことないから、「これは売れるぞ」、「これは大変なことになるぞ」と思って世に出したら、3万部しか売れなかったんです。
絵本の世界って、5千部とか1万部とかでヒットって言われるようなちっちゃい市場ですから、3万部でもちょっと売れてるほうなんですけど、それは業界とかで知ってるぐらいの話で。世間的には、3万部のヒットって知らないんですよ。「ディズニー倒す」なんかもってのほかなんですよ。
おかしい。この絵本がなんで売れないのか、おかしい。だって良いものじゃん。誰に聞いたって反応が良いんですよ。アマゾンのレビューとか見ても反応がすこぶる良いんですよ。その場で見せたら、全員みんな買ってくれるんですよ。だけど売れない。なんでだ? 良いもん作ったら売れるんじゃなかったのか、と思ったんですけど、売れなかったんですよ。これは何か間違ってる。世の中の人が間違ってるんじゃねえか、と思って。
作品は売らなきゃいけない
ここでグジグジグジグジ言ってたって仕方がないので、もう『Dr.インクの星空キネマ』は、パッパッと諦めて、次に2作目、『Zip&Candy』っていう本出したんですよ。これはね、本当に良い話(笑)。
会場:(笑)。
すごく面白い物語で絵もすごい。その頃には絵がむちゃくちゃ上手くなってたんですよ。今度こそ、「これはやばいぞ! 売れるぞ!」と思って。しかも、クリスマスの物語で、発売時期がクリスマスにぶつかったんですよ。これは大変なことになる、100万部ぐらいいくんじゃねえかなと思って。明日から忙しくなると思って世にパって出したら、3万部しか売れなかったんですよ(笑)。
会場:(笑)。
なんか売れねえーんですよ僕の絵本、おかしいなと。誰に見せたって反応良いんですよ。誰に見せたって反応良いんだけど売れないんですよ。その頃に、絵本作家になるって言って、テレビから軸足を抜いて、すでに6~7年ぐらい経ってたんですよ。で、どうなったかって言うと、世間的に「キングコング西野って最近見ないよね」って。
会場:(笑)。
ディズニー倒そうと思って。それで7年ぐらい経ってて、世間的にはどうなってたかというと、「キングコング西野、最近見ないよね」って。世間的にはもう忘れられてるんですよ。つまり何かって言うと、僕はその7年間めちゃくちゃ活動してたんですよ。毎日毎日朝までずっと作業してたんですよ。
でも、やっぱり作品っていうのはお客さんの手に届かないと、作ったこととしてカウントされないんです。世間的には「キングコング西野は7年間何もしてなかった」って思われている。そのときにハッと思ったのは、当たり前なんだけど、作品って作ったら売らなきゃいけないんだと。イベントってお客さん呼ばなきゃいけないんだと。
恋人のLINEに勝とうと思ったらヤバい
集客、広告ってきわめて大切で、ここを勝手に僕、無視してたんです。だから、『作る』っていう言葉を再定義する必要がある。圧倒的な作品を作るのは当たり前の話で、これをお客さんの手に届くまで導線までデザインして初めて作るって言わないと、作ったこととしてカウントされないんだから、ただ作っただけのものは未完成品であるっていうふうに定義していく。
で、自分はこの仕事をしてるので、仕事柄、各地方に飛ばされるんですよ。地方行ったら、職人さんの技術すげえんですよ。有田焼とかすげえんですよ。もうナントカ織とかすげえんですよ。むちゃくちゃ綺麗なんですよ。むちゃくちゃ美しいし、圧倒的なクオリティなんだけど、今の作るっていう定義でいうと、世の中の99%が未完成品。なぜなら、届けるところまではデザインできてないから。売ること全然やってねえということです。
昔は問屋に任せてりゃよかったんだけど。今は例えば、有田焼とAKBのライブと、メルカリと恋人からのLINEとかが、スマホっていう同じ棚に並べられてしまうから、届けることをすごく一生懸命やらないと負けてしまう。
恋人のLINEに勝とうと思ったらヤバいですよ。だって恋人のLINEのほうが僕取りたいもん。可愛い女の子からLINE来て、そっちとやり取りしてるほうがおもしれえから。
お金の話をするのが汚いと教わった
じゃあ、これまでの3カ月、自分は3カ月どうだったか?って、振り返ってみたら、やっぱ『Zip&Candy』も『Dr.インクの星空のキネマ』も届けることやってなかったんです。
じゃあ、なぜやらなかったのかって言うと、届けることに一生懸命になるのって、職人としてクリエイターとして“だせえ”と思ったんです。お金の話するのって“汚ねえ”って教わったんです。
お父さんお母さんから学校の先生、そこら辺にいた皆はお金の話するなんて汚ねえって。なんか、ホリエモン汚ねえとか、与沢翼汚ねえみたいな、なんかそういう印象持っちゃっているんです。だから、売ることに必死になるっていうのは、すごくみっともないことだと思っていた。
僕は作ったものを吉本興業だとか幻冬舎とか出版社に任せていたんだけど、そっちのほうがカッコいいと思ったの。そっちのほうがカッコいいと思ったんだけど、作るだけ作って届けることを人に任せるっていうのは、これは育児放棄。親なんだから、自分が一番しんどい思いをして、泥水吸って、子どもを育てあげなきゃいけねえなってときに、絶対売るぞって決めたんですね。
※本記事は全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 先輩が引いたレールを走っても追いつけない
第2話 お金の話をするのが汚いと教わった
第3話 人は思い出には金を出す
第4話 お金とは信用である
第5話 グルメ番組に出たら嘘をつかなきゃいけない
第6話 公務員に面白いことをしてほしい