【和光市 山本享兵氏】公認会計士が自治体職員として成果を上げるということ(5/5)

職員は「自分の意思で社会を変えるんだ」と気概を持った方がいい

加藤:逆にプロパーの職員の方にもっとこうしたらよい思うことはありますか?

山本享兵氏:そうですね。「他の誰かが決めてくれる」という意識は変えていったらよいかと思いますね。これは、あらゆる階層の職員について感じます。例えば、担当者は『管理職が決めてくれる』と思っているし、管理職は『担当が提案してくれない』と思っているような傾向はある気がします。また、市長のトップダウンがないと動けないと思っている人も多いような気がします。

 ただ、一定の環境や前提条件が与えられた中でベターな選択肢を選び取る力はとても優れています。それに加えて、「自分の意思で社会を変えるんだ」という気概をもっと持った方がいいんじゃないかとプロパーの人については思いますね。

加藤:その風土はどうしたら変わっていくと思いますか?

山本享兵氏:それは私もまだよくわからないんですけど、そういうことを感じるたびに、「仮説としてどちらが良いのか決めて話せないと、建設的に物事は動かない」ということは、関わる人に対して気が付くたびに伝えるようにしています。

加藤:もしそういう状況ですと、役所の中で特定の成果が生まれた時、人事評価において『成果の帰属』が曖昧にはならないのでしょうか?

山本享兵氏:中の人からは、そう見えているかもしれないですね。ただ、自分は外から入ってきているので、中にいる人の能力を比較的ニュートラルに見れていると思うんですけど、スピード感を持って昇格している人や中枢に位置付けられている人は『自分から発信できる人』のような気はします。

 実際はそういう人が出世しているんですが、『意思を持って行動していくこと』が評価につながるとは、表立っては認識されていない気がします。

『自治体版IPO』を目指す

加藤:現在の業務において今後成し遂げたいことは何でしょうか?

山本享兵氏:公会計制度を完成させて、自分の手から離せる状態にしたいですね。自分の任期は3年間で、あと2年くらいですが、最後の1年は公会計に関わらなくても大丈夫だという状態にしたいと思います(笑)。

 よく、「山本さんがいなくなってから和光市の公会計はどうなるの?」ということを聞かれることがありますが、特別な会計の知識がない人でも運用できる仕組みを作るということを最も意識しているので、それが実現できるようにその工夫を突き詰めていきたいですね。まだ、できることは無限にあると思います。

 自分がやっている和光市の仕事は『自治体版のIPO』だと思っているんですね。

 かっちりした資産管理の仕組みが欠けているなかでも、昔からのまちづくりの経緯や地域の隅々をよくご存知の経営層、管理職の方が合理的に経営しているのが、今の和光市だと思うんですが、彼らが今後退職していった時にそれができるようにする必要があると思います。

 それは属人的じゃなく、いつでも経営管理データを確認しながら意思決定を進めていくような経営ができるようになることを目指すので、民間の株式公開となんら変わらないと思うんですね。だから、『自治体版IPO』をしたい、というような考え方をもっているんです。

加藤:『自治体版IPO』という表現は、とても面白いですね。

専門性を活かして、色々な部署で自分の力を試したい

加藤:任期が終了した後に何をされたいですか?

山本享兵氏:認めてもらえれば継続して和光市が希望ですね。ただ、これについては職員の採用の仕組みの制約などもあるので、簡単にそうなれるわけではないとは認識しています。

 仮に残った場合に何をしたいかというと、会計の専門家としての知見を活かしつつ、役所内の様々な部署を巡って、どのように役に立てるのかを試してみたいですね。

 例えば、政策の部署に入って総合振興計画を作るとか、会計課に移って現場の支払い事務を改善できることがあるかもしれないですし、これから本格的に動きだす自治体監査制度改革や自治体内部統制に携わるなどもいいかもしれません。

 もっと色々な現場に行って、色々な部署で自分の力をぶつけていきたいですし、それが自治体で働く公認会計士のロールモデルとなって、会計士が自治体で働いているのが当たり前な世界にしていく一歩になれたらと思うんですね。

 今の自分が役所で働けているのは公会計制度の導入があったり、理解のある松本市長だからということもあると思うんですけど、今後、20年30年働き続けて、「そういう働き方もありだよね」って自治体の業界からも、会計士の業界からも認知されている状態にできればと思います。

ニュースに流れることで自治体に関係ないことは殆どない

加藤:最後に、地方自治体で働いている中で醍醐味を教えて頂けますか?

山本享兵氏:役所は何事も変化が起きないで淡々としているというイメージが強いと思うんですが、社会の変化の影響に常に晒されているんですね。本当に、日々ダイナミックで常にシビアな意思決定に迫られているということが面白いですよね。刺激があります。

 それこそ、ニュースに流れることで自治体に関係のないことって殆どないので、それが面白いですよね。民間企業も厳しい経営環境に晒されながら、苦しんでいるとは思うんですけど、社会で何が起きても自治体に全部しわ寄せが来るということは、なかなか凄い仕事なんだと思います。

 あとは、とても多角化した組織でして、本当に色々な事業に触れることができる。普通の会社に勤めたら、こんなに多種多様な事業に触れて、それぞれの悩みを共有して仕事をすることなんてまずないと思うので、そこも刺激的ですね。

加藤:確かにそう思います。インタビューは以上です。ありがとうございました。

山本享兵氏:こちらこそ、ありがとうございました。

編集後記

 山本氏とは、一緒に和光市の町を歩かせて頂いた。その際、地域で活躍する方の話を教えて頂いたのだが、その情報量の豊富さには舌を巻いた。自ら町を巡り、町を知り、町の活動に参加していくことを大切にする。その上で専門家としての知見を活かしてすぐに成果を出すということは、並大抵の人ができることではないと思う。

 振り返ってみると「役所は物事を変えやすい組織であり、ボトムアップで変えていくことが大事だ」という視点は、非常に新鮮で示唆に富むものだったように感じる。

 ところで、自明ではあるが、自治体が必要とする人材というのは、時代によって移り変わっていく。山本氏の場合は公会計という課題が存在したので、そこにスペシャリストとしてのニーズが生まれた。

 今、自治体は、ウェブやテクノロジーに関連する領域への対応、公共施設の老朽化への対応、情報発信力やPR力等の様々な課題がある。それを見ると、民間でそういった分野の第一線で仕事をしていたスペシャリストが地方自治体に興味を持ち、そこに活躍の場を見出してくれたらと願う。

 海外国に見られるような人材流動性の高い社会の良い点は、人材リソースを将来性のある産業領域に呼び込むことで、そのリソースのアウトプットを最大化できることだ。

 今後、社会は間違いなく、より公益性の高い世界を望むようになる。その中で、地方自治体の役割は今後ますます重要性が高まっていくだろう。そのような重責を担う組織にこそ、社会が必要なリソースを投下することが望ましい。

 そういう文脈において、山本氏の活躍は、会計士という領域だけではなく、民間領域全てのスペシャリストを後押しし、地方自治体を盛り立てていく大きな力となるのではないだろうか。

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【和光市 山本享兵氏】公認会計士が自治体職員として成果を上げるということ(3/5)

【和光市 山本享兵氏】公認会計士が自治体職員として成果を上げるということ(4/5)

2017/01/28

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