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総務省消防庁コラム1

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違反是正特別支援員制度の発足[仙南地域広域行政事務組合消防本部(宮城県)]

(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』

はじめに

 当組合は、宮城県の最南部に位置し、白石市、角田市、蔵王町、七ヶ宿町、大河原町、村田町、柴田町、川崎町、丸森町の2市7町で構成されており、人口約17万8千人を管轄しています。
 河川は、東部を流れる阿武隈川と蔵王連峰から流れる白石川が平野部の農耕地を潤し、北部には仙台市の上水道の源となる釜房湖をもつ碁石川が流れています。
 地勢は、圏域西部一帯の標高が高く、奥羽山脈蔵王連峰の熊野岳(標高1,841m)が主峰であり、東に向かってなだらかな丘陵地帯が広がる一方で、東部及び南部は阿武隈山地に囲まれ、それぞれの丘陵地帯をぬって流れる阿武隈川及び白石川の流域には盆地が形成されています。
 白石川堤防沿いの「一目千本桜」は桜名所百選にも選ばれ、春には、全国から大勢の観光客が訪れます。また、蔵王連峰の中央部で最も標高が高いエリアには、火口湖で有名な「御釜」があり、季節を問わず観光スポットとなっています。

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 白石市内にある「白石城」は、伊達政宗の右腕であった片倉小十郎景綱の居城として知られています。毎年秋には、「鬼小十郎まつり」が開催され、メインイベントの「片倉軍VS真田軍決戦・大坂夏の陣~道明寺の戦い~」では、 白石城主二代目片倉小十郎重長の大坂夏の陣における活躍を、一般から募集したエキストラによる合戦シーンなどで再現します。当消防本部の救助隊も、「真田忍者隊」として出演していますので、機会があれば、片倉軍、真田軍双方の武者がぶつかる勇壮な合戦シーンを是非ご覧ください。

違反是正特別支援員制度の発足2

消防本部の組織

 当消防本部は、1本部・4署・5出張所の職員233名で組織され、2交替制を敷いています。

予防業務体制

 当消防本部の予防体制は、消防本部に予防課があり、次長兼予防課長のほか、課長補佐と危険物係長、予防係長の4名体制で予防行政全般及び外郭団体の運用を行っています。
 消防署の予防体制は、各消防署・出張所において、隔日勤務の予防係が、火災・救助・救急等の災害業務を兼務しながら、消防用設備規制や消防同意、危険物規制、火薬類取締法規制、液化石油ガス関係、各種届出処理、特別査察の実施、婦人防火クラブや危険物安全協会等の事務処理を行っています。その他、災害出動はもちろんのこと、指揮隊運用訓練、救助技術指導会、毎月の救助隊合同訓練、救急訓練(PA連携)、火災対応訓練等業務を行っています。
 管轄面積が1551.40平方キロメートルと非常に広く、9つの各署所で予防事務処理を行っています。各署所に予防係の日勤者や専従員は配置していません。予防査察については、勤務日の他、非番日や週休日で救助隊、警防隊、救命士、総務係問わず実施しています。

違反是正支援アドバイザー制度

 東京都新宿区歌舞伎町の雑居ビル火災(平成13年9月、死者44名)や、兵庫県宝塚市のカラオケボックス火災(平成19年1月、死者3名)や、大阪市浪速区の個室ビデオ店火災(平成20年10月、死者1名)、群馬県渋川市の老人ホーム火災(平成21年3月、死者10名)など、多数の人的被害を伴う火災が発生している中で、それらの緊急調査等の結果では、依然として消防法令違反の建築物が散見され、是正状況にも地域差が認められているような状況でありました。特に、違反対象物に対する措置命令の発動は、職員数1,000名以上の大規模な消防本部に偏っている状況でした。
 こうした地域差を解消し、全国的な違反是正の取組を進めていくために、総務省消防庁では、平成22年に「違反是正支援アドバイザー制度」を発足させ、各消防本部等からの依頼に基づき、違反処理事務等を支援するため、違反是正に関して豊富な知識・経験を有する消防職員を違反是正支援アドバイザーとして派遣する事業を開始しました。
 また、平成28年5月に開催された全国消防長会予防委員会においては、「違反是正支援アドバイザー制度の充実・強化」について要望がなされたことを踏まえ、都道府県違反是正支援アドバイザー(以下「都道府県アドバイザー」という。)又は全国違反是正支援アドバイザーを各都道府県に配置することとなりました。当消防本部においては、平成29年度から宮城県の都道府県アドバイザー本部となり、各地域の消防本部への支援を行っています。

組織の課題

 都道府県アドバイザーについては、宮城県総務部消防課からの推薦により、総務省消防庁から委嘱されているものであり、都道府県アドバイザーとなっている職員は、宮城県内のみならず、東北各地、全国の消防本部から、違反処理についての意見や見解を求められています。その意見や見解については、経験があって初めて説得力を有する現実的なものとなります。
 都道府県アドバイザーの活動としては、当消防本部内で、都道府県アドバイザーが中心となって違反処理を行ったり、違反処理の協議会で意見を伝えたり、他消防本部へ講師として派遣しているところですが、「具体的な方策の助言」など違反是正支援アドバイザーの本来の趣旨を達成するためには、今後、さらなる能力向上を図る必要があります。
 また、新たな職員が都道府県アドバイザーとなった場合、当消防本部では、違反処理の実績としては消防法第17条の4の命令が主であり、消防法第5条関係や告発、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟、行政不服審査法に基づく審査請求に関する助言等を求められたときに、違反是正支援アドバイザーとして的確な助言ができるのかが不安であるとの声がありました。
 仮にそれまで違反処理等の業務に従事していたとしても、他の消防本部にアドバイスすることに対する経験が少ないことから、精神的負担が増加すると思慮され、都道府県アドバイザーへの意欲や意思はあっても、経験不足、知識不足が都道府県アドバイザー育成を阻害する状態となっていました。

効果と展望

 現在の当消防本部における予防業務体制のように、自署のみの違反処理事案だけでは、経験不足や知識不足を解消することはできません。
 そのような経験・知識不足を解消するため、違反是正特別支援員(以下「特別支援員」という。)制度を創設し、自署のみならず、署々間の垣根を越えて、特別支援員を様々な違反処理案件や特別査察に積極的に派遣し、違反処理の経験を積ませることにより、経験や知識不足の解消に努めます。
 また、定期に特別支援員会議や研修を開催することにより、違反処理において困難であった事案の共有、奏功や失敗事例など、より深い知識や技術を身に付けることが可能になります。
 特別支援員を都道府県アドバイザーの予備軍として位置付けし、現在の都道府県アドバイザーから助言や指導を受けながら、数年間、都道府県アドバイザーとしての準備期間を設けることにより、知識や経験不足への不安を解消させ、今後の都道府県アドバイザーの養成が円滑なものとなることでしょう。
 さらには、そのような特別支援員経験者が各署所に増加することにより、当消防本部としての違反処理の基礎、土台が固まり、現代から未来への「知識、技術の伝承」となって当消防本部の組織の底上げとなると考えています。
 そのような期待を胸に、この制度を発足させました。

違反是正特別支援員の任命

 仙南地域広域行政事務組合消防本部違反是正特別支援員制度要綱を令和2年3月17日に公布し、令和2年4月1日に施行となりました。令和2年4月14日には任命式を行い、各署長から推薦された職員6名(消防司令補3名、消防士長3名)を、初代「違反是正特別支援員」として任命しました。

違反是正特別支援員制度の発足3

違反是正特別支援員の任務

【心得】

特別支援員の大前提として、各署所における違反処理の主体は各署所の予防担当者であり、リーダーは各署所の主幹、係長であること。方針決定については、各所属長が決定権者であることから、担当署所の主幹、係長を通し、所属長が決定すること。
各支援員は、違反処理全般について、担当署所の意見を尊重しながら、意見や助言等の発言を行うこと。

【具体的任務】

  1. 自署所管内の違反対象物の洗い出し(重大違反以外の違反も含む。)
     重大違反については、フォローアップ調査等で把握できているが、重大違反以外の違反(一部未設置、一部機能不良、防火管理違反等)について、違反の現状を把握し、消防本部予防課へ報告すること。
  2. 自署所管内における法令違反の管理
     1で洗い出した法令違反対象物及び重大違反対象物について優先順位を定め、違反の是正に向かうよう指導状況等を管理し、是正が停滞するようであれば、積極的に違反処理へ移行するよう各署所の主幹、係長へ「相談」すること。
  3. 自署所管内の職員へのフィードバック
     特別支援員は、違反処理事案の派遣や都道府県アドバイザーによる研修を受けて、学び得た知識や技術を自管内の職員へ定期にフィードバック(研修や書面報告等)を行うこと。
  4. 特別支援員の活動状況の可視化として、毎月、消防長にその活動報告を提出すること。

 全国の消防本部では、「特別査察隊」のように、その分野に特化した職員を設置しているところはありますが、特別査察隊等は、その査察隊が主体となって違反処理を実施します。
 その一方で、当消防本部においては、予防専従員という職員は配置しておらず、災害活動はもちろんのこと、救助業務、救急業務等を兼務しながら、隔日勤務で予防業務を遂行しています。そのため、都道府県アドバイザーや消防本部予防課による専従的な違反処理ではなく、「誰でもできる」違反処理体制の構築を目指しています。「特別支援員」は、管轄署所を違反処理の主体とすることを崩さず、それを支援(研修)しながら、違反是正アドバイザーとしての知識、技術を向上させていき、自署管内の職員にアウトプットしていくものです。このような制度については、全国でもあまり聞いたことはなく、まさに「仙南style」と呼べるものでしょう。

違反是正特別支援員制度の発足4

違反是正特別支援員制度の発足5

未来への伝承と使命

 違反処理については、消防法のみならず、行政手続法や行政不服審査法、行政事件訴訟法など、様々な関係法令の精査が必要であり、対象事案を経験することにより、その知識や技術を習得していけるものです。
 政令指定都市や中規模消防本部においては、違反処理は継続的に行われていることでしょう。しかし、当消防本部にとっては、各署所に日勤者もおらず、専門性もない中、また、他業務との兼ね合いで限られた時間の中で、高度な法律知識を必要とする違反処理業務を継続させるというのは、決して容易なことではありません。
 そのような中で、当消防本部の違反処理体制が「当たり前」になったのは、階級を問わず、予防係全員で、その違反処理案件ごとに、みんなで考え、討論し、意見を出し合うことにあります。消防本部予防課や都道府県アドバイザー主体のトップダウンでは、職員は消防本部予防課任せで成長を阻害します。当消防本部の予防力、違反処理力が強化された要因は「組織全体で考える」という環境変化にあると確信しています。
 「階級の垣根を越えて、意志や意見が飛び交い、反映される気風」。組織は「人」が育たなければ発展、成長はありません。人を「育てる」のではなく、人が「育つ」職場を創ることこそが、組織に根付く要因であると感じています。都道府県アドバイザーや違反是正支援員を中心に、活発な意見のぶつけ合い、闘論をしていきます。御承知のとおり、「火災予防」は火災発生危険を未然に防ぎょし、火災による死者を防ぐ最大の「人命救助」であることは間違いありません。放火や漏電など、故意性もなく、どこから発生するかわからない現代の火災に対し、「火災をゼロにする」というのは“おとぎ話”です。やはり火災が発生しても死者を出さない等「被害を最小限にする」ための消防用設備等であり、「火災発生のリスクを最小限に減らす」ための防火管理なのでしょう。また、札幌江戸城火災や新宿歌舞伎町火災を繰り返さないことや火災による死者を発生させないことは戦争を繰り返さないのと一緒です。火災事例こそが、最大の「教訓」であり、その「教訓」を現代に伝えていくことも、消防責任としての使命なのです。それが過去の火災での犠牲者との約束であり、被害者の願いでしょう。それでも過去の火災事例は知られていないことが多く、消防職員でさえ知らないこともあります。
 過去の歴史から学んだ「教訓」を無駄にせず、違反是正という住民との最低限の約束を果たすためにも、過去の火災事例等の伝達も含めて「違反是正」だという強い使命感の下に活動していきたいと考えています。

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おわりに

 近年の予防行政においては、技術革新による機器の開発や社会情勢の変化による火災被害の発生によって、規制や技術基準はめまぐるしく変化しています。予防消防はその変化に機敏に対応し、業務を適正に、かつ効率的に執行していくことが求められています。
 予防行政は法令による規制です。「訴訟」や「賠償責任」と常に背中合わせであることは間違いありません。10年前と現在の「消防基本六法」(東京法令出版)の厚さを比べても、その差は歴然としています。予防担当者が扱う業務量は膨大化しているのに、予防担当者の数や体制は10年前と変わらないとなると、10年後の予防行政の未来は崩壊していくのではないかと危惧してしまいます。そう考えさせられるくらいの法令改正が、現在の予防行政において現実に行われています。
 現在の予防人員で、「予防行政力」を低下させないためには、担当職員の「質」を高め、業務量を精査し、日本全体として予防行政執行体制の足腰強化を図るしかないのではないかと感じます。
 当消防本部においては、救助隊や警防隊、救急隊を兼務しながら予防業務を精一杯行っている職員が大勢います。このカテゴリーの中で戦っている職員に対し、「やりがい」や「魅力」を見出す環境を創り、未来の予防行政を担う担当職員が、消防法令を適切に執行できるための「教育」や「手段の整備」、そして「予防業務への興味・関心」を持ってもらうことが、「予防行政力」の向上において、今後ますます重要になっていくのだと肝に銘じ、「仙南style」を切り拓いていきます。

東日本豪雨を経て

 台風19号の上陸に伴い、令和元年10月12日から 13日にかけて記録的な大雨をもたらし、各地で河川の 氾濫や土砂災害が相次ぎました。特に丸森町においては、 広範囲にわたる浸水で甚大な被害をもたらし、多くの尊 い命を奪い、また、ライフラインや交通、通信手段の途 絶、市町をはじめ、行政機能や防災機能の崩壊など、想 像を絶する壊滅的な被害を受けました。

 このような状況の中で、宮城県広域消防相互応援協定 に基づく応援隊や緊急消防援助隊の方々には、発災直後 からいち早く被災地に入り、人命救助や行方不明者の捜 索、遺体の収容、負傷者の救急搬送、道路啓開、被災者 の生活支援、困難な作業等たくさんのご支援と善意をい ただきました。この各地からの「消防魂」と、日本人の 根底にある「思いやり」「助け合いの心」は生涯忘れる ことはありません。この場をお借りして御礼申し上げま す。ありがとうございました。(予防課 武田充弘)

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