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【備前市 同前嘉浩 #1】下水道事業で20億円のコスト削減

【同前 嘉浩(どうぜんよしひろ) 経歴】
1978年3月岡山県岡山市生まれ。民間の建設会社などを6年間で5社経験、2002年に旧備前市、日生町で構成する東備水道企業団(現水道課)に入庁。2007年、市町村合併により備前市職員となり建設、農林水産、企業誘致を経て技術職では異例の観光課に配属。
観光課時代に出会った方々から、未来のため今やるべきことに全力を尽くす姿に感銘を受ける。その後、2017年に配属された下水道課で事業の経営破綻回避のため事業改革を実施。
『やるきに不可能なし!』を心情に、仕事もプライベートも万事全力主義で取り組む。2020年度国土交通大臣賞、地方公務員アワード2020受賞

下水道事業へ関わるきっかけ

加藤:同前さんは下水道事業のコストを20億円削減し、「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2020」を受賞されました。まずは下水道事業に携われた経緯を教えてください。

同前氏:私が市役所に入庁したのが16年前で、最初は水道課に配属されました。そこから転々としてきて、技術系部署の中で最後に回ってきたのが下水道課です。
 それまで建設課や水道課の他の部署で土木の仕事をやり、途中で農業や観光もやりつつ、今に至ります。

加藤:現在の下水道の事業では、最初にどのような業務をご担当されましたか。

同前氏:メインは下水道の整備です。下水道整備があと数年で終わる予定があるなかで、市としては早く完了させたい狙いがあったらしいんですね。そこで誰を配置すれば下水道の整備が早められるか検討した時に、私の名前が挙がったと聞いています。
 私自身、本当は前の部署にまだ残りたいと希望を出していましたが、願い叶わず下水道に呼ばれました。

「ワシは下水道を繋げたくないんじゃ」

加藤:平成29年度から下水道事業に関わってから、まず何を課題として感じられましたか。

同前氏:正直に言うと最初の頃は本当に何も分かっていなくて、ただただ上司から言われたことを計画通りに整備していました。
 でも整備をしていくなかで、自然が豊かな地区の住民から「こんな田舎に下水道整備して、本当に市は大丈夫なのか?」って言われまして。「あれ、上司が目指していることと市民が言っていることにズレがあるのかな」と違和感が生まれて来まして。

加藤:その違和感を持つまでには、どれぐらいかかりましたか。

同前氏:配属されてから半年ぐらいです。なので最初は全然課題が何かわからず仕事をしていました。
 ある時、ポツンと一軒しかない路地に下水道整備を進めていたんですね。その一軒の方から「ワシは下水道を繋げたくないんじゃ」って言われたんですよ。
 実は下水道を整備して繋ぐと、一軒あたり100万円程の費用がかかるんですね。そして下水道が使えるようになった土地に対して、事業費の一部を負担していただく負担金が30万円程かかってきます。

加藤:それは双方にとって大金ですね。

同前氏:そうなんです。その一軒に住むご年配の方が「この先ワシの人生は長くないのに、今さら大金かけて下水道を繋ぎたいと思えんわ」と。で、「あれれ?」って思って。

下水道事業は赤字事業

加藤:下水道整備の業務では、市民と対話する機会が多いのでしょうか?

同前氏:やはり負担金の話をしないといけないので、全員に話をして回るんですよ。その時に一対一で話すなかで、同じことを言われるケースは多かったんです。
 そこで「あ、これ市民に望まれていないんだな」と思って。自分の仕事が望まれていないと知ってからは、すごくモヤモヤとした気持ちでいました。

加藤:それは嫌ですよね。

同前氏:はい、本当に苦痛でした。あと市民との対話のなかで「下水道事業は赤字事業でしょ」と言われる方もいらっしゃって。それで調べてみたら実際にすごい赤字だったんですね。
 市民には望まれていないし、市としても赤字事業だし、このまま計画通り下水道事業を進めるのは良くないと思うようになりました。

下水道事業の収益率を試算する

加藤:同前さんは課題が見えてきた後、何から始めたのでしょうか。

同前氏:まずは路線ごとの収益率を試算しました。自分の担当エリアだけでなく、担当外のエリア、そして今後整備していく計画エリアも含めて細かく出してみたんです。そしたら明らかに大赤字になる路線が見つかってきて。

加藤:どれぐらいの赤字ですか。

同前氏:例えば5軒しか家がないのに1億円の費用がかかる路線があって、それは将来的に9千万円の赤字になるんですよね。そういう路線がたくさんあったんですよ。そうやって発見していくと全部が気になっていって、地域全体の試算を進めていきました。

加藤:下水道整備に関わる方の参考にするため、試算の方法を教えていただけますか。

同前氏:すごく簡単に言うと、下水道整備にかかる費用は1メートルあたりの概算が出るんですね。そこに特殊な工法が必要なエリアは割高にしつつ、路線ごとの距離をかけて費用を出します。
 そして収益の方ですが、路線ごとの軒数に一般的な下水道の使用量をかけて、50年あたりの将来的な収益を出します。これで費用と収益の概算が出せます。計算する量が多いので根気は必要ですが、時間をかければ各自治体で試算は可能だと思います。

加藤:同前さんは様々な資格を持っていますよね。そういう知識がない人でも、分析はできるのでしょうか。

同前氏:分析自体はできると思います。ただそれなりに面倒な作業ですから、その手間を考えるとなかなか手を付けられないのはあると思います。

誰も望まない下水道整備を減らす

加藤:赤字事業だと分かったからと言って、「じゃあ計画をやめよう」とはならないと思うのですが、どのように計画変更をしていったのでしょうか。

同前氏:そもそも「うちは下水道管を繋げなくて良いんだけど」って言う方は、本当に必要がなかったりするんですね。個人の家でも処理ができる合併浄化槽を取り入れていたりとか。
 もともと住民の声を拾って整備計画を立てたわけではなく、勝手に市が決めちゃったことですから、そういうことがあるんです。

加藤:なるほど、では現実のニーズに即した方法に調整していった感じなのですね。

同前氏:はい、可能な限り下水道は整備していくんですが、先ほど話したような誰も望まない整備を減らすこともしました。
 やめられたのはほんの一部で、主に下水道管を埋設する深さを浅くするなどの調整をしていったケースが多かったです。

(取材=加藤年紀 編集=小野寺将人)

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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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