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【和光市 山本享兵氏】公認会計士が自治体職員として成果を上げるということ(3/5)

役所は物事を変えやすい組織

加藤:決裁可能額を変更するにあたって、どういう流れで起案を進めたのでしょうか?
山本享兵氏:まず、この状況が変だと思ったんですが、それを変えるにあたって誰もが納得できるような材料を日々日々、集めていくわけです。偶然、近隣市の状況を見たところ、和光市は突出して、合議が多いというのがわかったので、「近隣市並みぐらいにしましょう」と。
 その起案をする時も、「そもそも、合議や決裁というものは内部統制上こういう意味のあるものであって、それを削るのはラクをすることではない」という話もしながら、後ろめたさも与えず、「近隣とも揃えることになるので、普通じゃないですか?」という風に進めていきました。
加藤:この案件については、『近隣市との比較』という強い根拠が集まったタイミングで進めたと。
山本享兵氏:結果的にはそうですね。ただ、根拠も大事なんですが、そこはポイントではありません。人の気持ちを緩やかに傾けていくことと、傾いた時にここぞとばかりに、形にして決裁を進めるというのが大事だと思います。物事が変わるのは、結局、人の気持ちが変わった時だけなんですよ。
加藤:確かに。
山本享兵氏:なので、ここぞというタイミングが来た時の為に、どういう根拠があるかというのを貯めておいて、アイデアはあっても、機が熟していない時には言わない。もしくは、ちょこっと耳に入れておくだけで、「こうじゃないと駄目だ」と断定や強調をしないようにします。その場で結論を求めていく流れにはしません。
加藤:なるほど、なるほど。タイミングが悪い時に起案して通らないと、一度検討してダメだったという烙印を押されますもんね。
山本享兵氏:そうなんです。だから気持ちが傾いた時にあらゆる根拠をぶち込んで変えてしまう。規程に織り込んで、公式なルールに落とし込む。
 役所っていうのは、非常に物事を変えやすい組織なんです。よく、「変えづらい」って言う人も多いんですけど、変えやすいんですよ。なぜかというと、非常に責任範囲が明確なので、だれに納得してもらえば話が進むのかも明確だからです。
 その上、決まった決定事項については皆が尊重するので、覆そうとする人はいない。民間企業だといると思うんですよね(笑)。役所は然るべき責任者が決定したことに対して尊重する風土が凄くあるので、民間よりもよほど物事が変えやすい組織だと思うんですよ。
加藤:面白い意見ですね。職員の方に聞くと、なかなか変わらないという話の方が多く聞く気はします。
山本享兵氏:変えやすいんですよ。逆にそのプロセスがかっちりしているからこそ、それが面倒臭いと感じる面もあるでしょうし、実際、民間から来てプロセスを踏めずに何も変えられない人もいると思います。
 「俺は、市長に連れられて来た専門家なんだから、その俺の意見をなんで聞かないんだ。役所はダメだな」と言って出ていくような展開もありがちです。私はプレイヤーとして和光市に入ったんですが、いきなり課長とかで入って決裁権を持つよりは、プロパーの方の通常の決裁の流れに乗れたのが良かったです。かえって、いきなり課長とかで入ったらうまくいかなかっただろうなと思います(笑)。

「自治体職員になって、自分で先進事例を創ればいい」と思った

加藤:和光市役所でお仕事されるきっかけはなんだったんでしょうか?
山本享兵氏:トーマツで働いている中、新地方公会計制度が本格化してきて、そこで、自治体と仕事で関わるようになっていったんですね。さっきの、『期末一括仕訳』や『日々仕訳』の課題みたいなことがあって、「このままだと日本の公会計はうまくいかないな」って漠然と思っていました。
そんな中、2014年の年末に来年の抱負を考えていた時に、「自治体職員になって、自分で先進事例を創ればいいんだ」と思い、日本一会計に対して理解のある松本市長が和光市役所にいらしたので、ダメモトでアプローチをして、採用して頂きました(笑)。
加藤:今まで、和光市役所に入られる前は、ずっとトーマツにいらしたのでしょうか?
山本享兵氏:そうですね。会計士試験を大学卒業まもなく合格して、その後にトーマツのパブリックセクター部という官公庁関連の仕事をするところに入って、ずっとその部署にいました。
 会計士ということで最初は公益法人や独立行政法人の会計監査をやりました。今起きている公会計改革の前にも、公会計改革の大きなうねりが2007年頃にあったんですが、そこで自治体に関わってから、行政計画の策定支援やベンチャー政策の立案支援なんかもするようにもなっていきました。
 あとは、上場企業の会計監査も並行してやっていたこともあったので、JSOX法の導入支援なんかもやり、民間監査を通じて会計士としての経験するべき仕事も一通り経験できたと思います。
加藤:公認会計士という資格をお持ちで、トーマツという待遇の良い会社にいらっしゃったにも関わらず、なぜ、地方自治体で働きたいと思ったのでしょうか?
山本享兵氏:なぜ、そんなことになったかというと、和光市でやった予算仕訳という仕組みを、コンサル時代にもある程度思いついていたこともあって、いくつかの自治体に「こういうことを、やるべきだよね」と提案はしていたんですね。
 ただ、担当者の方は「いいね」と言ってくれるんですが、実行してくれないんです。なぜかというと、自分が提案していたものは会計の科目も変えなければいけないし、役所の規程も変えなければいけない。それを役所内で調整ができないということでした。
 他の公会計のやり方である『期末一括仕訳』と『日々仕訳』は今までの会計事務を一切変えずに、それに上乗せするという仕組みなので、庁内の調整がラクでお金さえあればできるんですね。このお金の点でも、予算仕訳を進める場合は導入コストがかからないので、本当に進められて良かったと思っています。
 今でも、和光市役所の事例を真似するところが出てきそうで出てこないのは、やろうと思って進めようと思っても、「なぜ、公会計ごときの為に、科目まで変えなければいけないのか?」という意識が役所内にあるので、進んでいかないんですよね。そういうこともあったので、自分が中に入ってとにかくやってみようと(笑)。

強みは『生情報を収集する』、『持続力』、『プログラミング思考』

加藤:仕事をする上で、ご自身の強みは何だと思いますか。
山本享兵氏:あまり考えたことはなかったんですけど、この3つかなと思うのが、『生情報を収集する』、『持続力』、『プログラミング思考』です。
 『生情報を収集する』というのはどういうことかというと、入庁前の休日に和光市にある主な公共施設は生で見てきたり、市長がfacebookで紹介しているお店に立ち寄ってご飯を食べたり、市役所のホームページの新着情報も全て読んだ状態で初日を迎えたので、入った初日の段階で大抵の市職員よりかは和光市のことは詳しくなっていたんじゃないかと思います(笑)。
加藤:徹底度が凄いですね。
山本享兵氏:市のホームページのチェックは今もやっていますし、議会の会議録は図書館で読んでいますし、和光市史みたいなものも読んでいます。仕事が終わってからは、よくこの地図を片手にまちをスーツのままジョギングがてら走り回っています(笑)。

和光市地図メモ

町の地図にびっしりとメモが記載されている

加藤:これは凄いですね。
山本享兵氏:あと、『生情報』関係ですと、全省庁のホームページの新着情報や、最高裁判所の判例などは全部把握するようにしていますね。それらについて『持続力』を持ってやり続ける習慣があるというのは強みかなと思います。一つ一つは大したことがないですが、それを何年も継続できるということは、できそうでできないことかなと思います。
加藤:3つ目の強み、『プログラミング思考』というのはどういうことでしょうか?
山本享兵氏:仕事を進める時に、常に社会や組織をプログラミングしていると考えながら進めています。仕事において、構造化プログラミングにおける『順接』、『反復』、『分岐』なんかを意識して、自分の意図通りに『確実』に、『永続的』に処理され続けるかどうかを考えます。
 その理論に反するものは絶対にいつか忘れられた取り組みになるので、しっかりと、その場でプログラミングをしていくことを心がけています。そうすることで、取り組みが一過性になるということがなく、自分がいなくなっても、自分が思い描いた世界がそこに残って、残った人がやってくれるというのが強みかなと思います。
 正直、他の公認会計士に比べて会計知識が凄く深いとか、監査能力が高いというわけではないですが、成果をあげられるのが何故かといえばそういうところなのかなと思っています。

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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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