インタビュー

【塩尻市 山田崇氏:第5話】カタナを抜いている公務員は 見たことがない

山田崇5

外で活動するときは 公務員であることを知ってもらう

加藤:役所を出て活動をする時に、気をつけていることはありますか。

山田氏:1週間は168時間で、誰でも一緒なんですよ。仕事をする40時間はあるけど、残りの128時間は、1人の塩尻市民として、1人の山田崇として、ありたいようにあっていいと思っているんです。

 私は青年会議所のメンバーも経験させてもらいましたし、地元の消防団も部長までやった。そういう中で、「山田崇がやっている『nanoda』は、公務員としての仕事なの?」と聞かれる。「これは、私が自腹で個人的にやっているプロジェクトですよ」とは言います。だけど、やっている私は公務員なんですよ。それは、隠せないですし、むしろ、しっかりと見えるようにする(笑)。

公務員の与信

加藤:公務員だと言えることが、武器ですよね。

山田氏:だってね、『nanoda』に『お掃除なのだ』というプロジェクトがあって、皆で集まって、商店街の空き家を掃除させてもらって、そのあと大家さんと食事したり、コーヒー飲んだりするんですけど、公務員だから掃除させてくれたりするんですよ。公務員だからまず3か月貸してもらえたなって思っています。それは公務員の与信です。

目に見えない信頼資本は地域にある

山田氏:あと、地域だからやりやすいっていうのもある。私は「山田征(すすむ)の息子でしょ」って言われる。「すっちゃんの息子でしょ」、「融子さんの息子でしょ」って言われる。既に両親や祖父母の地域での信頼資本があるんですよ。

 それは、地域で両親やおじいちゃん、おばあちゃん、いやその前から培ってきていただいたもの。もし、東京だったら会社とか肩書きがないと信用してくれないかもしれないし、別の担保を作らないといけないかもしれない。だけど、「目に見えない信頼資本は、地域にあるんだな」っていうのをやってみてわかったんですよね。

加藤:なるほど。そういう視点もあるんですね。

山田氏:ある意味それに縛られるから、地域を離れる若い人が出て来る。私自身も東京に出ましたよ、外に出た。でも、しがらみのない渋谷だからナンパできたかもしれない。失敗しても、「一生会わない」ですからね(笑)。

加藤:(笑)。

カタナを抜いている公務員は見たことがない

加藤:山田さんの中で理想とする公務員像はありますか?

山田氏:ひとりは田中速人さんですね。『えんぱーく』を作る時の上司だったんですよね。もともと、私は評価の低い職員だったんですよ。危なっかしいというか。でね、今思えばね・・・、「その時のメンバーはみんなそうだったなー」と個人的には思います。気も合いましたし(笑)。

 強みもあるんだけど、何かしらちょっと欠陥というか弱みもあるというか(笑)。だけど、その強みを活かしてくれたり、メンバーの居場所をちゃんと作ってくれた。もし、当時のメンバーがこの記事を読んだら、多分、ディスっていることになると思うんですけど(笑)、そういう、普通の公務員には使いづらいような人たちが集まっていた印象があります。

加藤:でも、そういう人たちが動き出した時のパワーはすごいですよね。

山田氏:『えんぱーく』の建設担当の時、田中速人さんに、「これから先、100年とない仕事だ」と言われたんですよ。『えんぱーく』はそれほど、塩尻市で注目される施策、事業だったのです。だから、彼は「日本にないものを作るんだ」と言って仕事に向き合っていました。

 それと、「公務員はみんな優秀だ」、「良いカタナを持っている」とも言ってくれた。ただ、さらに続けて「カタナを抜いているやつは見たことない」って(笑)。

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責任は全部俺が取る とにかくやってみろ

山田氏:で、「自分はもうカタナの鞘は持っていない」と。この言葉からは、退路を絶ってやりきる覚悟を感じました。田中さんからは、「お前らが一歩踏み出してみろ、二歩踏み出せ、三歩踏み出せ! もし三歩目で、俺が思っている方向とちょっと違ったら、肩叩いてやる。責任は全部俺が取る。とにかくやってみろ」という言葉をいただき、いまでも思い出します。

 そんな事言われたらやるしかないでしょ。そういう上司がいたから、自分も行動できたと思っているんです。

加藤:素晴らしい方ですね。

次は自分がそうなる番

山田氏:だから、次は私がそうなる番だと思っています。それには田中速人さんが挑戦をして『えんぱーく』でチャレンジしたように、私自身も前例がないことや、どこの自治体もやっていないプロモーションをやる。

 それに次の代の子たちに、「やってみろ。俺が責任取るから」、「大丈夫、俺もやってきた」という姿を見せておかなきゃいけないなと。

加藤:なるほど。

帰ってくるところは 俺のとこしかないだろ

山田氏:あと、田中速人さんは2015年、第5次総合戦略のシティプロモーションがスタートして、これからの新しい9年間を戦略的に進めていくという時の、企画政策部長だったんですよ。

 そのタイミングで、私は3年間、商工会議所で新しいことを好き勝手やって、元ナンパ師と言われて『TED x Saku』に登壇させていただいたり、『nanoda』も注目されて全国各地に呼ばれて講演もやっていた。それを見て、「帰ってくるところは、俺のとこしかないだろ」って言ってくれたと個人的には思っています。

「『お前は何もやらなかったな』という酒は飲めんぞ」

山田氏:彼は、退職前の最後の1年だったんですけど、「俺に単なる計画だけを作らせるのか?」、「計画を作る中でも自由に打ち手を出していけ。そういう部署だから」って言ったんです。

 実は、それでぎりぎりその年度末の2月に、『MICHIKARA』の実施にこぎ着けたんですよ。その時に、「山田お前、5年10年たった時、『あの時は、あれをやらかしたな』という酒は一緒に飲める。だけど、『お前は何もやらなかったな』という酒は飲めんぞ」って言われました。

加藤:カッコいいですね。

成功したら山田くんの手柄 失敗したら私の責任

山田氏:こういう寛容性を持った人がいるから、自分は能力が発揮できると思うんです。今の部署に来る前の3年間、商工会議所に出向したんです。当時、山田正治会頭は「これから先のことは、若い人たちが挑戦しなきゃいけない。とにかくやれ」と言ってくれた。

 しかも、「成功したら山田くんの手柄、失敗したら私のせいにしなさい。私はもう75歳。山田くんの失敗は、全部墓場に持って行ってあげる」と。

『地域で挑戦する若者を応援する大人』を増やしたい

山田氏:寛容ですよね、本当にね。

 私は一歩踏み出す職員の数自体がKPIになっていけばいいと思っています。それと、山田正治会頭、田中速人さん、牛山久仁彦先生のような「俺にはわからないからやってみろ。でも責任は俺たちが取るんだ」と言える大人の数も大事です。地方創生に求められるもののひとつが、「『地域で挑戦する若者を応援する大人』をいかに増やすか」、私はそう考えています。

加藤:それ、すごく大事ですよね。

山田氏:最近、経産省の若手職員、次官がまとめた資料の中でも書いていたじゃないですか。「お年寄りが増えて、ひとりがひとりを支えるんじゃなくて、若者を支える高齢者をどう増やしていくか」っていうね。「いいぞいいぞ」と思って。

※本インタビューは全7話です

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