インタビュー

【○○市 匿名A氏:第2話】児童相談所への相談件数は右肩上がりが続いている

匿名

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相談件数は急増から頭打ちとなっている

加藤:非常にプレッシャーのかかるお仕事ですね。児童虐待という問題を解決する上では、市役所以外の組織との連携はどういったものがあるのでしょうか。

A氏:児童相談所をはじめとして、保育園、小学校、中学校、そして、病院や保健所などですね。発生の抑制というのはどうしても難しい面があると思うんですけど、ケースが悪化するのを防ぐ支援体制はだいぶ充実してきていると思います。

加藤:相談に来る件数は、昔に比べてどう推移しているのでしょうか。

A氏:○○市の例で言うと、3年前ぐらいをピークに今はちょっと下がって来ているんですけど、それまでは急激に増えていました。

児童相談所への相談件数は右肩上がりが続いている

A氏:ただ、全国的に児童相談所への相談件数は今のところ右肩上がりが続いています。ここ数年で、その伸びの大きな要因と言われているのが、子どもの面前での夫婦ゲンカです。夫婦ケンカを子どもの前で見せていることは心理的虐待にあたるため、警察署から児童相談所への虐待通告となり件数が伸びています。
 それらの対応で、児童相談所では人員が足りず疲弊してしまい、より重篤なケースへの対応がおろそかになってしまう恐れがあることが大きな課題となっています。

加藤:児童相談所と市役所というのはどう連携しているのですか。

A氏:単純に言うと、虐待のリスクアセスメントとして程度が重い案件が児童相談所で、比較的軽いものが市という感じで対応を分担しています。ただ、児童福祉法の中で、どちらに対しても通告しても良いということになっていますので、通告を受けた方がまずは主になって動いています。

 そして、市に通告が来た場合でも、ケースの重さを見て児童相談所に一緒に動いてもらうこともあれば、逆に児童相談所に通告がきたものの、ケースは軽くて市で対応して欲しいという依頼が来ることもあります。

 ○○市は児童相談所と良好な関係で動けているので良いんですけど、地域によってはそうではないこともあるようです。別々の組織ですので必ずしも上手くいっている地域ばかりではないと聞いています。なので、両機関が安定した役割を果たす上では、『お互いさまの精神』で協力できるに越したことはないと思います。

加藤:さきほど児童相談所の通告件数が増えたという話がありました。これは、純粋に発生件数が増えているのでしょうか? それとも今までも起きていたけど、通報されなかったものがされるようになったのでしょうか?

A氏:以前、研修で伺った話なのですが、日本では、児童虐待を人権問題として捉えるようになったのが、アメリカに比べて何十年か遅れているとのことです。先に環境が整ったアメリカも、通告件数がずっと右肩上がりになった後に落ち始めました。

 それは実際の件数が増えているというだけではなくて、「社会的に児童虐待への認識が広まってきているから、相談件数が増加しているということもある」と、言われています。今、日本もその流れを追っているので、「しばらくしたら今後はアメリカと同じように、下がり始めるんじゃないかとは言われている」と、研修で伺ったことがあります。

 ちなみに、実際問題として、児童虐待が昔と今で、どちらが多いかというと、昔は暴力があってもそれがすぐに『虐待』に直結するイメージでなくて、『折檻(厳しくしかること、肉体的苦痛を与えること)』とかそういう定義に入っていたこともあり、比較としてはなかなか取れないという話があります。

 例えば、わたしが子どもの頃、『スクールウォーズ』というドラマが人気だったんですが、それなんかも暴力を肯定するように見える部分もあって、そういうのが当たり前の時代があったわけですよね。もちろん、理由もなく殴ったりするのは論外ですが、『叩く・殴る』が当たり前の時代で育ってきていると、スポ根的なしつけで「子どものため」と思って叩いたりしている場合もあります。その意識を修正していくのはなかなか難しいですよね。

加藤:確かにそうですね。

全国での死亡事例数はピークから下がってきている

A氏:全国での児童虐待による死亡事例については、厚労省が子ども虐待による死亡事例等の検証結果を、平成15年から報告しているんですけど、平成18年から20年をピークに、その後は下がってきているんですよ。それは、しっかりと対策が取られてきた結果だと言われています。

 今は赤ちゃんが生まれた時に、全ての赤ちゃんに保健師などが、『新生児訪問』といわれる乳児家庭全戸訪問事業として、ご家庭を訪問しているんです。もともと児童虐待の死亡事例の半数近くが0歳児なんですよ。ですから、0歳児のうちにしっかりフォローを入れることによって、死亡事例が減ってきているということが、大きな成果になっていると思います。

加藤:市が『新生児訪問』のために、人を送っているのでしょうか。

A氏:はい。母子保健担当部署の保健師さんたちが自宅に訪問して、赤ちゃんの体重を量ったり、お母さんに地域の育児情報を伝えたり、「育児で困っていることないですか?」って相談に乗ったりしています。

組織として質を落とさずサービスを維持する難しさがある

加藤:お仕事に関わる中で、課題に感じる点はどういうところでしょうか。

A氏:課題ですか・・・。一番は人が少ない。○○市では非常勤職員として相談員、保育士さらには心理士がいるので比較的充実しているんですが、正職員は2人しかいない訳です。当たり前の話として人事異動がある環境の中で、一定以上の対応スキルを維持していかなければならないというのが課題になりますね。

 自分はたまたま以前障害福祉課でケースワーカー(※福祉サービスを必要としている人の相談に乗り、福祉施設の入所や生活保護を必要とする人への適用手続きをする)の経験があったし、小中学校とのやりとりも教育委員会にいた時にできた人脈があったので、ある程度対応できていたのだと思います。

 人事異動してきた人がすぐに育つかというと、それも限界があると思っていますし、そもそも○○市のような20~30万人都市でもこのようなぎりぎりの体制です。児童福祉法が改正され、市町村がもっと児童虐待対応を担うような流れができていますが、全国の市町村単位で、今後どこまで児童虐待への支援ができるのかというと、難しい問題だろうとは思います。

加藤:実務レベルでの経験者がいなくなってしまうというか、今の担当が異動できなくなるということですか?

A氏:児童相談所は、基本的には福祉に関する専門職しか配置されないんで、そういった人材はどこに異動しても大丈夫だとは思うんです。ただ、我々のような事務職員は全然畑違いの所から来て、いきなりそれをやるので、すぐに適応できる人というのは限られるんじゃないかなと思います。

 それでも「各自治体で対応していくように」という流れを今、国の方で示してきているので、自分が異動しても組織として回るようなシステムを作らねばならないというところですよね。

※本インタビューは全6話です

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