インタビュー

【奈良市長 仲川げん氏:第5話】リスクマネジメントは『仕組み』と『意識』

仲川げん TOP5話目

行政がはっきり断れないことが 他の市民のロスになる

加藤:嫌がらせをする理由というのは、市長がいろんなことを改革しているから、それが気に食わないので、「足を引っ張ってやろう」ということなんでしょうか。

仲川市長:どうなんでしょう。どこに行っても相手にされないけど、役所に行くと話を聞いてもらえるっていうのはあるんですよね。

 たとえば、電話に出たら「墓石買いませんか?」とか言われることがあるじゃないですか。あんなもんね、個人にかかってきたら、「結構です。ガチャン」で終わりじゃないですか。だけど、役所にかかってきた電話はなかなか切りにくい。

 もちろん、本当に困っている声なき声を聞くって意味では広聴機能は重要なんですけども、聞いてもしょうがない話、意味のない話は、「あなたの電話に対応するために、我々は税金で雇われているわけではない」とはっきり説明して断ればいいのですが、これが難しい。そういうのって、他の市民からするとロスでしかない。

加藤:そこに人件費がかかっていますからね。

本当に困っている人は「助けて」という声すらあげられない

仲川市長:そう。それに、本当に困っている人は、「助けて」って声すらあげられない。私は前職でNPOをやっていたので、行政の支援やサービスから漏れ落ちて、困っている人たちをたくさん見てきた。

 単純な比較はできませんが、それと比べると、行政相手にいろいろ要求してくる人たちっていうのは、言うほど困ってない人もいる。その人たちのために、貴重な資源を優先して配分するっていうことに、市民の合意はなかなか得にくいだろうなというものも多いです。これからは「子どもからお年寄りまで」「おはようからおやすみまで」みたいな、必要以上に何でもやるような行政サービスは財政的に維持できない。

 もし、それを望むのであれば当然、高負担・高福祉にならざるを得ない。もちろん、どちらも選択肢としてあってもいいと思いますが、いずれにせよ受益者負担を意識する必要があります。最終的には、住民がどう判断するかだと思います。

財政を支えている人と受益者が一致していない

加藤:クレーマーもそうですけど、そういう意見って、声の大きい少数派みたいなケースって多いじゃないですか。

仲川市長:そうなんです。奈良の場合は、日本で一番越境通勤率が高いので、市政にあまり感心のない住民が多いのも確か。こういう人は、役所にクレームを言ってくることはまずない。「言うこと聞かんかったら、税金払わんぞ」と大きな声でクレームされる方に限って、税金を払っていなかったりします(笑)。そういう意味では、実際に奈良市の財政を支えている人たちと、行政サービスで受益している人たちが一致しないわけです。

加藤:そうすると、大阪にサラリーマンとして通勤し、税金だけ天引きでとられている人たちは、不満を感じることになりますよね。

不正をなくすには まず『仕組み化』

加藤:不正に困っている行政の方に参考になればと思うのですが、市長が就任されて、不正に対応していこうと思った時に、具体的にはどう進めたのでしょうか。

仲川市長:私は就任して最初の記者会見が、謝罪会見だったんです。生活保護の担当職員が横領していた。前市長時代の問題とはいえ、後ろを振り返っても誰もいない(笑)、当然、その時点の最高責任者が責任を求められる。この事件に関しては市側にも甘い部分があって、保護費を現金支給している割合が高かった。当然、そこにリスクが生じるわけです。

 ですので、まず仕組みを変えました。支払方法やチェック体制を再確認して、つけ入る隙がない仕組みを作った。外から入った私が見ると、疑問を感じる部分が多く、1つ1つ想像力を働かせながら手続きを見直しました。
仲川げん 5-3

監査の質を高めるには専門家が不可欠

仲川市長:他にも自治体には監査制度がありますが、これが形式的な部分が多い。多くの自治体ではいまだ、職員OBが務めているところがありますが、これは行政にとって都合がよいだけ。本当に意味のある監査をしようと思えば、やはり専門家が不可欠になります。奈良市では代表監査が公認会計士、もう一人は弁護士です。

 これは不祥事が起きた際の懲戒処分などでも同じことが言えます。奈良市の場合、職員の分限懲戒審査委員会(職員の分限処分[*1]及び懲戒処分について審査をする)は5名の委員のうち純粋な市職員は1名。あとはすべて外部有識者です。

[*1]「分限処分」=職員が一定の事由により、その職責を十分に果たすことが期待できない場合に、職員に不利益な身分上の変動をもたらす処分

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仲川市長:よく不祥事が起きると、市民からは「処分が甘いのではないか?」という声を頂きます。一方で、そういう声に押されて、パフォーマンス的に基準以上の処分を行うのも問題。その意味においても、しっかりとした知見を持つ外部人材を登用することが不可欠だと思いますが、全国の自治体では委員には職員しかいない、というところが結構残っています。

市役所内の現金の取り扱いを全て点検した

仲川市長:話を就任直後の生活保護費横領事件に戻すと、当時は生活保護の受給者に対して、振り込みではなく、現金で渡しているケースが沢山ありました。そこで受給者が受け取ったように見せかけて、勝手に判子を押して自分が受け取る、という手口で横領していた訳です。もちろん、その職員個人の資質の問題もありますが、仕組みとしてつけ入る隙のある、甘い部分があったのも事実です。

 そこで、市役所内の現金の取り扱いを全て点検しました。生活保護受給日に、銀行からどのルートでどうやって現金を運ぶのか。運ぶときには何人で運んでいて、どういうリスクヘッジをしているのか。持ってきたお金を金庫に入れて、金庫の鍵は誰が管理するのか。お金をお渡しする時には、どういうチェックリストを使っているのか、など。

リスクマネジメントは『仕組み』と『意識』

仲川市長:民間の金融機関とか外資系企業とかですと、定期的に「今日から1週間休め」みたいに言われるじゃないですか。机からパソコンからやり取り全部を調べられる。それは「疑われたから気まずい」ということじゃなくて、組織を守るための仕組みなんでね。

 ところが役所は疑うということ自体をあまり『良し』としない。これがエスカレートすると、「ほぼ問題がある」と気づいていても「見て見ぬふり」をするようになってしまう。行政の無謬性(あやまりを犯さないこと)の神話と自己保身がつながると、事が起きるまで発覚しない可能性が一気に高まる。

 そういう意味では、リスクマネジメントは仕組みだけでは高まらない。やはり『意識』なんですよね。これは、そう簡単にパッと変わるわけではない。

※本インタビューは全9話です

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