インタビュー

【和光市長 松本武洋氏:第6話】民間は『格闘ゲーム』、役所は『ロールプレイングゲーム』

和光市 松本市長6

学生の頃は公共の仕事に興味はなかった

加藤:学生の頃や子供の頃は、議会や行政に興味はあったんですか?

松本市長:なかったですね(笑)。最初入ったのがベンチャーキャピタルだということで、お分かりかと思いますが、私はもともと株式会社というものの持つダイナミズムが大好きなんです。

 その後、たまたま、出版社時代に公会計の本を編集したんですが、それが非常に面白い分野でした。その本を作る中で「公共部門の中長期的な資産形成の把握」とか、「資産のライフサイクル的な考え方」というのを教えてもらいました。

 そして、中世の公会計から説き起こしていくような内容だったので、歴史的な面白さにも触れたりする中、自分の地域の合併問題もあったりしたので、公共の仕事をやってみたいと思い、議員選挙に出ることになりました。

議員さんには当事者意識を持って欲しい

加藤:市長は議員から市長になられました。そのご経験から、どういうことを議員さんにアドバイスしたいですか?

松本市長:議員は民間企業でいう外部取締役と外部監査役を合わせたような立場だと思うんです。役割の一つは『議決』、要するに意思決定をすること。それからもう一つは『チェック』をする、要は監査的な役割ですね。

 議員には当事者意識がある方とない方の差があります。極論すると「自分が市長だったらどうするか」という観点で物事をおっしゃる当事者意識の高い議員さんと、「外野から石を投げてくる」ようなタイプの議員さんがいると思うんですが、私としては前者であって欲しいですね。

 それと、議員さんがどうチェックしているかによって職員の動きが全然違ってくるんですよね。職員が雑な仕事をして失敗したとしても、議員さんがそれにチェックを入れられないような状況であれば、職員の意識や仕事ぶりは非常にゆるみます。

 逆に議員さんが、職員の仕事を本質的なところでチェックできると、職員も緊張感を持って仕事をします。だから、当事者意識を持った、しかしながら怖く鋭い議員さんこそが行政にとって非常に良い役割を果たせると思うんですよね。単に石を投げ込んでくるなら、防ぐだけですから。

民間は『格闘ゲーム』、役所は『ロールプレイングゲーム』

加藤:地方自治体の中でお仕事をされている『だいご味』は何だと思いますか?

松本市長:市役所は基礎自治体というだけあって、人の暮らしや人生を直接サポートする仕事です。

 泥臭いことばかりで、夜中に市民から「道に穴が空いているからなんとかしてよ」と言われることもあります。そういった時には夜中のうちに私が現場を見に行って、その日に写真つきのメールを担当職員に送ったりするんです。そうすると、担当が翌日の朝にメールを読んで資材を担いでいって埋めることもあって、たまたま、私が昼間に通ったら穴が埋まっていて私自身がびっくり、と(笑)。

 例えば、市役所が道路を整備して安全に人が通れるようになったとすると、クオリティオブライフが上がるわけですよね。あるいは、保育園ができて待機児童が減る、学校の教育が良くなって子供の学力が上がるというのも全て同じです。

 会社の仕事はわかりやすく成果が出るので、やっていると痛快で、『格闘ゲーム』のようなものだと思うんです。役所はもうちょっとジワジワくる『ロールプレイングゲーム』のようなところがあって、日々の仕事の積み重ねなんですよね。

 本当に公共の仕事って面白いので、もっといろいろな人に当事者として参画してもらいたいですね。

加藤:本当に、素晴らしいお仕事だと思います。ありがとうございます。

松本市長:こちらこそ、ありがとうございました。

和光市松本市長 市民3

編集後記

「市民のために失敗して、自分の首が飛ぶのは構わない」。笑っておっしゃっていたが、その笑顔の裏には決意と厳しさがあり、それが空気を介してひしひしと伝わってきた。松本市長が就任以来、着実に成果を積み上げているのが頷ける。

 地方自治体は本当に多種多様な仕事を抱えている。窓口やPRなどの、民間人に馴染みのある仕事もあるが、地味な仕事も多い。民間企業と同じように経理や財務、経営企画のようなバックオフィス系の部署はもちろん、建築、水道のようなもの。そして、セーフティネットとなる消費者保護や、年金、高齢者支援、障害者支援などもある。ただ、これでもまだ、役所が行う業務の一部に過ぎない。

 これだけ広範囲の仕事を持つ組織だが、意外と人の数は多くない。和光市の場合、なんと正規職員の数は400人強、加えて非常勤職員などが約200人ほどだ。そういう意味ではかなりのスリム化がなされているように見えるし、これは和光市だけではなく、多くの地方自治体が職員の数を削減してきている。

 

 ところで、最近よく思うことがある。優秀な成果を残した若い首長には、他の地域でも首長になって欲しいのである。結果を出している首長の方は、ベースの能力にプラスして、自らが得た成功体験を持っているからだ。

 地方創生の肝は成功体験の横展開。そして、組織はつまるところ人である。だとすると、理論上は成功を産み出した首長が、また別の地域の首長として仕事をした場合、成果を出す確率が高いはずだ。

 民間企業では、成果を出したリーダーに重要なポジションが任される。そして彼らは、異動をしても安定して大きな成果を出す。もっと身近な例だと、本当に売れる営業マンは何を売っても売れる。これと同じように、成果を出した首長が転々とすることで、日本は地域地域における現場から、人々の生活を良くしていけるのではないか。

 もちろん、現状では課題もある。選挙における『地盤』の問題などもあり、首長に対するリスクや、肉体的および精神的な負荷が大きいのは間違いない。しかし、これから先の未来では、少しずつではあるが、特定の組織や団体の持つ地盤の力は弱まっていくだろう。

 今、若い市長が結果を出すことが増えてきた。そして次は、若くして成果を出すことのできた首長たちが、全国を飛び回り、さらに活躍していくことで、より良い世の中を作っていく。そんなことを想像するだけでも幸せな気持ちになる。

 それをできるだけ早く進めるには、市民は政治家や行政に何かを求めるだけではなく、かといって無関心であってもならない。人は他人を変えることは難しいが、自分は変えられる。まず、自分たちが参加意識と当事者意識を持ち、真剣に選挙に向き合うだけでも、その地域や世の中を変えていく力があることを自覚するべきではないだろうか。

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